安全なライディングに欠かせない部品のひとつが「ブレーキ」。メカに詳しくない初心者でも、愛車についているブレーキの種類や特長を知っておいて損はないはずです。
バイクに使われるブレーキには「ディスク」と「ドラム」の2つがあります。後編の今回で解説するのは「ドラムブレーキ」。古いバイクや、小排気量車のリアなどで使われるタイプです。
■意外と効くのにドラムブレーキが絶滅危惧種の理由
ドラムブレーキはドラム=樽のように、ホイール中心(ハブ)が樽のような構造を持ち、その外周にブレーキシューを押し付けてホイールの回転を止めるという仕組みです。構造が簡単でコストも安いため、原付やスクーターだけでなく、小・中排気量車にも採用されていました。
ブレーキは回転するホイールに摩耗材を押し付けるため、摩擦で生じた熱をいかに放熱するかが課題となります。1970年代から冷却性能の高いディスクブレーキが普及するとドラムブレーキは性能の低い旧式というイメージがつきましたが、少し誤解されていることもあるようです。
ドラムブレーキは密閉されているため冷却性能ではディスクブレーキに劣りますが、これは大きくて重いバイクや、サーキット走行などのような限界性能の話です。車体も軽く、低速域を多用する小型車などの場合はドラムブレーキの方が適していることもあります。
最近は小型車でもディスクブレーキを採用していますが、その理由は法改正により、新車で販売される125cc以上のバイクにはABSやCBS(前後連動ブレーキ)の装備が義務化されたことが関係しています。これらは油圧で制御するため、ワイヤー式が主流のバイク用ドラムブレーキはシステムに組み込みにくいというわけです。
■油圧不要で強烈に効く! ドラムブレーキの構造
ドラムブレーキはディスクブレーキのようにむき出しではなく、ホイール内部に組み込まれています。中には半円状のシューが2つあり、ブレーキのレバーやペダル操作で押し広げるという仕組みです。
一般的にドラムブレーキはディスクブレーキよりも効きが悪いイメージが持たれていますが、ディスクブレーキが油圧を必要とするのに対し、ドラムブレーキはワイヤーによる機械式でも強い制動力を発揮できます。
その理由はシューの面積が大きい上、押し付けたシューが回転するドラムに巻き込まれるように自己倍力作用が働くためです。厳密に言うと原付やリアなどで使われる「リーディングトレーリング式」では2つのシューのうち片側にしか倍力作用が働きませんが、両方のシューに倍力作用を持たせた「ツーリーディング式」というものも存在します。
ディスクブレーキが普及する1970年代までは、市販車はもちろん、サーキットを走るレーサーでも主流はドラムブレーキでした。その時代はツーリーディング式を二重に備えた「ダブルパネル」というタイプまで生み出されています。マニア好みの究極形ドラムブレーキとも言えるものですが、90年代のレトロブームで採用した国産モデルもあったほどです。
■簡単でも意外と知られていない調整方法
機械式のドラムブレーキは油圧のチェックやフルード交換は不要ですが、ディスクブレーキのように摩擦材が減っても自動で調整されないので、定期的に引きしろを調整しなければなりません。
シューの摩耗が進むとレバーやペダルの遊びが大きくなってしまうのですが、調整はワイヤーの先についたロッドのナットを締めるだけなので、誰でも簡単に行うことができます。締めすぎるとブレーキを引きずってしまうので、タイヤを浮かして空転させながらチェックするとよいでしょう。
ブレーキシューは密閉されたドラム内にあるため、交換するには車体からホイールを外さなければなりません。しかし、摩擦材の減りを確認するのにホイールを外すのも大変ですので、ほとんどのバイクにはドラムから出たアームの根元にシュー残量を示すインジケーターがついています。
ただ、ドラムブレーキは密閉式のため、どうしても摩耗材のダストが内部に溜まってしまいます。ブレーキシューの残量があったとしても、タイヤ交換のようにホイールを外すメンテナンスが生じた際はドラム内のクリーニングをしておくのがよいでしょう。
■見た目や効き味もノスタルジックを味わえるドラムブレーキ
中型以上のバイクでサーキットやワインディングといったスポーツ走行をメインにしたい方にはディスクブレーキがおすすめですが、低・中速域ならドラムブレーキでも効きは十分です。油圧系のメンテナンスも不要なので、あまり手間をかけたくない通勤用の原付や小型のセカンドバイクにも最適でしょう。
また、これからDIYメンテナンスに挑戦してバイクの構造を勉強したい方にもドラムブレーキ車はよい教材になるはずです。もちろんブレーキ系なので十分な注意が必要ですが、構造はシンプルな上、油圧式ブレーキのメンテナンスではコツがいる「エア抜き」も不要です。
そのほか、ドラムブレーキに関しては、ロングセラーのヤマハ「SR400」で面白い話があります。SRは1978年のデビュー時にディスクブレーキを採用していましたが、1985年のモデルチェンジでドラムブレーキが装備されました。当時は最新技術を投じたレーサーレプリカブームでしたが、その一方で性能よりもトラディショナルな雰囲気を求めるユーザーも増えており、第一線を退いていたSRがそれに応えたというわけです。結果的にドラム版のSRは大ヒットし、2001年まで販売されました。
コロナ禍ではちょっとしたバイクブームになりましたが、中でもネオクラシック系モデルの人気が高まりました。その理由は高性能スポーツのように気負わず、のんびり走りながら昔ながらの「単車」の世界を楽しめることですが、こういったユーザーならクラシックの原点であるドラムブレーキ車を選ぶのも面白いのではないでしょうか。
今後はドラムブレーキを装備した新車が発売される可能性は低いので、今のうちに味わっておくのもよいかもしれません。