公道でバイクに乗るにはヘルメットを被らなければいけませんが、『工事現場のヘルメットでもOK』という人もいれば、『バイク用でなければNG』という人もいます。また、バイク用品を扱うECサイトでは、聞き覚えのないメーカーや、奇抜なデザイン、並行輸入の有名ブランド品が格安で販売されていることもあります。
こういった製品には「公道走行不可」や「観賞用」などの記載がされていることもあります。バイク用のヘルメットなのに、公道で使用すると違反になるのでしょうか? 今回は、バイク用ヘルメットにまつわる法律について解説します。
■あまり積極的ではなかった? ヘルメット着用の義務化と罰則
“バイクに乗る時にはヘルメットを被る”という習慣は、1935年に「アラビアのロレンス」ことトーマス・エドワード・ロレンスがバイク事故で亡くなり、救護や検視に関わった医師の提言がきっかけになったといわれています。当時はバイクの性能が低かったとはいえ、意外なことにそれまでバイク事故による頭部損傷のリスクや、ヘルメットがもたらす安全性は世の中に浸透していなかったようです。
日本の場合、ヘルメット着用の義務化は1965年から段階的に始まりましたが、罰則が科されるようになったのは1975年からで、50cc以下は1986年まではノーヘルでもOKでした。排気量による免許制度の改正と同様、バイク事故の増加によって規制が強化されていったわけです。
現在はアジアやヨーロッパでも義務化が進んでいますが、アメリカは各州によって法律が異なり、18歳以下の年齢制限が設けられたり、ヘルメットは不要でもサングラスなどの着用が義務化されている州もあります。ノーヘルでケガをしても自業自得ですが、目に異物が入ってバイク事故を起こしたら他人が巻き添えになるリスクがあるから、という理由かもしれません。
日本の場合もヘルメット着用義務違反は違反点数が1点だけで、反則金や罰金はありません。処罰としてはクルマのシートベルト未装着と同じ扱いですが、クルマはシートベルトがバックルに結束していなければ違反になるのに対し、バイクのヘルメットは顎ひもが結束されていなくても違反には問われないようです。
■バイク用ヘルメットに対する法的な基準はかなりアバウト
道路交通法で乗車用ヘルメットの着用が義務化されているものの、バイク乗りの中には『実は工事現場用でもOK』という人もいれば『バイク用でなければダメ! 』と意見が分かれます。
常識的に考えれば『頭に被れるなら何でもよい』わけはなく、道路交通法では「乗車用ヘルメット」の基準を以下のように定めています。
<道路交通法施行規則第九条の五>
一 左右、上下の視野が十分とれること。
二 風圧によりひさしが垂れて視野を妨げることのない構造であること。
三 著しく聴力を損ねない構造であること。
四 衝撃吸収性があり、かつ、帽体が耐貫通性を有すること。
五 衝撃により容易に脱げないように固定できるあごひもを有すること。
六 重量が二キログラム以下であること。
七 人体を傷つけるおそれがある構造でないこと。
実は法的には「乗車用ヘルメット」の基準はかなりアバウトで、ユーザーが上記の基準を満たしていると判断すれば、道路工事用のヘルメットや、海外製の怪しいコピー製品や奇抜なデザイン、極端なことを言ってしまえば、自作品でもよいということになってしまいます。
■ヘルメットに貼られたシールやラベルの意味
国内でバイク用として販売されているヘルメットを見ると、以下のようなシールやラベルが貼られているはずです。これらが意味するものは以下の通りです。
<PSCマーク>
「乗車用ヘルメット」は消費生活用製品安全法によって「特定製品」に指定されており、国の定めた技術上の基準に適合している製品には「PSCマーク」が貼られています。このマークがない特定製品は国内で販売(販売目的の陳列も含む)することはできず、違反した場合は1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金が科せられます。個人が海外で購入したものや、中古品を販売する場合でも規制の対象となる場合があります。
<SGマーク>
一般財団法人製品安全協会が制定したもので、高い安全基準と製品認証が規定されます。製品の欠陥が原因で事故が起きた場合、最大1億円の治療費など(人的損害)の賠償が適用されます。(購入後3年間)
<JIS規格>
産業標準化法に基づいて制定されたマークで、品質、性能、安全性、試験方法など、日本工業規格(JIS)が定める基準に適合した商品であることを証明しています。125cc以下は「JIS1種」、排気量無制限は「JIS2種」がついています。
