「RZ」や「NSR」、「RGガンマ」に「KR」といった80年代のバイクブームを支えた2ストロークエンジン(以下2スト)の名車たち。その人気はいまだに高く、中古車はどんどん高騰しています。

現在は国内だけでなく、世界でも2ストのバイクを市販しているメーカーはほとんどありません。その理由は排ガス規制によるものですが、昨今は脱炭素化でガソリンエンジンも厳しくなってきているため、再び2ストが日の目を浴びるのは難しいでしょう。

『それなら今のうちに乗っておこう! 』と考える人もいるはずです。今回は、そんな2ストについて解説します。

■今さら聞けない、2ストってどんなエンジン?

一般的なバイクは「レシプロ」と呼ばれるガソリンエンジンを積んでいます。ガソリンと空気の混合気を圧縮・爆発(燃焼)させて回転力に変えるもので、この仕組みは2ストも4ストも同じですが、その違いを自転車のペダルで考えてみましょう。

2ストはクランクが1回転で1回爆発するのに対し、4ストは2回転で1回爆発します。自転車を漕ぐ場合、ペダルが一番上に来たら踏み込みますが、これが2ストの爆発タイミングです。自転車は左右のペダルがあるため、さしずめ「ヤマハ・RZ250」のような「2ストローク並列2気筒」という感じでしょうか。

対して4ストの場合、ペダルを踏むのが2回転に1回になります。当然、ペダルを毎回踏める2ストの方が「力」が出ますが、「力」といっても、これは何かをグイッと回す力が「トルク」で、「パワー」は「トルク」を積み重ねたものです。

これでは同じ排気量では4ストは2ストに「トルク」では敵いませんが、4ストは1回のペダルの踏み込み(爆発)を効率的に行い、ペダルを踏む足を増やす、つまり多気筒化してクランクを高回転まで回し、「小さなトルク」をたくさん生み出すことで2ストに迫る「パワー」を得るという進化をしてきました。

この手法で打倒2ストを掲げた4ストが、70年代末期の世界グランプリに登場した「ホンダ・NR500」です。前代未聞の楕円ピストンを使ったV型4気筒エンジンの最高回転数は1分間に2万回転と、当時の主流だった2スト勢の2倍も回るものでした。

  • 自転車のペダルに例えた2ストと4ストの爆発タイミング

■いつもマジメな4ストに対し、好不調の波が激しい2スト

『それなら、2ストも高回転まで回せば……』と思うかもしれませんが、2ストはその構造上、4ストのような超高回転化ができません。レシプロエンジンは「吸気」「圧縮」「爆発(燃焼)」「排気」という4つの行程がありますが、4ストがこれらを機械式の弁で制御しているのに対し、2ストは混合気で排気を押し出す仕組みになっています。最適なタイミングなら強烈なパワーを発揮しますが、その回転数(パワーバンド)は4ストよりも狭く、そこから外れると燃焼前の混合気が吹き抜けたり、排気ガスの一部が残ってしまいます。

また、4ストは2回転に1回しか爆発しませんが、燃焼室を新しい混合気で冷却できます。対して毎回爆発する2ストは燃焼室や排気ポートが加熱しやすく、超高回転化でさらに高温になるとピストンや燃焼室を溶かしたり、不適切なタイミングで混合気に引火してしまいます。これらが長時間続くとエンジンに重大なダメージを与えてしまうというわけです。

この狭いパワーバンドや燃費の悪さは2ストの課題でしたが、80年代にはさまざまな発明が生まれて改善されています。4ストに迫る高回転化や省燃費は難しかったものの、軽量・簡単で製造コストも安く、一定の回転数なら効率よくパワーが得られるというメリットは、発電機や草刈り機、無段階変速の小型スクーター用エンジンとも相性がよく、数多くの製品に用いられました。

  • 4ストとは違い、2ストはクランクケースに混合気を取り込み、燃焼室に圧送することで排気ガスを掃気している

■臭いも楽しめる? 2ストのエンジンオイルは使い捨て

エンジン部品の中で一番過酷な環境にあるのは、高熱と摩擦に晒されるピストンやシリンダー、クランクシャフトですが、これらを保護するためにオイルで潤滑する必要があります。4ストはエンジン内に溜めたオイルをポンプで吸い上げ、各部に圧送して循環させていますが、2ストはクランクケースを吸気につかっているため、オイルを溜めることはできません。

そのため、2スト専用に作られた燃えやすいエンジンオイルを混合気に混ぜることで、ピストン、シリンダー、クランクシャフトに潤滑しています。4ストはエンジン内でオイルを循環させ、数千キロの走行で汚れたら交換しますが、2ストは使い捨てというわけです。

