真夏のライディングはライダーにとって過酷なものですが、これは機械も同じです。ライダーが暑いと思っているときは、相棒のバイクも苦しんでいるわけです。
現代のバイクはオーバーヒートのトラブルは少なくなりましたが、それでも近年は夏の気温も上がっており、故障の可能性がゼロとは言いきれません。今回は夏のメカトラブルについて解説します。
■オーバーヒートってどんな現象?
オーバーヒートはエンジンが発する熱量が冷却性能を上回ったときに起こる症状で、そのままではエンジンが壊れてしまいます。古くからある空冷式はシリンダーに放熱フィンを設け、そこに走行風を当てることで冷却していましたが、現在主流の水冷式ではシリンダー壁を二重にして冷却水で満たし、ラジエターに循環させることでエンジンを冷やしています。
一般的にエンジンの発熱量はパワーに比例しますが、空冷では冷却性能に限界があります。水冷化によってエンジンのパワーも飛躍的に向上したものの、さらに増えた熱量を冷やすため、ラジエターからは高温の風が排出されます。通常は走行風で十分に冷却できる設計になっていますが、渋滞や停止時はラジエターファンを回すことで風を取り込みます。
オーバーヒートの原因は、この冷却システムの設計限界を超えるようなトラブルが起きたためです。症状としてはパワーが落ち、エンジンが息をついたり、シリンダーからチリチリとノッキングの音が出始めます。そのまま走行しているとピストンやバルブを溶かしてしまうこともあるため、すぐにエンジンを冷やさなければなりません。
現代のバイクには、昔は当たり前のように装備されていた電圧や電流、油温計などはついていません。これは機械としての信頼性が向上したためですが、水温計や警告灯はいまだに残っています。それだけ水冷の冷却システムは重要ということです。
■オーバーヒートしたらどうすればよい?
水温計の針がレッドゾーンに入ったり、水温警告灯が点灯したときは『もう暑くてダメだ!』というバイクからのサインです。速やかにバイクを止めるべきですが、この時も人間と同様、日陰で風通しのよい場所を選んでください。
この際、『エンジンを切ると冷却水のポンプやラジエターファンも止まってしまうため、アイドリングで様子を見たほうがよい』という説がありますが、これはダメージを大きくする可能性があります。オーバーヒート時はラジエターがファンを回して必死に冷却しようとするはずですが、ファンがきちんと作動していたかを確認したら速やかにエンジンは停止させたほうがよいでしょう。
水冷の冷却システムでは、エンジンの熱で冷却水の温度が適温になるとサーモスタット(弁)が開いてラジエターに循環させ、さらに上がるとラジエターに走行風があたっていないと判断してファンのスイッチが入る仕組みです。もしも渋滞のオーバーヒート時にファンが回っていなかったら、ファンモーターやサーモスタット・スイッチ類といった電装系の故障が考えられます。通常走行でラジエターに風が十分あたっているときにはファンは回らないので、この場合はほかに原因があります。
ファンが勢いよく回り続けているのに水温が下がらない場合は、冷却水の漏れや劣化による詰まり、サーモスタットやウォーターポンプの故障といった冷却水路のトラブルが考えられますが、まれにラジエターが泥などで汚れていたり、フィンの破損や曲がりで風が通りにくくなっているケースもあります。そのほか、冷却系以外でも点火系の故障による異常燃焼、エンジンオイルの潤滑不良などもオーバーヒートを引き起こします。
■まずはリザーバータンクを確認
水冷式のエンジンにはリザーバータンクと呼ばれるものがついており、日常点検ではこのタンクの目盛りで冷却水の量をチェックします。ここはラジエターとホースでつながっており、温度変化によって体積の変わった冷却水を吸い上げたり戻したりしています。
このタンクが空になっていた場合、ラジエターの冷却水漏れが考えられます。また、規定のレベルまで入っていたとしても、古くて整備状態が悪いバイクの場合、ラジエターキャップの劣化や、ラジエターにつながるホースに汚れが詰まり、きちんと機能していないこともあります。
冷却水がエンジンの外に漏れていた場合、独特の臭いやシミなどの痕跡が残るのですぐにわかりますが、まれにウォーターポンプのシールやベアリングが破損してエンジン内部に漏れることもあります。基本的にエンジン内には漏れない設計になっていますが、念のためエンジンオイルの量や汚れも確認したほうがよいでしょう。
■熱いときにラジエターキャップを開けると大やけどをすることも
正確に冷却水を点検するにはラジエターキャップを開けなければなりません。教習所で習うかもしれませんが、エンジンが熱いときに慌ててキャップを開けると、大やけどをするほどの蒸気が吹き上がるので注意してください。
キャップを開けるときはエンジンが十分に冷えたあとで行いますが、早くエンジンを冷やすため水をかけると高温の蒸気が発生し、電装系をはじめとしたさまざまな部品に悪影響を及ぼします。エンジン内に冷却水がなく、高温の空焚きになった状態でいきなり水を入れると破損や変形を引き起こすこともあるので、焦らず時間をかけて自然に冷やしてください。
エンジンが冷えたら、ウエスなどをあてて慎重にラジエターキャップを開けます。キャップは安全のため二段階で開くようになっているので、一段目で蒸気などが抜けていることを確認します。
キャップを開けると通常は注入口いっぱいまで冷却水が入っています。量が減っていれば応急処置として水道水を入れることもできますが、内部を腐食させる原因になるので、早目に専用の冷却水に入れ替えてください。
また、応急処置ができたとしても、トラブルの原因が見つからなければ事態を悪化させてエンジンを完全に壊してしまう恐れもあります。バイクの任意保険にはロードサービスが付帯しているものが多いので、加入されている方は無理に自走しようとはせず、バイクショップに運んでもらったほうがよいでしょう。
■冷却系の点検方法と、水温を上げない走り方のコツ
トラブルでツーリングを台無しにしないためにも、事前の冷却系チェックをおすすめします。エンジンをかける前にラジエターキャップを空けて冷却水の量を点検し、リザーバータンクの量も確認します。エンジンを始動し、停止させたまま少し回転数を上げておけば、水温が上がってラジエターファンも回りはじめます。この際、ラジエター内で体積の増えた冷却水がリザーバーに戻されるため、タンクの水位が少し上がるはずです。アイドリングに戻してしばらくすれば、水温も下がってファンも止まります。
また、冷却システムに不具合はなくても、真夏はあらゆる機械にとって厳しい季節です。ライダーがバテないようにするのと同様、バイクもエンジンの水温を上がりすぎないよう、走り方やルートを工夫するとよいでしょう。
バイクやクルマのエンジンは、高回転の多用や急加速をすることで水温が上がりやすくなります。夏場はラジエターの冷却効率も下がりますので、気温の高い時間帯や、市街地の渋滞などではスロットルワークを普段より丁寧に行えば無駄な水温上昇を防ぐことができます。
ツーリングのプランを考えるときも、遠回りでも渋滞の少ないルートを選んだり、ワインディングの後はクールダウンできる休憩ポイントを設ければバイクとライダーの負担を減らせます。直射日光のあたらない高架道路の下やトンネル、樹木の多い高地や海風の吹く海岸線など、ライダーにとって涼しい場所はバイクにとっても快適です。休憩時の駐輪も日陰で風通しのよい場所を選べばトラブルも起こりにくくなるはずです。