3月31日から4月2日の3日間、東京ビッグサイトの南ホールにて、対戦格闘ゲームの祭典「EVO Japan 2023」が開催されました。2020年に幕張メッセで行われた「EVO Japan 2020」以来、3年振りです。
今年のメインタイトルは『グランブルーファンタジー ヴァーサス』『ギルティギア -ストライヴ-』『ザ・キング・オブ・ファイターズ XV(KOFXV)』『メルティブラッド:タイプルミナ』『ストリートファイターV CE(SFV)』『鉄拳7』『バーチャファイターeスポーツ(VFeS)』の7タイトル。すべてのタイトルが、事前申し込みをしていれば誰でも参加できるオープントーナメントです。メインタイトルはすべて賞金が付いており、全タイトル、優勝賞金100万円、賞金総額200万円です。
物販に企業ブースにBYOC、多くの人でにぎわった3日間
Day1は『グランブルーファンタジー ヴァーサス』のみ決勝トーナメントまで、ほかの6タイトルは予選のみを実施しました。Day2は、Day1の予選を勝ち抜いた選手が出場する2次予選です。『KOFXV』『メルティブラッド:タイプルミナ』『VFeS』はDay2で決勝トーナメントまで実施し、優勝者を決定します。
Day3のみ、観戦は有料チケット制です。『ギルティギア -ストライヴ-』『鉄拳7』『SFV』の決勝トーナメントを行います。Day1、Day2は参加型イベントの趣が強く、Day3は観戦型のeスポーツイベントとしての展開されました。
会場では、メイントーナメント以外にも、コミュニティや有志による「サイドトーナメント」を開催しています。なかには、アーケード筐体を持ち込んでいるコミュニティもあり、ゲームセンターの大会さながらの雰囲気が漂っていました。
企業ブースも出展。物販ブース、新タイトルの試遊ができるメーカーブース、コスプレイベントを行うステージ、アケコンの歴史を展示したエリアなど、まさに格ゲーの祭典と言えるボリューム感と豪華さです。
特にメーカーブースは、一部の人しかプレイできなかった『ストリートファイター6』β版の試遊、今回初の試遊台のお披露目となった『鉄拳8』、ハイエンドゲーミングデバイスの「INZONE」のゲーミングモニターやゲーミングヘッドセットを体験できるコーナーなど、気になる展示が盛りだくさんでした。
また、Day2は、予選会場の縮小に伴い、空きスペースにBYOC(Bring Your Own Computer)コーナーを用意。テーブルと椅子、電源を自由に使用することができ、参加者が持ち寄ったゲーム機やPCで、自由に野試合をすることができました。
知らない人同士でも、気軽に声をかけて、好きなゲームを一緒にプレイできるのは、まさにEVOならではと言えます。ちなみに、筆者も友人のライターやゲームコミュニティの人たちと一緒に、BYOCエリアでゲーミングPCをセッティングして対戦プレイに興じていました。普段、オンラインでプレイしている地方在住の仲間や海外から参加した人たちとの出会いがありました。
選手の戦いには、物語がある
それぞれ、メインタイトルで優勝したのは、『グランブルーファンタジー ヴァーサス』がgamera選手、『ギルティギア -ストライヴ-』が御傍選手、『KOFXV』がXiaohai選手、『メルティブラッド:タイプルミナ』がKjiro選手、『VFeS』がとんちゃん選手、『鉄拳7』がArslan Ash選手、『SFV』がOil King選手です。
gamera選手は毎回トーナメントの良いところにいながらも優勝まで届かない場面が多く、賞金付き大会では初優勝となりました。
Xiaohai選手は母国中国の情勢やコロナ禍によりここ数年は大会への参加が少なかったので、久々の優勝です。
とんちゃん選手は最強との声が高かったなか、プロライセンス取得に苦労していましたが、直前に行われた「VIRTUA FIGHTER esports PRO CHAMPIONSHIP 2023」に続き、優勝を果たしました。
『鉄拳7』では、韓国勢がファイナリストに5名が入り、“鉄拳修羅の国”の実力を示していました。日本人プレイヤーはプロライセンスを保持していない若手の渡辺選手とじーけん選手が勝ち残ります。特に、渡辺選手は難易度の高いエリザの技をさも当たり前のように使いこなし、勝ちあがっていきました。
しかし、その若手日本人と韓国勢を抑えたのがパキスタンのArslan Ash選手です。“『鉄拳7』にパキスタンあり”と知らしめたのは、福岡で開催された「EVO Japan 2019」。無名のArslan Ash選手があれよあれよと勝ち上がり、優勝を決めてパキスタンの強さを誇示しました。
それから4年、すでにパキスタン勢の強さは『鉄拳7』界隈では周知の事実ですが、きっかけを作ったArslan Ash選手が同じ土俵で再び優勝を果たしました。
