バイク初心者が苦手とする操作のひとつが「半クラ」、いわゆる「半クラッチ」です。現在のクルマはほとんどAT化しており、変速機構付の自転車にもクラッチはないので、若い人にしてみれば難しくて特殊な操作技術に思えるはずです。
発進時に行う半クラッチは微妙なレバー操作が必要で、失敗するとエンストします。乗っているうちに慣れていくものですが、クラッチのしくみや操作のコツを理解すれば上達も早く、ライディングが楽しくなります。クラッチのしくみを解説した前回に引き続き、後編の今回は実践的な半クラッチ操作の上達方法について解説します。
■レバーは自分が握りやすい位置に調整
まずはバイクのクラッチレバーが自分の手で握りやすいかを確かめてください。バイクに跨り、グローブを装着して肩の力を抜き、4本の指をクラッチレバーに添えますが、この際に中指の第一関節がレバーに掛かるくらいなら力をかけやすいはずです。レバーの位置が遠かったり、近すぎる場合は調整しましょう。
レバーが遠い場合、ワイヤー式なら遊びの調整を少し多めに取って近づけることができますが、あまり多めに取りすぎると握り込んだ時にクラッチが完全に切れなくなります。最近はダイヤルでレバーの距離を調整できるモデルもありますが、自分のバイクに装備されていない場合、調整機構付きの純正レバーを流用したり、社外品に交換するという方法もあります。
また、レバーがカタカタと動いてしまう「遊び」を嫌い、ワイヤーを張り気味にする人もいますが、必ずレバー先端で1~2cmの遊びを取ってください。遊びを完全になくしてしまうと、常にクラッチが少し滑った状態になってクラッチ板を摩耗させてしまうからです。ハンドルを左右に振り、ワイヤーやホースが曲がっても遊びの部分があることも確認しましょう。遊びが大きく変わる場合、ワイヤーの異常や取り回しの間違いなどが考えられます。
レバーの向きは、市販車では水平もしくは若干下を向いています。標準的な体格に合う位置に設定されていますが、背の高さや腕の長さなどで自然な指の位置が変わってきますので、調整可能なら動かしてみるとよいでしょう。また、レバー根元の可動部やワイヤーなどにサビや腐食もなく、スムーズに動くことも確認してください。
■レバーにかける指は何本? 実はメインは中指
教習所ではクラッチレバーは4本で握るように教わりますが、公道では人差し指や中指の2本で操作しているライダーを多く見かけます。彼らはクラッチの操作にもすっかり慣れていますが、これを見て『4本指は初心者っぽい』からと、無理に2本指にする必要はありません。
人差し指と中指は長いのでレバーに指を掛けやすいですが、実際に握る力のメインは中指を使っています。レバーは「てこの原理」で作用するため、外側にある中指の方が軽くなりますが、人間の指は人差し指よりも中指や薬指、小指の方が力を入れやすいという理由もあります。これは「野球のバットを握る」、「誰かの腕をつかむ」、「机やイスを動かす」などの場面をイメージすると分かりやすいのではないでしょうか。
人差し指は強く握るよりも、ボタンを選んで押すなどの繊細な操作に向いているため、2本指で操作する場合は中指の力を微調整するような役割をしています。(ただし、ハンドルを抑え込みながら正確なクラッチワークを要するオフロード走行などでは、人差し指1本のレバー操作が適している場合もあります)
指の長さや握力の強さは個人差があるため、2本指の操作では疲れやすいと感じる人もいるはずです。トレーニングで握力を鍛えたり、自分の指にあった形状のレバーに変更する方法もありますが、2本指にこだわる必要はなく、自分が操作しやすいなら薬指や小指も使った方がよいでしょう。普段は2本指でも渋滞時は4本指にしたり、何十年も4本指で操作している大ベテランもいます。
■“使える”半クラッチのポイントを覚える
いよいよ実践的な半クラッチの練習ですが、「前編」で解説した通り、クラッチは握ったレバーを緩めていくことで「完全に切れた状態」から「駆動力を滑らせた半クラッチ」、「完全につながった状態」に変化します。「半クラッチ」の範囲はレバー先端で数センチほどありますが、クラッチが滑る量は一定ではなく、レバーの握り具合でリニアに変化します。この数センチある半クラッチの範囲内で、どこが“使える”ポイントかをつかんでおきましょう。
まずはエンジンをかけてギアを入れ、アイドリングのままクラッチレバーをゆっくり緩めてください。じわりと車体が動き出すタイミングがあるはずです。ここが浅い半クラッチで、この状態でいきなりレバーを離せばエンストし、スロットルを開ければエンジンが大きく吹きあがってしまうはずです。半クラッチと言ってもタイミングは早すぎで、ベストな半クラッチのポイントは、もう少しレバーを緩めたところにあります。
次もアイドリングのままクラッチレバーを緩めていきますが、今度はフロントだけブレーキをかけておきます。車体は動きませんが、リアタイヤは回ろうとするのでフロントが沈んでシートが上がってきます。さらにレバーを緩めていくとエンストしますが、最初に確認した浅い半クラッチのポイントよりもレバーを緩めているのがわかるはずです。
今度はスロットルを少し開けてアイドリングから500~1000回転ほど上げておき、同じようにクラッチレバーを緩めていきます。エンジンパワーが増えたため、アイドリングの時よりもさらにレバーを緩められます。この2回目と3回目で緩めたレバーの部分が発進時に“使える”半クラッチのポイントです。
これを何度か繰り返して“使える”半クラッチのレバーの位置と、スロットルをチョイ開けで止める感覚を覚えてください。二つの動作をなるべく早く正確に行えるようになれば、発進時の半クラッチは克服できたようなものです。走り出したらさらにスロットルを開けてパワーをかけ、同時にレバーも離してしまえば半クラッチの時間はだいぶ短くなるはずです。
■クラッチワークを覚えればライディングの楽しさも倍増
発進時に使える半クラッチのポイントやレバーの操作感が身についてくると、アイドリングから短い時間の半クラッチで走り出すこともできるようになります。エンジン音も静かでクラッチ板のダメージも少ないのですが、低速トルクの少ない小排気量車はエンストしやすくなるので注意してください。
また、急な上り坂ではエンジンのパワーが食われるため、せっかく覚えたベストな半クラッチのポイントではエンストしやすくなりますが、普段の平地スタートを苦もなくこなし、クラッチの理屈がわかっていれば、レバーを緩めるポイントやスロットル開度を調整することもそれほど難しくないはずです。
そのほか、「エンジン回転数をクラッチでコントロールする」という考え方もあります。少しスロットルを開けすぎた時、慌ててスロットルをオフにするのではなく、クラッチレバーを緩めて半クラッチを強めることでエンジンの回転上昇を止め、発進時の駆動力にしてしまうというものです。
難しい半クラッチもしばらく乗っていれば慣れてくるものです。しかし、ただ何も考えずに慣れてしまうとバイクを痛める悪いクセがつくこともあります。クラッチをはじめとしたバイクのしくみを知り、これらを活用した車体のコントロール術を覚えるとライディングは何倍も楽しくなります。一度身についた知識とテクニックは一生モノですので、ぜひチャレンジしてください。