2024年12月15日、21日、22日、28日、29日に、高校生向けeスポーツ大会「第2回 NASEF JAPAN 全日本高校eスポーツ選手権(全高e)」の全国決勝大会が開催されました。
「全高e」は、「全国高校eスポーツ選手権」を引き継いだ形の高校生向けeスポーツ大会。今回は第2回大会ですが、第1回大会が2024年の2月に開催されており、年度は違うものの、2024年に2度の大会が行われたことになります。
しかしながら第1回は、全高eの準備大会と言えるもので、“ほぼ全国高校eスポーツ選手権”といった様相でした。第2回の今大会からは“全高e色”を出すべく、さまざまな変更がなされています。
その1つが競技タイトルの刷新。全国高校eスポーツ選手権のタイトルは、『ロケットリーグ(ロケリ)』『League of Legends(LoL)』『VALORANT』『Fortnite』の4タイトルでしたが、今大会では『ロケリ』が公式タイトルから消え、『ストリートファイター6(スト6)』と『APEX LEGENDS(APEX)』の2タイトルが加わりました。
『スト6』は12月15日に、『Fortnite』は21日に、『APEX』は22日にオンラインにて全国決勝が行われ、『LoL』は12月28日に、『VALORANT』は29日に、品川プリンスホテルのClub eXにてオフラインで全国決勝が行われました。
タイトル以外に、「全高e」独自のレギュレーションとして採用されたのが、予選ブロック分けです。東日本と西日本の2つの地域でそれぞれ代表者を決めるのですが、さらに、その地域に全日制高校と通信制高校の区分をつけています。
eスポーツの学部があったり、プロゲーマーもしくは元プロゲーマーがコーチをしていたりする通信制高校に比べ、部活動もしくは有志の集まりでチームを組んでいる全日制高校は明らかに不利な状況であり、これまでの大会でも決勝大会進出が難しくなっていました。
そこで全日制と通信制を分けることで、全日制高校にも決勝大会へ進出する道筋をつけたわけです。強豪の通信制高校の全国大会へ出場する枠が減ってしまうという見方や、平等性が失われてしまう可能性もありますが、高校生大会であること、NASEFとしての教育的観点から考えると良い仕組みであると感じました。
サッカーのワールドカップなども、地域性を重視することで、強豪地域のため、本戦出場が敵わない国よりも弱いチームが、サッカー発展途上の地域から本戦出場ができることを考えると、至ってベーシックなシステムであるとも言えます。
『スト6』部門では、3人1組の星取戦で行います。先鋒、中堅で勝利したチームに10ポイント、大将戦で勝利したチームに20ポイント入ります。大将戦終了時に同点の場合、延長戦として再度、大将戦の組み合わせで対戦します。
プロリーグである「ストリートファイターリーグ: Pro-JP(SFL)」とルールが似ていますが、延長戦でオーダー組み直しではなく、大将戦での組み合わせで対戦することがプロリーグと違うところです。
優勝したのはeスポーツ高等学院シブヤeスタジアム「あしゅまるの伝説」。SFLに出場経験のあるプロゲーマーのオニキ選手が教員として働いている高校で、もちろん、「あしゅまる伝説」のコーチも務めています。
大将を務めるあしゅまる選手は、最高ランク「マスター」クラスでもトップ500以内に入らないともらえない特別称号「レジェンド」を持つJP使い。決勝戦は相性の良いザンギエフ相手ということもあり完勝で優勝を決めました。
公式タイトルとして新規登録されたばかりなうえ、若年層のプレイヤーが少なめと言われている『スト6』。同一高校で3人集める難易度の高さもありながら、高い実力者をそろえた決勝大会進出チームは、実力十分で見応えのある試合を展開していました。
『Fortnite』部門は、東西日本の全日制、通信制の4ブロックから10校が決勝大会へ進出し、1チーム2名、計40チーム80名によるバトルロイヤルを行います。
試合では、生き残りの順位による生存ポイントと、倒した相手の数の撃破ポイントを獲得。全5試合の合計ポイントで最終順位が確定します。優勝したのは、ルネサンス高校池袋キャンパス「ていらーしぇろん」でした。
『APEX』はバトルロイヤル系シューティングゲームです。『Fortnite』部門は2人1組の「デュオ」でしたが、『APEX』は3人1組の「トリオ」で行います。基本的なレギュレーションは『Fortnite』と同じで、5試合行い、生き残りの順位である生存ポイントと倒した相手の数の撃破ポイントの合計で順位が決まります。優勝は中央国際高校渋谷学習センター「おさかな天国」に決まりました。
ここまではオンラインでの対戦となりましたが、残る『LoL』と『VALORANT』は、Club eXにてオフライン有観客で行われました。
『LoL』部門は、東日本と西日本のそれぞれ全日制と通信制の4ブロックを勝ち抜いた4チームがベスト4として、Club eXに訪れます。準決勝はBO1(1勝勝ち抜け)で、決勝戦はBO3(2勝勝ち抜け)。準決勝は西日本勢同士、東日本勢同士の対決となり、どちらも通信制高校のN高校「N1」とルネサンス高校 横浜キャンパス「がってぃんてぃんEX」が勝ち上がりました。
N高対ルネサンス高の一戦はもはや高校eスポーツシーン、特に『LoL』においてはもはや伝統の一戦と言える対決です。初戦は序盤のほぼ互角の状態からじっくり攻めたい「がってぃんてぃんEX」。そこに「N1」が集団戦を仕掛けますが、返り討ちにあってしまいます。
次の集団戦でも勝利した「がってぃんてぃんEX」は、そのままドラゴンも倒し、大きなアドバンテージを得ます。その後も集団戦を制し続けた「がってぃんてぃんEX」が1本目をものにしました。