『SFV』では、日本勢の活躍が目覚ましく、ファイナリストにはネモ選手、まちゃぼー選手、ひぐち選手、ももち選手、鶏めし選手の5名が残りました。このことからも、日本人選手の層の厚さが伺えます。
海外勢はウイナーズサイドではプエルトリコのMono選手、ルーザーズサイドではアメリカのPunk選手、台湾のOil King選手。Mono選手は2月に行われたカプコンカップを見ていた人であれば、覚えている人も多いはず。グループリーグ抜けが厳しくなったももち選手と同じグループで、最後の試合でMono選手が勝てば、ももち選手が決勝トーナメントに進出できるという状況で勝利した選手です。もちろん、Mono選手はももち選手に決勝トーナメントに行ってもらうために勝利したわけではなく、最大限に実力を発揮した結果、ももち選手を救った形となったわけですが……。
そんなMono選手は、ウイナーズでネモ選手に負けたあと、ルーザーズでももち選手と対戦します。結果は、カプコンカップの直接対決で勝利したももち選手が、EVO Japanでも勝利。試合後に寄り添い合い、お互いを称えながら抱き合ったシーンは感動的でした。
そんななか、快進撃を続けるのは、負けなしでグランドファイナルに到達したネモ選手。これまで生かし切れなかったキャラクター「ギル」を駆使し、圧倒的な強さで挑戦者を待ちます。
そして、ルーザーズから這い上がったのはOil King選手。初戦の鶏めし戦では相性の良いラシードを使いましたが、今大会のほとんどでセスを使用しています。セスは日本であまり使われないキャラクターですが、Oil King選手のセスは練度が高く、カプコンカップで行われたストリートファイターリーグの世界大会でも活躍していました。
体力の少ないセスは何度も窮地に追いやられますが、Vトリガーの丹田マニューバーを駆使し逆転勝利を繰り広げます。グランドファイナルも攻撃的な仕掛けを多用し、守りの場面でもリスク覚悟の反撃である逆択を迫り、ネモ選手を追い詰めました。
結果は、Oil King選手が3連勝でリセットを決めたあと、さらに3連勝で優勝。カプコンカップのときもそうでしたが、日本が知らない『SFV』の世界を見せつけられ、『SFV』の世界が広く、そして奥の深さがあることを、改めて実感することになりました。
積み重ねられてきたeスポーツの歴史を実感
「EVO Japan 2023」の取材を終えて、多くのエンターテインメントのなかでは、まだ新しい存在であると見られるeスポーツですが、すでに多くの歴史を重ねており、それらが地続きになっていると感じました。
先に書いた通り、『鉄拳7』はパキスタン旋風の初動となったEVO Japanで再度Arslan Ash選手が優勝し、カプコンカップでももち選手を救ったMono選手がEVO Japanで直接対決を実現しています。
また、『鉄拳7』の原田プロデューサーの粋(?)な計らいで、大会終了後に『鉄拳8』の参戦キャラクターとしてリロイを発表。「EVO Japan 2020」で新キャラクターとして搭載されたばかりのリロイが圧倒的な強さを誇り、ファイナリスト8名中6名がリロイを使ったことで「リロイ祭り」と称されたことを逆手にとったうまい演出と言えました。
予選、本戦問わず、ほかの多くの試合でも因縁の対決や夢の対決など、さまざまな名勝負が生まれています。これも歴史を積み重ねてきた結果だからこそ、そう思えるわけです。今回の「EVO Japan 2023」もきっと、先の大会につながる試合を多く輩出したのではないでしょうか。
もちろん、過去を知らないと今が楽しめないのではなく、今を見たから将来がより楽しめるわけで、今回、さまざまな素晴らしい試合を見られたことが財産となった気がしました。
ちなみに、今回も筆者、参戦してきました。現地取材となるので『SFV』1タイトルに絞ります。
予選のプールは128。1つのプールの人数が少なめで、1プールにおおよそ1人の有名プレイヤーが配置された印象です。筆者のプールには、ももち選手がいました。
2戦勝利すれば、ももち選手との対戦が実現しましたが、初戦のアレックス戦を勝ったものの、2戦目のアビゲイル戦で敗退。ルーザーズは、不戦勝で1回勝ち抜くも2戦目のバーディ戦で敗退でした。結果としては2勝2敗。でも実際は1回しか勝ってない印象なので、ちょっと不完全燃焼でした。
そういえば、若いころからしばらく大会への参加をしていなかったなか、しばらくぶりに大会復帰したのが最初の「EVO Japan」でした。そのときに初戦で当たったのがOil King選手。インタビューのときにその話をしたら、覚えていてくれていました。個人的な話ながら、自分もeスポーツの潮流に巻き込まれ、地続きになっているのだなと、思いました。