オイルの混じった排気ガスはさらに煙や臭いをともないます。2スト好きのライダーたちは「カストロール」など有名ブランドオイルの香りを楽しんでいましたが、バイクを買い物や通学に使う主婦や女子学生にしてみれば、煙はおろか臭いなど不快以外の何ものでもありません。そのため、ほとんどの原付スクーターが2ストだった頃は、女性ユーザー向けにイチゴやオレンジの臭いがするオイルが売られていたこともありました。

また、エンジンにはクラッチやギアもありますが、4ストのバイクはエンジンオイルがギアオイルも兼用しているのに対し、2ストはマニュアルトランスミッションのクルマのように、エンジンオイルとは別にギアオイルを使っています。こちらは使い捨てではなく、メーカー指定の走行距離数で交換します。

  • 2ストは構造上、専用のエンジンオイルを混合気に混ぜて潤滑に使っている。燃やして排出するため、4スト用は代用できない

■2ストはエンジンがもたないってホント?

2ストのエンジンは4ストより寿命が短いと言われますが、これは個体差やエンジンの種類にもよります。4スト同様、定期的にメンテナンスされたノーマルの市販車や、スクーターのように穏やかな特性で設計されたエンジンは、いきなり焼き付いて不動になるようなことは滅多にありません。とはいえ、回さなければカーボンもたまり、回し過ぎれば熱でダメージも負うので、調子が落ちてきたらシリンダーやマフラー廻りのメンテナンスが必要です。

しかし、2ストのエンジンは、4ストのような吸排気バルブやカムシャフトといった複雑な機構がなく、燃焼室やシリンダー廻りはとてもシンプルな構造なので、分解は比較にならないほど簡単です。クランクシャフトなどにダメージがなければ、シリンダーやピストン廻りの修正や部品交換で直ってしまうこともあり、空冷エンジンなら道端で交換作業を済ませてしまう人もいるほどです。

ピストンやシリンダーが焼き付く原因はオイルポンプ廻りや冷却系の故障が考えられますが、ユーザーの改造によるケースも少なくありません。2ストの構造はとても簡単ですが、吸気・排気・圧縮・排気のバランスを大きく崩してしまうと極端にパワーダウンしたり、絶好調になったと思ったらピストンに穴が開くなど、非常にデリケートな面も持っています。

このバランスが取れたときは、4ストでは絶対に味わえないパワーを発揮するのも2ストの魅力ですが、パワー重視のチューニングを極めていくほどメンテナンスの頻度も増え、エンジンにダメージを与えないような乗り方も必要になります。

  • 2ストはシリンダヘッドにカムシャフトやバルブを持たないため分解も簡単。マフラー(チャンバー)形状はエンジンの性格に大きく影響する

■乗るなら今しかない? 購入時に気をつけること

バイク人気が高まる中、絶版となった2ストもどんどん値上がりしています。昔はタダで譲ってもらえたような50ccのミッション車でも数十万円以上、人気の極上車は数百万円以上という高騰ぶりですが、極端に安いものもおすすめできません。2ストは車検のない250cc以下が多く、前オーナーが無茶な改造をしていたことも考えられるからです。

修理用の部品を入手しようとしても、ほとんどの2ストモデルは生産終了から20年以上経っているため、メーカーの純正部品が廃版になっていたり、在庫もかなり値上がりしています。ネットオークションでもマイナー車は出品がほとんどなく、人気車の場合は必ず激しい競り合いになります。

一匹狼で黙々とレストアに励む人もいますが、多くの旧車オーナー同様、絶版車や特定のモデルに強いショップを探したり、オーナーズクラブやSNSのコミュニティに参加して、トラブルシューティングや部品の流用情報など、維持していくためのノウハウを共有していくという方法もあります。マナーさえ守れば、同じ2ストを愛するもの同士、親身になって手を貸してくれるはずです。

すでに伝説的な存在になった2ストは『狂暴で危険』などと言われることもありますが、これは少し大げさかもしれません。いかにも速そうなレーサーレプリカでも市販車なので意外に乗りやすく、メンテナンスがしっかりしていればツーリングもこなせるでしょう。もちろん、パワーバンドで弾け飛ぶようなフィーリングは、それよりもはるかに速いリッタークラスのSSにもない快感性能を備えています。

これからさらに高騰するのか、少し落ち着くのかはわかりませんが、確実に2ストに乗れるチャンスは減っていきます。『ちょっと刺激が欲しい』、『青春時代を思い出したい』と思う方にはおススメですが、中高年の方は懐かしすぎて涙が出ちゃうかもしれませんね?

  • 250ccはタマ数が多いが、人気モデルは超プレミア価格。ファミリーバイク保険が使える125ccもおすすめ