熱狂的にバイクが好きな人なら、多少の寒さのなんのその。雪が積もらない限りはツーリングに出かけてみたいと思うものです。

しかし、冬は路面やタイヤが冷えて滑りやすくなり、場所によっては路面が凍結していることもあります。今回は、そんな寒い季節の走行時に注意すべきポイントを紹介します。

■まずはタイヤが大事

バイクの安全に重要なのは「タイヤ」のコンディションですが、寒い時期はさらに気をつけた方がよいでしょう。「空気圧」は基本中の基本ですが、外気温が冷えると減少するため、出かける前には必ずチェックしてください。『滑りやすいときは空気圧が低い方がグリップする』という人もいますが、これはバイクやタイヤのメーカーは推奨していません。

タイヤの性能を発揮させるには「空気圧」のほかに「温度」も重要です。市販のバイク用タイヤが降雪や凍結時以外の季節に対応しているとはいえ、温まっていなければ十分な性能を出すことができません。冬は外気や路面の温度が低いためタイヤの温度が上がりにくく、せっかく走って温めても長い休憩で冷えてしまうこともあります。

現在のタイヤはとても性能が高いため、春や秋などはタイヤ温度を気にせず走りだしても大きな問題にはなりませんが、気温が10度を下回った日は十分に注意してください。日が昇って気温が上がったとしても、路面は冷えたままで滑りやすくなっています。

また、いわゆる「ハイグリップタイヤ」は高いグリップ力が自慢ですが、どんな状況でも性能を発揮できるというものではありません。メーカーによって多少の差はありますが、性能を発揮できる温度の範囲が狭く、低温時はグリップ力が落ちてしまいます。対して「スポーツ/ツーリングタイヤ」はサーキットなどの限界走行では「ハイグリップタイヤ」に及ばないものの、低温や雨天といったオールラウンドな状況に対応しています。

そのほか、どんなタイヤであっても劣化していては本来の性能を発揮できません。溝の残りはもちろんですが、硬化やひび割れ、ゴムの変質なども点検してください。製造から5年以上経過しているなら交換をおすすめします。

  • 「ハイグリップタイヤ」はオールマイティではない

■タイヤの温度を上げる方法

高速道路や一般道では気にならなくても、冬のワインディングを走るのは不安なものです。昔はタイヤを温めるために車体を左右に激しくローリングさせるライダーもいましたが、現在はレースでも見かけることはありません。

冷えたタイヤと路面にヒヤヒヤしながら走るより、タイヤを温めることができれば少しは安心感が生まれるはずです。比較的安全な温め方として、車体が立った状態のブレーキや加速時のアクセルオンでタイヤをつぶすという方法があります。

これはタイヤの接地面(トレッド)や側面(サイドウオール)が変形されることでタイヤ全体が発熱するというしくみです。もちろん、乱暴な操作ではスリップする危険性がありますが、意識的に行うだけでもタイヤの温度を上げることができ、メリハリのない走り方をするよりもグリップ感がつかみやすくなります。

走行前や、さまざまな状況で走行をしたあとにタイヤを素手で触ってみると、どれだけタイヤが冷えていたか、温度が上がったかを実感できるはずです。また、現在はエアバルブに取り付けるだけでタイヤの空気圧と温度をモニタリングできる製品も販売されています。こういったアイテムを利用するのも面白いでしょう。

  • 安全なタイヤの温め方

■滑りやすい路面や予期せぬ凍結に注意

冷えた路面では雨の日と同様、マンホールや道路工事の金属板、路面ペイントなども滑りやすくなります。車体が直立気味であれば何事もなく通過できますが、交差点やカーブで車体がバンクしていたり、加減速中はタイヤが滑ることもあります。

浅いバンク角や弱い加減速であれば、一瞬滑ってもバイク自身が転倒しないようにバランスをとりますが、慌ててハンドルにしがみつくとバイクの復元力を邪魔してしまいます。基本的には滑りやすい場所を見つけたらペースを落とし、避けられなければリラックスして通過するようにしてください。

路面温度が低いだけでも滑りやすくなりますが、それとは比較にならないほど危険なのが「路面凍結」です。気温の下がる日没後から早朝はもちろんですが、日中でも日陰では凍結が残っていることがあります。そのほか、風の吹き付ける橋やトンネルの出入り口なども凍りやすく、凍結防止剤や融雪剤もバイクにとってはタイヤを滑らせる原因になります。

また、バイクを止めて足をついたときに滑って立ちゴケをしないよう、ブーツやシューズのソールも滑りにくいものを選んでください。

  • 雪解け後でも油断は禁物

■冬はバッテリーも上がりやすい

冬は『セルボタンを押してもモーターが回らない』、『セルは回るのにエンジンがかからない』といったトラブルもよく起こりますが、その大半はバッテリーの劣化によるものです。

元気なバッテリーなら真冬でも問題なくエンジンを始動できますが、バッテリーは使用するにしたがって容量が低下していきます。2~5年ほどで寿命を迎えますが、低温時はバッテリー内部の化学反応が低下して性能が落ちるため、冬場に寿命を迎えてしまうケースが多いというわけです。

「セルの回り方が弱い」、「ヘッドライトが暗い」、「ウィンカーやホーンの動作がおかしい」など、電装部品に不具合が出ているならバッテリーの寿命が疑われます。問題がバッテリーなら補充電や交換を行えばよいのですが、バイクの充電系統が故障していることも考えられますので、念のためプロに点検を依頼した方がよいでしょう。

古いバイクはキックペダルや押しがけでエンジンの始動ができましたが、現代のバイクはほとんどセルスタート式で、燃料ポンプやフューエルインジェクションの作動にも電気を必要とします。そのため、バッテリーが上がってしまうとどうにもなりません。

ツーリング先ではバッテリーの補充電や交換が難しいはずですが、最近は小型のジャンプスターターが手頃な価格で販売されています。バッテリー上がりだけでなく、スマホなどの充電や電熱ウエアの電源として利用できるため、連泊やキャンプツーリングを考えている方にはおすすめのアイテムです。

  • 冬はバッテリーにも厳しい季節