共感力コミュニケーションが必要な理由
前回は、モチベーション作りには3S、すなわちShounin(承認)、Shousan(称賛)、Shourei(奨励)が必要である事をご説明いたしました。今回は、その3Sをどう伝えるかについて考えてみましょう。
感謝しているつもりなのに冷たい態度ととられてしまう、褒めたつもりなのに認めてくれないと思われている、励ましたつもりが叱責ととられた、などの経験はないでしょうか?
3Sとは、情報ではなく、感情です。スペックではなくて、ストーリーです。情報を伝えるコミュニケーションとは違い、3Sを伝えるには、自分の感情を表現し、相手の感情に寄りそうという特別なコミュニケーションスキルが必要になってきます。それが、ここでご紹介する共感力コミュニケーションの手法です。
共感力コミュニケーションという言葉からは、思いやりや熱意といった漠然としたイメージを持つ人も多いかもしれませんが、コミュニケーションは熱意だけでは成立しません。コミュニケーションのしくみを理論的に学ぶ事で、伝わるコミュニケーションが身に付くようになります。
共感力コミュニケーションとは、相手の視点で物事をとらえ、そこで生じる感情を想定し、その感情に寄りそうことです。感情や感動を分かち合うプロセスが、信頼感を生みだし、よい関係を作ることにつながります。
共感力コミュニケーションの始め方
共感力コミュニケーションはスタートがとても大切です。同じ内容の話でも、スタート次第で伝わり方が変わってきます。そのスタートは、「心の扉」を開ける事から始めます。
接客の場面でも、「アイスブレイクとか、雑談とか、まずは気持ちをリラックスしてもらう話をしなさい」などと上司に習ったことがある人もいるかもしれません。
天気の事や、世間の出来事などさしさわりがない共通の話題から始める、ということは普段から何気なくしていることです。しかし、共感力コミュニケーションで意味する心の扉を開けるということは、それとは少しニュアンスが違います。
話が始まる前に、相手が「話を聴きたくなる」「話したくなる」という気持ちになってもらう事。こちらを向いてもらってから本題に入るプロセスです。それを「tuning(チューニング)」と呼びます。どこかで聞いた事がありますね。そうです。楽器の音程合わせです。オーケストラの演奏の前に、全部の楽器が音程を合わせている様子を見た事があるでしょう。コミュニケーションも、話を始める前に心の音程を合わせておく、というプロセスが必要なのです。
マーケティングにAIDMAの法則という伝統的な手法があります。Attention(注意)、Interest(関心)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動)の略ですが、インターネットの普及により、AI以降の行動がSearch(検索)、Action(行動)、Share(共有)と変化し、AISASの法則と呼ばれています。
注目したいのは、時代が変わっても、最初のAIは変わっていない、という事です。顧客に商品を購入してもらうには、まずはAttention、「えっ?」という注意を引くきっかけを作る事から始め、次にすかさず、Interest、興味を持ってもらう、という冒頭の流れは時代が変わっても同じようです。それは、このままコミュニケーションに置き換えることができます。
話の本題に入る前に、注意を惹き興味を持ってもらうことをすることによって、相手の心の扉はようやく開きます。このチューニングをするかしないかで、伝わり方が大きく変わってくるのです。チューニングをしないで話を始めることは、閉まった扉の外で怒鳴っているのと同じ事。チューニングをして、扉が開いた事を確認してから、話を始める習慣を付けましょう。
チューニングをするには、情報集めが必要です。相手のことをよく知っていればいるほど、チューニングはうまくいきます。
例えば
「みずがめ座にどうして賢い人が多いか知ってる?」これがAttentionです。
「えっ?」と相手が驚くのは、実は相手がみずがめ座だからなのですが、それを事前に知っていてわざとみずがめ座ネタを使って、こちらを向いてもらうのがAttentionです。
「○○さんも、みずがめ座だよね。去年、バレンタインデーに、『誕生日だからお情けチョコかな?』って嘆いていたもんね。みずがめ座は、頭の回転が速い人が多いんだって。平均IQも高いってwebに書いてあった。星座とIQって関係あるのか? って思ったけどさ」ここまでがInterestにあたります。
自分がみずがめ座だという事を覚えていてくれた。さらに、1年も前のなにげない会話を覚えていてくれて、そこからみずがめ座である事まで拡大して覚えていてくれた。という、自分に対する興味を感じることによって、相手は心の扉を喜んで開けてくれるのです。ささいな情報でよいので、相手にしかできない話題を準備して話を始める。これがチューニングです。
称賛の共感力コミュニケーション
チューニングによって、心の扉が開いたら、次はいよいよ本題に入ります。称賛はモチベーションを上げてくれます。後輩でなくても、褒められれば嬉しいのは誰もが同じ。その称賛も、褒め方を工夫するとさらにモチベーションがアップします。褒める人を変える事が一つのやり方です。自分ではない他の人に褒めてもらう、つまり、他の人が褒めていた話を間接的にする、という方法です。
SNSでいう「いいね」を付けることですが、それを可能にするのが、心理学でウインザー効果と言われる第三者意見の伝達です。直接伝えるよりも、間に一人か二人を介して伝えたほうが、嬉しさが倍増する、という心理です。
後輩に「君がいて助かるよ」と直接言うのではなく、「部長から『後輩に〇〇さんがいるなんて君は運がよいね。彼のエクセル資料は読み易くて、ミスひとつない』と言われたよ。直接会っていなくても、部長は○○さんの作る資料を通じてきちんと見ていてくれているんだね」と、「部長」という第三者の意見を通じて、後輩を褒めるほうが、嬉しさが倍増すると言われています。
これは「自分を褒める情報」が、二人以上の人に共有されていた、認識が起こるためなのです。人を褒める時は、人の口を借りる。さらに、「エクセルの資料」のように、必ず具体例を入れること。これが共感力コミュニケーションのコツです。
共感力コミュニケーションには、相手の情報が絶対不可欠なのです。相手をよく知ることがより共感を呼ぶ褒め方につながるのです。
奨励の共感力コミュニケーション
AIやロボットが発達して、介護の場でも人の仕事が減ってきているそうですが、人にしかできない仕事がリハビリのサポートなのだそうです。リハビリのマシンはAIが操作できても、側にいて、声をかけ、励ましてあげる仕事だけは、AIは代われない。人を励ますのも、人にしかできない共感力コミュニケーションと言えます。
称賛が過去の結果に対してするものなら、奨励は未来の結果に向かっていくパワーを与えることです。ここでも、具体性が重要です。「がんばれ!」とか「元気だせよ」とか「やってみろよ」などの一般的な言葉よりも、「今度はTOIEC初の700点台目指してみれば? 前回660点だったんだからあと50点だよ。700点台取れれば、シンガポール支社の出張も声がかかりだすよ」といった具体性を持った奨励に効果があります。
後輩の前回のスコアを知っている事が伝わることで、親身な姿勢の先輩として受け止めてもらえます。また、『シンガポール支社への出張』という具体的な目標を示してあげることで、モチベーションを瞬時に生むことができます。
以上、共感力コミュニケーションと3Sの伝え方をご紹介しました。キーワードは『具体的な表現』ですね。次回は『後輩のモチベーションを作る3つの道具 (1)地図』になります。