2戦目は「N1」ペースで進み、中盤まで大きなリードを獲得。しかし、トップレーンの集団戦に勝利した「がってぃんてぃんEX」がその勢いでドラゴンも倒し、反撃の狼煙をあげます。次の集団戦も勝利し、さらに次の集団戦は挟み撃ちに合うも相手の隙を突き、またもや集団戦で勝利します。
連続で集団戦に勝つことで一気に形成は逆転。そのまま相手の陣営に飛び込み勝利し、優勝をもぎ取りました。とにかく集団戦の強さが光った「がってぃんてぃんEX」でした。
最終日は『VALORANT』部門が行われました。『VALORANT』部門も『LoL』部門と同様で、準決勝で東日本同士、西日本同士がBO1で対戦します。準決勝進出が決まった時点で対戦する高校が現在のマップローテションからマップBANを行い、最後に残ったマップが選ばれます。奇しくもどちらの準決勝もBINDが選ばれました。
準決勝はどちらも通信制高校が勝利し、ルネサンス高校 梅田eスポーツキャンパス「Haven Liberty」とルネサンス高校 池袋キャンパス「Queimar」のルネサンス高校同士の対戦となりました。「Haven Liberty」は前回「イナザワジャパン」として出場していたチームで第1回の優勝校です。同じ高校同士の対決となりますが、2連覇を達成できるかがかかった一戦でもあります。
決勝戦はBO3。両チームの決勝戦進出が決まったあと、じゃんけんにより、BAN・PICK、そして攻守選択の権利が確定します。最初のPICKは「Haven Liberty」が行い、スプリットを選択。「Queimar」は先に守備を選びました。
得意マップを選んだ甲斐があり、「Haven Liberty」は折り返しで9-3と大きくリードします。「Queimar」はここから巻き返しを図りたいところですが、お互いに4試合取るにとどまり13-7で「Haven Liberty」が勝利しました。
2マップ目は「Queimar」が選択したアビス。「Haven Liberty」が攻撃側を選びます。序盤、5-1の大差をつけた「Haven Liberty」ですが、そこから「Queimar」が7-5まで追い上げ、攻守が交代します。
攻撃側に移った「Queimar」は早々に追いつくと、そこから一気に引き離し、13-8で勝利しました。これで1勝1敗となり、最後のマップで決着がつきます。
最後のマップはお互いがBANしなかったことから、どちらのチームも得意不得意のないマップといえます。最後のマップはヘイブンが選ばれました。ヘイブンはスパイク(爆弾)を設置する場所が3カ所あるため、守りが分散されたり、移動に時間がかかったりするので守りにくいマップ、攻めやすいマップと言えます。
そのうえで攻守選択権のある「Haven Liberty」は守備を選択。守備側が不利なマップながら撃ち合いに勝利し、勝利数を重ねていきます。折り返し時には10-2の大差がつき、最終的には13-5で優勝を決めました。これで「Haven Liberty」は2連覇を達成しました。
「全高e」は、「全国高校eスポーツ選手権」を踏襲した形で第1回大会を行ったこともあり、新しいスタートを切ったのは実質今回からとも言えるでしょう。「全高e」ならではの色が出せてきたのではないでしょうか。
『スト6』と『APEX』が新たにタイトルとして加わり、全日制と通信制の枠を設けたのは独自路線のうえ、魅力的な大会になる要素だったと思います。『スト6』は『LoL』や『VALORANT』と違い、基本無料のタイトルではないので、新たに部活として導入するにはコストがかかってしまいますが、出場校応援企画として学校または顧問が管理するSteamアカウントなどに最大3アカウントまでゲームコードを進呈し、エントリーしやすくしています。
これは「全日本高校eスポーツ選手権」が始まったばかりのころに、サードウェーブがゲーミングPCを3年間の無償で貸し出した「eスポーツ部発足支援プログラム」を彷彿させます。
まあ、無粋なことを言うと、学校以外で練習したい生徒は家でプレイできるように『スト6』を購入すると思うので、配布した以上に購入者が増える良いサービスだったと思います。それでも学校、生徒、メーカー、大会運営がすべてプラスに働く四方良しであることは確かなので、良いことであるのは間違いありません。
結果として、優勝チームはすべて通信制高校となり、通信制高校の強さが際立つ結果となりましたが、それでも全日制が全国決勝に進出できる全日制と通信制によるブロック分けは、多くの高校に夢を与える結果となりました。
今後、大会を重ねていくうちに、その差も少なくなっていくと思われますし、全日制高校でもeスポーツが普及するきっかけの1つとなれば、それだけで意義のあることでしょう。
通信制高校の中でも、eスポーツを部活と捉えているところと、学部として展開しているところの差がちょっと出てきたようにも感じました。そういった意味ではルネサンス高校はしばらく強者として君臨していく予感がします。
次回の開催も決定しました。時期は12月。「全高e」として特色も出てきたことなので、開催時期が固定化することでより参加しやすくなることを期待しています。
あとは、願わくは開催場所も固定し、甲子園や花園、国立のように聖地化することも望んでいます。Club eXは駅からのアクセスも良く、最寄り駅は新幹線停車駅なので、地方からの参加や応援の人たちも訪れやすい場所でした。
しかし、収容キャパシティは少ないため、より多くの観客や応援団を迎え入れるには物足りない印象です。甲子園のような学校関係者以外のファンが観戦する大会にするのか、観客=出場者やその友人、家族を中心としたオフイベントにするのか、目的によって会場は変わってくると思われるので、その辺りも明確にする必要があるかもしれません。