7月10日の投開票が決定した参院選。民意を反映させる重要な機会だが、社会科の授業を離れてから幾年月、国政選挙にまつわる単語や仕組みについて実はあまりよくわかっていないという人も少なくないはず。
そこでマイナビニュース読者のアンケートであがった参議院や選挙に関するギモンについて、全5回にわたって名古屋大学の斎藤一久教授に回答・解説してもらった。4回目の今回は全3回までに度々出てきた"一票の格差"をキーワードに問題を掘り下げてみた。
■"一票の格差"の問題とは?
――まずは "一票の格差"について教えてください! なんとなく地域格差の問題という認識はあるんですが……。
「一票の格差」は、人口に比例した議員定数の割り当てがなされておらず、選挙区ごとに1票の価値が異なっていることを指します。
例えば、人口100万人の選挙区で国会議員一人が割り当てられているA区と、人口20万人で国会議員一人が割り当てられたB区があったとします。その2区を比較すると、100万人の選挙区の有権者が投票する1票は、B県のわずか5分の1しか価値がないということになります。これでは一人1票の投票でも、選挙に与える影響が変わってしまうのです。
ちなみに、「一票の格差」問題は、決して衆院選・参院選だけの話ではなく、都議会選挙などでも指摘されている問題です。国会のある千代田区は、住んでいる人が少ないのに1議席あるんですよ。
――同じ1票なのに選挙結果に与える影響力が違うんですね。それでいくと、全体の議席数を増やせば「一票の格差」問題は解決するんですよね?
国際的に比較すると、実は議員の数はもっと増やしていいのかもしれません。ですが、国民の理解を得るのは難しいでしょう。
現在の議員数のままだと、東京など大都市圏の議員を増やすことになり、大都市圏の発言権が当然大きくなります。地方の人からすれば、「都会の意見ばかりが国会で反映されている」となります。
――現実的な問題として、どれくらいの格差になると問題視されるのでしょうか?
一人1票の原則から考えると「一人2票分を持ってはいけない」、つまり2倍を超えてはいけません。したがって2倍未満は許容範囲とされています。
あまり知られていないかもしれませんが、過去の参院選では一票の格差が6.59倍まで広がったときがありました。
――そもそも2倍を超えてはいけないという話なのに、すごい数字ですね。でも、もちろんこのような状態を放置してはいないですよね?
そうですね。一票の格差によって選挙の無効を求める「議員定数不均衡訴訟」で最高裁は、過去に2回違憲判決を衆院選で出しています。また、参院選でも、数年以内にどうにかしないと違憲にするぞと言う"違憲状態"という判決を3回出しています。
ただし最高裁は違憲判決を出していても、選挙を無効にして、やり直しをさせたことは一度もありません。理由としては、その選挙で選ばれた議員が無資格となってしまうことで、憲法の予期しない混乱が起きてしまうのを回避するためです。
――――そんな……。では、今回の参院選では格差はいくらか改善されるのでしょうか。
格差を是正するということは、ある選挙区の議員を減らすことになります。これは、国会議員のリストラを指すことでもあります。国会議員として自分のクビを切らなきゃならないので、そう簡単に進む話ではありませんね。
今回の参院選が正確にどんな数字になるかは選挙当日に調べないとわかりませんが、前回の参議院選挙と同じく格差が3倍ぐらいあるまま突入するでしょう。地方の人口減少などが進んでいく昨今において、どんな選挙制度を構築していくかは選挙の在り方とともに、考えていかなければならない課題です。
意外と尋ねられたら答えにくい「選挙のギモン」。ぜひ、記事を参考にギモンを解消していってほしい。
監修者 : 斎藤 一久(さいとう かずひさ)
名古屋大学法科大学院教授。1972年、新潟県に生まれる。早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程退学後、東京学芸大学准教授を経て、現職。その間、フランクフルト大学客員研究員、テキサス大学ロースクール客員研究員。専門は憲法学・教育法学。大学院では主として裁判官、検察官、弁護士などの法律家を目指す学生を指導しているが、高校生、大学生、一般人向けに憲法や選挙についての著書も執筆している。著書に『高校生のための選挙入門』『高校生のための憲法入門』(すべて三省堂)、『図録日本国憲法〔第2版〕』『教職課程のための憲法入門〔第2版〕』(すべて弘文堂)、『教職のための憲法』(ミネルヴァ書房)など、翻訳書に『憲法パトリオティズム』(法政大学出版局)などがある。
『図録日本国憲法〔第2版〕』
400点にせまる写真・図解で、教科書の行間に広がる豊かな憲法の世界を実感できる、新しいタイプの憲法教材。