16歳になれば簡単な筆記試験と講習で免許を取得でき、普通自動車の免許にも付帯される「原付」。小型でコスパも高いため、通勤や通学、買い物などの移動手段として親しまれてきた乗り物ですが、2025年10月末で新車販売ができなくなるという危機を迎えています。

これは「原付2025問題」というもので、現時点では「原付免許で125ccが乗れるようになる」という話も浮上しています。しかし、誤解されている方もいるかもしれませんので、今回は前後編の2回に分けて解説します。

■いわゆる「原付」の定義を再確認

「原付」と言うと一般の方は50ccを想像しますが、バイク乗りなら「原付」には「一種」と「二種」が存在するのをご存じですね。正確には50cc以下が「原付一種」で、50cc超125cc以下は「原付二種」に区分されます。

しかし「原付二種」は「小型」と言われることもあります。125ccクラスに二つの呼び方が混在しているのは、国土交通省が所管している「道路運送車両法」と警察庁が所管する「道路交通法」という二つの法律があるためです。

少しややこしいのですが、そのため車両の登録や自動車税の納付などでは「原付二種」と表現され、免許の区分や道路標識では「小型免許(普通自動二輪小型限定)」と言われるわけです。

今回取り上げる「原付2025問題」は、「原付一種」に区分される50cc以下のバイクに関することで、125ccの「原付二種」、つまり「小型」のことではでありません。

  • ちょっとややこしい「原付一種」と「原付二種」と「小型」の違い

■「原付2025問題」がおきた原因

原付の新車販売が2025年10月末に終了する理由は複数の原因がありますが、一番大きいのは2019年2月に公布・施行された「令和2年度排出ガス規制」です。一般的に排気ガスの浄化はマフラーに触媒を組み込みますが、この触媒は高温にならなければ機能しないため、排気量の小さな原付では温度を上げることができないという技術的な問題がありました。 もうひとつは、国内外で原付の需要が落ち込んでいることです。1980年代は国内で約200万台が販売されていましたが、2020年は約12万台まで落ち込みました。さらに数キロ程度の移動手段としては電動自転車も普及し、最近ではEVバイクや電動キックボードも登場しています。海外でも50ccの需要は縮小しているため、もはや原付は日本だけのガラパゴス規格になっています。

実は排ガス規制による原付の苦難は今回が初めてではなく、1998年からはエンジンの4スト化が余儀なくされています。従来の2ストより複雑になりましたが、原付は安さを求められる商品でもあるため、人件費の安い台湾や中国などで生産・販売をして価格上昇を抑え、設計もパワーと燃費を両立できるように力を入れるなど、メーカーは血のにじむような努力をしてきました。

しかし、今回の排ガス規制は非常に厳しく、仮に触媒を機能させる技術ができたとしてもコストが上昇します。海外の人件費は上がったうえに市場も縮小したため、今や日本だけの原付を赤字覚悟で開発して販売するのは困難を極めます。そのため原付は「令和2年度排出ガス規制」に3年間の猶予期間が設けられ、その期限が2023年の10月末に迫っているというわけです。

  • 原付が販売できなくなる原因は「排気ガス規制」と「シェアの縮小」

■排気量を125ccに拡大して出力を制限

日本のガラパゴス規格になってしまった原付に対し、原付二種である125ccクラスはグローバルな規格であるため、すでに排ガス規制をクリアしたモデルが国内外で販売されています。そこで原付を存続させるため『125ccを原付免許で乗れるようにできないか』という声が業界団体から挙がりました。

ただし、『原付免許で125ccのバイクが乗れるようになる』と言っても、今まで原付免許しか持っていなかった人を小型免許所有者に格上げするのではありません。原付の車両区分を「排気量」ではなく「出力(馬力)」に法改正し、原付仕様で販売する125ccのバイクはエンジン出力を制限しようというわけです。これは珍しいことではなく、海外では排気量ではなく最高速度や出力で免許や税金、保険料などの区分をしています。

こうすればエンジンや車体の大半に125ccモデルを流用できるため、排ガス規制とコストの問題はクリアできます。出力を落とす方法は吸・排気径を小さくする、スロットル開度に制限を設ける、ECUなどの電子制御でエンジンの最高回転数を抑えるなどの方法がとられるはずです。125ccのエンジンは10~15馬力位ありますが、現時点では4kw(約5.4馬力)程度に制限する案が出ています。

また、原付のみに定められていた「最高速度30km/h」や「二段階右折」、「二人乗り禁止」などの規制はそのまま残ると思われます。原付乗りからしてみればついでに撤廃してもらいたいかもしれませんが、事故などのリスクも高いため警察庁は認めないでしょう。

  • 新規格の原付は125ccのパワーダウン版が濃厚

■大幅にパワーダウンした125ccでちゃんと走るのか?

『125ccの大きく重い車体に極端に出力を落としたエンジンで大丈夫なのか?』と思う方もいるかもしれませんが、街乗りで遅く感じることはないはずです。その理由は、「出力(馬力)」が主に関係するのは最高速度で、スタート時などの加速が影響するのは「トルク」だからです。

トルクの大きさは排気量に比例し、一般的な4ストのエンジンでは排気量に0.007~0.01をかけた数値の最大トルク(kgf・m.)を発生できます。ターボやスーパーチャージャーのような過給機をつけない限り、トルクで小排気量車が大排気量車を上回ることはありません。

例えば「30kw(約40馬力)の250cc」と「15kw(約20馬力)の400cc」があったとします。出力値だけを見ると250ccの方がパワフルに思えますが、一般的な走行では排気量のある400ccの方が加速も力強く、扱いやすい乗り味になります。

出力はトルクを積み重ねたもの(出力=トルク×回転数)ですので、小排気量で高出力を発生させるエンジンは高回転まで回して稼いでいるというわけです。

次回の「後半」では、原付が125cc版になった場合のメリット・デメリットなどについて解説します。