7月10日の投開票が決定した参院選。民意を反映させる重要な機会だが、社会科の授業を離れてから幾年月、国政選挙にまつわる単語や仕組みについて実はあまりよくわかっていないという人も少なくないはず。
そこでマイナビニュース読者のアンケートであがった参議院や選挙に関するギモンについて、全5回にわたって名古屋大学の斎藤一久教授に回答・解説してもらった。3回目は選挙区はどうやって決められているのか? という謎に迫る。
■選挙区は変わる!?
――参院選の場合は原則、都道府県別の選挙区割りになっているんですよね。反対に衆院選における「小選挙区制」の区割りはどのように決められているんですか?
学者などで構成された選挙区割りの審議会があり、そこで中立的に決定されています。選挙区はずっと変わらないわけではなく、人口の変化とともに変わっているんですよ。
――ずっと同じなわけではないんですね。選挙区の引き直しはどんなタイミングで行われるんですか?
以前は10年に1回の国勢調査に合わせて見直していましたが、次の衆院選からその間の簡易の国勢調査も使いながら、アダムズ方式という計算式に基づいて引き直すことになっています。それゆえ5年ごとの見直しになります。前回もお話をしましたが、エリアによって一票の価値が異なる「一票の格差」を是正するために区割りの見直しが必要なのです。
――昔より頻繁に引き直すことになったんですね。
はい。人口比率が変化するように、選挙区の区割りも変わっていきます。
どう変わっているかと言うと、例えば人口が減っている地域では選挙区が広くなる傾向にありますね。選挙区が広くなるぶん、2人の国会議員が1枠を争うことになったりします。人口が増加している東京では、次の選挙で5つも選挙区が増えます。そのようなタイミングで選挙区割りについて報道され、区割りの変化に気付かれる人はいるかもしれません。
――引き直しによって、大きく選挙活動が左右される候補者も出てくるのでは?
そうですね。引き直しによって大きな票田(多数の得票が見込まれる地域)だった地区を失ったり、事務所を移転しなければならない国会議員もいます。ただ東京のような大都市圏は、どの政党かで選んでいるのではないでしょうか。東京の下町にずっと住んでいるとか、子どもが学校に通い始めたことで地域への関心が強い人も当然いるでしょうが、「誰が地元の国会議員か」というのは、地方と比較すると重視されにくい傾向にありますね。
――ちなみに参院選における「合区」もある意味、選挙区の引き直しですよね?
そうですね。前回にもこのお話をしたのですが、参院選の選挙区は原則都道府県ごとに分かれています。ただし、人口に比例した定数の割り当てができておらず、1人あたりが持つ一票の価値が変わってしまう「一票の格差」という問題があります。これを是正するために、「合区」ができています。実際には、人口の少ない「島根と鳥取」、「徳島と高知」は、それぞれ2県で1選挙区となっています。
――でも、それでいくと「合区」は他のエリアにもあてはまる問題ではないでしょうか?
そうですね。今後、合区が増えていく可能性はもちろんあるでしょう。ですが、どの都道府県を合区にするのかと言ったら、なかなか難しい問題です。いくら人口が少なくとも関西の県と北陸の県をくっつけるのは、さすがに無理がありますよね。たとえ合区を作ったとしても都市圏と比べると、一票の格差は残るので、システム的にも限界はあるはずです。
また忘れてはならないのが、政党や候補者側も大変だということですね。島根・鳥取なんかは非常に広く、選挙区で合区になると選挙運動がそれまで以上に苦労することは予想するに難くないでしょう。
さらにポイントとして、参院選の比例代表では政党の決めた順位に従って優先的に当選できる仕組み「特定枠制度」というものが導入されています。党によっては島根・鳥取の選挙区選挙で出られなかった地方候補者を特定枠に出す、というようにバランスを取っていますね。例えば島根の候補者が選挙区選挙に出た場合、鳥取の候補者を比例代表で当選しやすい特定枠にしてあげるという感じです。
――そんな制度があったのですね。ただ、合区ってそもそも制度としてアリなんですか……?
実は憲法には、参議院議員は都道府県代表ではなく、あくまで"全国民の代表"としか書かれていないため、アリと言えばアリですね。
ですが実際は、都道府県別の選挙区割りになっているので、憲法の条文と実際の政治には若干の乖離があると言えるでしょう。そういう意味では参議院の役割を見直すことも必要かもしれません。
意外と尋ねられたら答えにくい「選挙のギモン」。ぜひ、記事を参考にギモンを解消していってほしい。
監修者 : 斎藤 一久(さいとう かずひさ)
名古屋大学法科大学院教授。1972年、新潟県に生まれる。早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程退学後、東京学芸大学准教授を経て、現職。その間、フランクフルト大学客員研究員、テキサス大学ロースクール客員研究員。専門は憲法学・教育法学。大学院では主として裁判官、検察官、弁護士などの法律家を目指す学生を指導しているが、高校生、大学生、一般人向けに憲法や選挙についての著書も執筆している。著書に『高校生のための選挙入門』『高校生のための憲法入門』(すべて三省堂)、『図録日本国憲法〔第2版〕』『教職課程のための憲法入門〔第2版〕』(すべて弘文堂)、『教職のための憲法』(ミネルヴァ書房)など、翻訳書に『憲法パトリオティズム』(法政大学出版局)などがある。
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