バイクのタイヤは操縦性や安全性に大きく影響する重要なパーツです。ライディングが上達するほどタイヤに対するこだわりは強くなるものですが、毎日乗る前に必ず前後の空気圧をチェックする人はごくわずかです。
初心者でもツーリングの前くらいは空気圧チェックを行う人も多いはずですが、出先でパンクをしてしまうこともあります。今回はパンクの原因や、修理の際に注意すべきことなどを紹介します。
■何かおかしい? と思ったら、まずはタイヤをチェック
タイヤの空気圧は、「kPA」や「Kg/cm2」などで表記されますが、スポーツタイプの場合はフロントで2.0、リアで2.3~2.9ほどです。車種によって異なりますが、チェーンガードの周辺や、スクーターならラゲッジボックスなどに記載されています。
空気圧は気温や路面温度のほか、走行による熱によって微増することはあるものの、勝手に増えていくことはありません。また、規定値にしっかり入れたとしても、タイヤとホイールの接合面や、ゴムの分子間をすり抜けるため1カ月で5%ほど空気圧が低下するといわれています。
バイクは身体を使って操る乗物なので、初心者でも意外とフィーリングの変化に気がつくものです。「乗り心地が悪い」「直線や加減速で前・後輪がフラつく」「コーナリングで滑る、ハンドルが内側に切れ込む」など、いつもと違うように感じた場合、まずはタイヤの空気圧をチェックしてみてください。エアゲージは個体差もあるので、毎回同じものを使うとよいでしょう。
また、意外なことに毎日通勤で使っている人の場合、徐々に空気が抜けていると感覚が慣れてしまい、タイヤのサイドウォールが潰れてダメージが出るまで気がつかないこともあります。毎日エアゲージで計るのは面倒だとしても、タイヤを指で押して確認すれば異常に気づきやすくなるはずです。
■パンクの原因は、ほとんどが釘や針金など
未舗装路も多く、タイヤの性能も低かった時代よりはずいぶん減りましたが、今でもパンクは起きてしまいます。その原因のほとんどは路面に落ちていた釘や針金など、鋭利な金属の異物を踏みぬいてしまうことです。
パンクはリアタイヤが多いのですが、これは路上の釘や金属片をフロントタイヤが踏んで起こしてしまい、それが倒れる前にリアタイヤに刺さってしまうためです。前方を走る車両が異物を起こして自車のフロントタイヤに刺さることもあるため、やはり適度な車間距離は重要というわけです。また、路肩に近いほどパンクの原因になる異物は多くなります。
釘を踏んだ場合、自転車と同じ構造のチューブタイヤはすぐに抜けてしまいますが、現在主流のチューブレスタイヤはしばらく走ることができます。これはチューブレスタイヤのメリットですが、刺さった釘が栓をした状態になっているため、慌てて抜くと急激に空気が抜け始めてしまいます。異物が刺さっていることに気がついてもすぐに抜かず、エアを補充して安全に修理ができる場所まで慎重に走らせてください。
そのほかのパンクのケースではエアバルブの劣化があります。古いエアバルブは根元に亀裂が入りやすく、停止中は漏れていなくても、走行中の加減速で動いた際にエア漏れを起こします。さらに悪化して亀裂が大きくなると数秒で完全に空気が抜けてしまうため非常に危険です。エアバルブは一個数百円ほどの部品ですが、道端での修理は難しく、お店に頼めばそれなりの工賃もかかります。そのためタイヤ交換時には必ず新品に変えておくことをおすすめします。
■修理の方法と失敗するケース
ツーリングの途中で不運にもバンクした場合、バイクショップなら修理に応じてくれますが、ガソリンスタンドでは断られることもあります。修理方法はクルマとほぼ同じなのですが、バイクは修理する側にとってリスクが高いためです。
中級者になると市販のパンク修理キットを持参する人もいます。チューブタイヤは自転車のようにタイヤからチューブを引き出してパッチを貼りますが、チューブレスの場合は刺さっている釘や異物を抜き、そこにラバーセメントを塗ったゴム紐状のシール材や円錐状のプラグをねじ込みます。
チューブレスのパンク修理で失敗するケースの多くは異物の刺さっている角度を間違えてしまうことです。まずは異物が刺さっている角度を確かめながらペンチなどで慎重に引き抜きますが、念のため細い針金や爪楊枝などを差し込んで確認するとよいでしょう。異物の破片が残っているようなら取り除きます。そのあとはラバーセメントをたっぷり塗ったリーマーを同じ角度で押し込み、抜き差しや回転を数回繰り返します。穴を広げてしまうように思えますが、これは傷口をキレイにして整形し、セメントを浸透させるため必要な作業です。
ラバーセメントは固くなるのではなく、ゴムを溶かして溶着させるものなのでシール材や円錐状のプラグにも塗っておきます。チューブ用のパッチはある程度乾燥させてから貼り付けますが、チューブレスの場合はたっぷり塗って乾く前に穴に押し込み、ボンベやポンプでエアを充填して漏れが止まっていれば成功です。そのあと、余分な部分をカッターで切り取ります。
しかし、これは一時的な修理ですので、タイヤの寿命までもつとは限りません。走行による摩耗でトレッドが薄くなれば補修箇所の強度も弱まってきますので、早めに交換したほうが安心です。
■修理キットでは直らないケース
パンクは一か所とは限りませんので、ほかに刺さっている部分がないかを確認しましょう。洗剤を吹き付ければ分かりやすいですが、出先では用意できませんので、タイヤを回しながら空気が抜ける音を聞いたり、怪しそうな部分に唾をつけるといった方法があります。キャンプツーリングで石鹸を持っていたら活用できます。
修理キットで直せるのはタイヤが路面に接するトレッド面だけです。側面のサイドウォールに釘などが刺さることはなく、ほとんどはイタズラによるものですが、ここは修理できません。また、サイドウォールが近いショルダー部分も修理が難しい部分です。
そのほか、トレッド面でも大きな穴や、金属板の破片などで傷口が長い亀裂になっているものは、修理で一時的に漏れが止まったとしても、亀裂が成長して再び漏れてしまうこともあります。これはタイヤを外して裏側から行う本格修理でも難しいでしょう。
また、すり減ってトレッド面が薄くなったタイヤほどバンクしやすくなります。十分な山がある場合、短い異物なら貫通せず、走行しているうちに抜けることもありますが、そのまま放置しておけば摩耗と同時に押し込まれて穴を空けてしまいます。普段のメンテナンスでトレッド面に刺さった異物をチェックすればパンクのリスクを減らすことができるでしょう。
■定期的な空気圧のチェックはライダーのスキルも上げる!
定期的な空気圧チェックはタイヤの異常にいち早く気がつき、パンクのリスクを減らします。トレッドやサイドウォールも正常な形状に保たれるため、タイヤの寿命も延びるはずです。
空気圧は冷間時にチェックするのが原則ですが、走行によるタイヤの加熱や外気温によって空気の体積が増えるため微増します。また、新品タイヤに交換した直後はタイヤが成長するため空気圧が落ちることもあります。
空気圧を意識して走るようになると、高圧と低圧で走行フィーリングにどんな違いが出るのかが判断できるようになります。個人差はありますが、0.3~0.5位の変化に気づくようになるでしょう。
タイヤはメーカーやジャンル、トレッドパターンやプロファイル(断面形状)の違いによってフィーリングが異なりますが、適正な空気圧の走行感覚が身につくと、さまざまなタイヤの特性も分かるようになり、自分の好みや使い方にあった製品選びにも役立ちます。パンク防止だけでなく、安全で楽しいバイクライフのため、ぜひ空気圧にこだわってみてください。