就職活動をするうえで、まず大事なことが企業研究だ。就活生に人気の企業ランキングをチェックする方も多いと思うが、就活生からの評価ではなく、取引先からのリアルな評価はより参考になるだろう。Sansanが提供する学生向け企業研究レポート「ECS for アカデミア」の企業ランキングから、同社研究開発部 シニアリサーチャーの真鍋 友則氏に解説をしてもらう。前回の金融業界に続き、今回は就職活動において人気の高いIT業界を深掘りする。
IT業界ランキングの1位は?
ビジネス関係者からの評価を集めた、Eight Company Score (ECS) のIT企業ランキングは1位 Apple、2位がグーグル、3位がマイクロソフト、4位と5位がアマゾン関連企業となった。GAFAMは就職人気企業でもよく目にするが、志望者だけでなく、ビジネス関係者からの評判も高い結果となった。
圧倒的なブランド力のApple
総合スコアで 1 位の Apple は「ブランドの魅力」項目のスコアがダントツで高い。Appleは世界的なブランド調査企業、インターブランド社の「世界ブランド価値評価」でも9年連続で1位を獲得している(2021年11月時点)。すなわち世界的にも最もブランド価値が高いと評価されている企業であり、ECSランキングの結果もそれと整合的な結果となった。なお、Apple 以外にもAmazon、グーグル、マイクロソフトもランキング上位企業である。このように、インターブランド社の「世界ブランド価値評価」と、ECSが測定しているビジネス関係者からの評価が、上位企業については概ね一致する結果となった。
また、ECS 4位, 5位のアマゾンウェブサービスとアマゾンデータサービスは、 アマゾン系列企業の中でも、企業向けのクラウドサービスであるAWSを提供・運営している企業だ。いわゆるeコマースサイトの「Amazon.co.jp」を運営する企業は「アマゾンジャパン合同会社」だが、こちらはECS10位圏外の、25位という結果だった (IT企業全189位内) 。業界内ではかなりの高順位であるものの、同グループのAWSサービスよりも低い結果だ。アマゾンジャパンとアマゾンウェブサービスのワードクラウドを比較すると、アマゾンジャパンには「公正取引委員会」「税」などの用語が出現している。2020年の事件や報道に関する印象が、ECサイト運営企業としてのアマゾンのブランドイメージをやや低下させているのかもしれない。
隠れた優良企業、ダイワボウ情報システム
6位のダイワボウ情報システム株式会社はIT関連商品のディストリビューターであり、いわゆるBtoB (Business-to-business) 企業である。一般消費者や学生からの認知は必ずしも高くないBtoB企業が高順位にランクインするのが、ビジネス関係者からの評価を定量化しているECSの特徴だ。ダイワボウ情報システムは特に「人の好印象」スコアが高く、このスコアではIT業界の中で1位となっている。実際にどのように評価されているのだろうか。回答者のコメントを見ると次のようなコメントが並んでいる。
「弊社(私個人)に関してはDIS無しに自分の営業活動は考えられません。情報提供及び価格回答等レスポンスが早く、これからもよろしくお願いします」
「仕入先やお客様への対応が誠実で信頼関係を築ける」
「以前、顧客に提案する際に大変積極的に協力していただきました」
「ブランドとしてはまだまだ世間の認知度は低いと思いますが、弊社にとっては重要なビジネスパートナーであり、社員の方も優秀で色々な要望に応えてくれます」
ダイワボウ情報システムは、顧客と営業の関係性を重要視していることがコメントからも読み取れる。
ビジネス関係者の評価から読み解くIT業界
ECSでは定量調査に加え、自由記述文データをもとにした定性調査も実施している。どのようなコメントが多かったのか、IT業界の特徴を見てみよう。 以下の図は、業界ごとにどのような単語が頻出しているのかをコレスポンデンス分析という手法を用いて可視化したものだ。青字が単語、赤字が業界名となっており、単語の出現頻度が高い業界は近くに配置されるようになっている。
全体の単語配置から、縦軸の上方向は、堅実で真面目な企業風土、下方向は先進的で革新的な企業風土を表していると解釈できる。
一方、横軸の右側は若くて優秀でチャレンジングな印象を表しているのに対して、左側は研究開発と技術という単語が並んでいることから、どちらかと言えば堅実で地道な開発力を表しているという風に解釈できる。
「IT業界」は縦軸では下側に位置しており、すなわち、他の業種と比べて先進的な企業風土と評価される企業が多いことを意味している。一方、横方向には中間に位置しているため、柔軟な頭脳と研究開発的な堅実な頭脳のバランスの取れた業界と言えるのかもしれない。もちろん同じ業界の中でも企業によってその社風は様々だが、下の図のように、業界単位でも、ある程度特徴が分かれることがわかる。
ビジネス関係者からの評価を活用することで、学生やOB・OGからの評価とはまた違った側面から企業を知ることができる。
実際のビジネスシーンにおいて志望企業はどのように評価されているのか、また自分はどのような特徴の業界で働きたいのか、働くイメージを具体化させる参考にしていただければと思う。
「Eight Company Score」とは
「Eight Company Score(以下、ECS)」は名刺アプリ「Eight」のアンケート調査に基づき、対象企業の名刺所有者におけるその企業の評判を収集・定量化したスコアである。評価対象者が名刺所有者であることから、企業とビジネス上の接点を持つビジネスパーソンからの評判が収集できる仕組みとなっている。
評価者は0から10の11段階で企業を評価する。評価項目は「ブランドの魅力」「製品・サービスの有用性」「人の好印象」の3項目。1企業あたりの回答人数は平均およそ130人となっている。回答者のレーティングを認知のレーティングでウェイトをかけた平均値を各項目のスコアと定めた。さらにそれらのスコアを総合したECS総合スコアを算出している。
また、評価者はレーティングの他に、その企業についての自由な印象も記述する(自由記述文)。このテキストからも、企業の評判の傾向を把握することが可能である。