あっという間に年の瀬。もう大掃除は済みましたか? 最近は掃除機を使うのが当たり前で、箒がないという家庭も珍しくはないでしょう。しかし、電気を使わない、さっと掃除ができる、静か、掃除機のように空気を汚さない……などの理由で箒を見直す傾向も見られるようです。
そもそも箒についてあまり知らない、そう思い、江戸時代より箒を作り続けている白木屋中村傳兵衛商店を訪ねました。伝統の技が作り上げた箒の数々、いろいろと重宝しそうです。
老舗が作る江戸箒とは?
白木屋中村傳兵衛商店の創業は1830年。日本に外国船が近づき始め、幕末へと時代が動き出そうとしていた天保元年のことです。江戸時代中期からは、庶民が暮らす長屋にも畳が普及していきました。箒の需要はぐんと高まったわけです。
「店は銀座で創業し、その後京橋に移りました。このあたりには竹の流通市場があり、箒を生産する一方で、竹製品なども扱っていたんです。実はつい最近まで箒のほかに雑貨や生活用品も置いていました。江戸箒の専門店になったのは4、5年前のことです」
7代目となる高木純一さんはそう話しました。箒は昔からありましたが、「江戸箒」という名前で作り始めたのは白木屋中村傳兵衛商店。いわばこのお店のブランドであるわけです。
現在、職人さんはひとり。その下で2人の若い女性が修業をしています。箒に使われるホウキグサは茨城産。しかし、現在はタイやインドネシアからの輸入が9割を占めているといいます。
ホウキグサは職人さんによって、20等級に分けられ、その使い方のバランスなどにより、江戸箒は「上」「特上」「極上」にランク付けされます。「ホウキグサのやわらかさ、コシの強さやバランスがポイントとなります」と高木さん。例えば、手箒では「上」が6,000円くらいであれば、「特上」は8,000円、「極上」は1万円くらいが目安となります。
西日本では箒も異なる
同店では職人さんが作ったものだけではなく、農家から仕入れたものも販売しています。
「ホウキグサは2、3カ月で収穫できるため、昔は箒作りを副業としている農家がたくさんありました。農家で作られた製品は今も扱っていますが、箒作りをする農家はだいぶ減ってしまいました」
店内には茶色の箒も目立ちます。これはやし科の樹木であるシュロを材料としたもの。「西日本ではシュロの箒が使われてきました。ホウキグサよりも歴史は古いですね」と高木さん。ホウキグサに比べやわらかいため、じゅうたんなどひっかかりがあり抵抗の強い床には向かないそうです。それにしても、西日本と東日本では箒も違うというのは知りませんでした。
一般的な箒のほか、机の上を掃くような小さな箒もいろいろそろっています。衣服用の箒もよく売れるのだとか。また、柄の先が杖のように丸くなった箒もあります。これは箒をひっかけるために作ったもの。箒は穂先を床につけたりして負担をかけると、ダメになってしまうので開発しました。
「箒は3年から5年くらい使い続けると穂先が欠けてきますが、穂先を切ってそろえるようにしていけば10年くらいは持ちます」
電化製品は確かに便利ですが、生活全体が見直され始めている現代、箒も再び注目されるのではないでしょうか。職人さんが丹精込めて作った伝統の技が光る江戸箒は、使い続けるほどに愛着が深まる大切な必需品となるはずです。