<SNELL規格>
アメリカの非営利団体「スネル記念財団」が定めた非常に厳しい安全規格。約5年で見直され、二輪や四輪以外にも、自転車やさまざまなスポーツ用まで、一般ユーザーが使用するヘルメットの安全基準を設定しています。
<MFJ公認>
財団法人日本モーターサイクルスポーツ協会(MFJ)が定めた競技用ヘルメットの規格をクリアした製品を証明するもので、このシールが貼られていなければ、MFJが主催するレースには出場できません。
「PSCマーク」や「SGマーク」は製造・販売側の責任に関係し、「JIS規格」「SNELL規格」は製品の品質や安全性を証明するものであるため、“この表記がなければ乗車用ヘルメットとして認めない”というわけではありません。「MFJ公認」はMFJが主催するレースに出場する選手のみに関係することです。
日本国内で乗車用ヘルメットを販売するには「PSC」を取得しなければ違反となるため、オークションやECサイトで「観賞用」や「公道走行不可」と記載されたヘルメットは、これを取得していない販売者側の都合でしょう。
安全性や機能に問題があろうがなかろうが、『乗車用ヘルメットとしては販売してはいない』と言えばよいわけで、それを承知で購入・使用したユーザーには何の罰則もないわけです。ユーザー側が違反に問われるとしたら、そのヘルメットが前章で挙げた“道路交通法で定めた「乗車用ヘルメット」の7つの基準”を満たしていないケースになります。
■並行輸入品を買うと後悔することも!?
海外の有名なヘルメットはとても高価ですが、個人が現地で購入したものや、並行輸入品がオークションやECサイトで格安販売されていることもあります。これらが本物のメーカー製であっても、価格に釣られて飛びつくのはおすすめできません。先述の「PSCマーク」や「SGマーク」の有無以外にも、正規代理店を通していない製品は注意が必要だからです。
過去に欧米メーカーのヘルメットを使った方はご存じかもしれませんが、自分が被っている国産ヘルメットと同じサイズを選ぶと、まったく頭の形に合わないことも珍しくありません。キツすぎればまともに使えず、ブカブカならスポンジを入れれば当面はしのげるものの、しっかりフィットしなければ安全性能は低下します。
これは、頭部の形状が「球」に近いアジア人に対し、欧米人は「前後に長く、幅が細い」という違いがあるからです。ひと昔前まではバイク用品店でも『外国製ヘルメットはそういうものだから』と、1~2サイズ大きなものを買うようにアドバイスしていたほどです。しかし、現在は標準の「ユーロフィット」のほかに、アジア人の頭に適合する「アジアンフィット」を用意している欧州メーカーもあります。イタリアのAGVの場合、日本の規格であるPSCやSGマークも取得して、国内の正規代理店に卸しています。
また、内装を変えて調整しようとしても、ユーロフィットとアジアンフィットでは互換性がないこともあり、日本国内で未発売のモデルになると、シールドなど補修パーツの入手も困難になります。
■法的な規制は緩くても、結局は自己責任
結論からすると、道路交通法が定める“”乗車用ヘルメットの7つの基準”を満たしていれば法的には問題ないということになります。「125cc以下用」のシールが貼られたハーフキャップでリッターバイクに乗っても違反にはならず、道路工事用や自作のヘルメットでも“基準を満たしている”と判断するなら、切符を切られそうになっても裁判も辞さない姿勢であればよいわけです。
しかし、そこまでして変わったヘルメットを被ったとしても、何かあったときにはすべて自己責任になります。頭部にケガをした場合、命を落とさずに済んだとしても、大きな後遺症を負って生活や仕事に影響したり、家族に大きな負担をかけてしまいます。自転車やスノーボードでも頭部損傷による不幸な事例は珍しくないため、よりリスクが大きいバイクの場合、やはり高い安全性が保証されたヘルメットを着用すべきです。
また、あご紐もしっかり固定できるものが装備されていなければ違反になりますが、結束の義務までは明記されていません。クルマのシートベルトと違い、ヘルメットの顎ひもは締めていなくても違反にはならないわけです。
とはいえ、スネル規格などの厳しい安全基準をクリアした最高級ヘルメットでも、事故の衝撃で脱げてしまえばノーヘルと同じです。警視庁の調べでは、死亡事故の3割以上でヘルメットが脱落しており、「締めていない」「緩い」など、結束が不適切なケースは25%以上もあるそうです。ライダーにとって顎ひもは命綱。しっかり締めておくことも大事ですね。