就職活動をするうえで、まず大事なことが企業研究だ。就活生に人気の企業ランキングをチェックする方も多いと思うが、就活生からの評価ではなく、取引先からのリアルな評価はより参考になるだろう。Sansanが提供する学生向け企業研究レポート「ECS for アカデミア」の企業ランキングから、同社研究開発部 シニアリサーチャーの真鍋 友則氏に解説をしてもらう。前々回の金融業界、前回のIT業界に続き、今回は就職活動において人気の高い広告業界を深掘りする。
広告業界ランキングの1位は?
ビジネス関係者からの評価を集めた、Eight Company Score (ECS) の広告企業ランキングは1位株式会社博報堂、2位株式会社ジェイアール東日本企画、3位株式会社ADKマーケティング・ソリューションズとなった。
項目別では「ブランドの魅力」では株式会社博報堂、「製品・サービスの有用性」ではジェイアール東日本企画、「人の好印象」では読売広告社が、それぞれトップだった 。
「ブランドの魅力」1位である株式会社博報堂は、持株会社である博報堂DYホールディングスの中核を担う、老舗かつ大手の総合広告会社だ。ガリバー企業電通に対し、規模で2番手、存在感で競合の地位を占めてきた。「製品・サービスの有用性」1位のジェイアール東日本企画は、JR東日本の子会社であり、媒体社として強みとする交通広告の他にも、コンテンツビジネスや地域創生につながるソーシャルビジネス、デジタル広告媒体開発や移動者マーケティングなどの事業を展開している。「人の好印象」1位の読売広告社は、1946年設立の総合広告会社で、読売新聞との取引を社名の由来に持つ。2003年に博報堂、大広と経営統合し、 博報堂DYホールディングスのグループ企業となっており、不動産広告に強みを持つことでも知られている。
ビジネス関係者の評価から読み解く広告業界
総合スコア1位の博報堂と、2位のジェイアール東日本企画のビジネス上の評判の特徴を、ECS調査のフリーコメントから読み解いてみる。
下の図はフリーコメントのワードクラウドを表している。その企業に寄せられたコメントのうち、頻度と特異性の高い単語を文字の大きさで可視化した図である。
1位、博報堂の他企業からの評価は?
博報堂のワードクラウドから、博報堂の評判において最も特徴的なワードは「電通」であることが分かる。古くから「電博」と並び称される電通と博報堂であるが、実際のビジネス上の評判においても、博報堂は頻繁に電通と比較されて評されていることを示す結果だ。
博報堂に対するコメントのうち、「電通」を文中に含むテキストには、例えば次のようなものがみられた。
「臨機応変に顧客ニーズをくみ取り、多角的にアイデア等を提案してくれる。仕事を超えてお付き合いができる社員が多い。特に出版業界とは電通よりも強いつながりがある。絶対の信頼を置いている企業です」 (出版・印刷業、 部門長)
「電博と言われる広告代理店の雄だけあり、提案してくる内容のレベルと見識は一流。 電通よりも歩み寄ってしっかり実行・展開してくれるイメージ」(専門サービス業、経営者)
「電通に次いで二番手の大手広告代理店という認識がある。クリーンなイメージがある」(情報通信業、一般社員)
なお、当の電通は10社の中ではECS総合スコアは最下位という結果だった。この背景には、2015年の過労自殺事件を端緒として報じられ続けた労基法違反関連のニュースや、オリンピック開会式の演出についての週刊誌報道など、ここ数年で相次いだ不祥事や批判報道によるパブリックイメージの悪化があると思われる。
一方で、ECS調査はビジネス上の関係を有する者による評価でもあるため、パブリックイメージに影響されない、ビジネス上の関係性に基づいた評価も回答内に一部存在している。平均値にすると見えなくなってしまうが電通は他企業と比べ、評価が高スコアと低スコアの両方向に分かれる傾向があった。また、高スコアをつけた回答者のコメントには、関係性に基づいた評価が多く見られていた。ここではそのような電通に対する高評価の回答者のコメントを一部紹介する。
「世間では悪く思われているが、それは一部の部署だけだと思う」(専門・技術、部門長)
「世間が思うほどひどい感じはなく、社員は一生懸命働いている印象」(広告、役員)
「社会的イメージは一時より悪くなっているなと感じる。 とは言え、依然として業界をリードしていく存在だと思います」(企画・マーケティング、係長)
当然のことだが、電通のような巨大企業は一口にビジネス関係者と言っても様々な立場の人がおり、また接した部署も多岐に渡るため、その評価のばらつきも大きい。平均値をとるとパブリックイメージ低迷の影響から低い数値に落ち着くが、実際には多様な評価が存在していることには留意が必要だろう。
博報堂のワードクラウドに戻ろう。博報堂では、「電通」と「広告代理店」に続いて「クリエイティブ」というワードの特徴度が高い。クリエイティブとは広告業界特有の用語で広告の成果物や時にはクリエイターの事も含む 。博報堂は著名なクリエイターの輩出や世界的な賞の受賞なども背景にそのクリエイティブ力を誇っている が、外的な評判にもそれが反映されており、企業ブランドの重要な要因となっていると思われる。クリエイティブを含むコメントには次のようなものがあった。
「他の代理店と比較した際にクリエイティブ面で抜き出ている。新しい発想に関してはチャレンジが感じられる」(広告業、一般社員)
「クリエイティブな人材が豊富で、斬新な提案が期待できる」(公務、一般社員)
「クリエイティブが上手。自社のブレインとして必要」(食品、一般社員)
2位、ジェイアール東日本企画の他企業からの評価は?
続いて総合2位で「製品・サービスの有用性」部門1位のジェイアール東日本企画のワードクラウドを見てみよう。最も目立つのは「JR」「JR東日本」と言う文字だが、これはJR東日本のグループ会社と言う認識が強いためだろう。実際にジェイアール東日本企画はJR東日本の子会社であり、JR東日本の広報活動の他、JR東日本が保有する媒体、すなわち電車や駅、駅ビル内での広告企画や枠の販売など交通広告の運営を中心としながら、他の広告媒体を含めた複合的なコミュニケーションの企画を展開している。
ワードクラウドの中に「地方」というワードが見られるが、これは同社が手掛ける地域創生ビジネスについての評判を反映したものだ。関連したコメントには次のようなものが見られた。
「JR東日本との連携で観光需要創出に積極的な企業というイメージがある。」(経営者)
「人にやさしい会社。鉄道のイメージでお固い感じの会社。最近では『広告』だけでなく、地方創生プロジェクト等のJRネットワークを活用されたイベントや事業も展開しており、イノベーションを感じる。」(サービス業、役員)
「本業もすごいし、地域のためにいろいろな活動をしている。」(教育、一般社員)
ジェイアール東日本企画は、2009年の愛媛銀行との連携を皮切りに東日本大震災の復興事業など10年以上にわたって地方創生事業を行っており、2021年4月にはソーシャルビジネス・地域創生本部を新設している。
グループ母体の企業が極めて公共性が高い公共交通機関であること、さらに地方創生事業に本格的に力を入れていることなど公共・社会への貢献が、他の広告会社と比べて「自社や社会への製品・サービスの有用性」を高く評価される要因のひとつとなっていると考えられる。
本記事では、ECS総合評価が最も高かった博報堂と2位のジェイアール東日本企画についてのビジネス関係者のコメントを見てきた。博報堂の「クリエイティブ」の印象の強さは、一貫したバリューと長期的な取り組みの中で徐々にビジネス社会に認識されていき、企業のブランドへと結実し、他企業が短期間では獲得できない個性的な無形価値の一部を形成した一例と言える。このように、評判のテキストを参照し他社と比較することで企業の差別化ポイントや競争優位性、または弱点がどのような事業や企業文化にあるのか、そのヒントを掴むことができる。ぜひ ECS for アカデミアを参照してみて欲しい。
「Eight Company Score」とは
「Eight Company Score(以下、ECS)」は名刺アプリ「Eight」のアンケート調査に基づき、対象企業の名刺所有者におけるその企業の評判を収集・定量化したスコアである。評価対象者が名刺所有者であることから、企業とビジネス上の接点を持つビジネスパーソンからの評判が収集できる仕組みとなっている。
評価者は0から10の11段階で企業を評価する。評価項目は「ブランドの魅力」「製品・サービスの有用性」「人の好印象」の3項目。1企業あたりの回答人数は平均およそ130人となっている。回答者のレーティングを認知のレーティングでウェイトをかけた平均値を各項目のスコアと定めた。さらにそれらのスコアを総合したECS総合スコアを算出している。
また、評価者はレーティングの他に、その企業についての自由な印象も記述する(自由記述文)。このテキストからも、企業の評判の傾向を把握することが可能である。