初心者のバイク乗りがよくやってしまうのが「立ちゴケ」。停車しているバイクをうっかり倒してしまい、お財布とメンタルに大ダメージを与えるトラブルです。
4つのタイヤで自立できるクルマと違い、バイクには立ちゴケのリスクがついてまわります。今回は、そんな立ちゴケを引き起こす危険なシチュエーションを紹介します。
■ベテランでも陥る? 不意のエンスト
意外に多いのが、エンストによる立ちゴケです。ギアをローに入れてクラッチをつなぎ、発進しかけたところでエンジンがストップ。『アッ!』と思ったときには車体がグラリと傾きます。
普通にバイクを停止させたときに立ちゴケをする人はあまりいませんが、それは頭も身体も止まったバイクを支えるための準備ができているからです。不意のエンストでは混乱して判断が遅れ、車体も身体も揺さぶられてバランスを崩します。とっさに足を出せたとしても、バイクを支えられる場所につけなければ、重さに耐えられず倒してしまうでしょう。
軽いバイクなら持ちこたえられるかもしれませんが、リッタークラスの重いバイクはベテランでも厳しいものです。最近の大型車は走行中ならヒラヒラと軽快ですが、停車時は250kg以上の車体が一気にのしかかり、傾くほど重量が増していきます。買ったバイクをわざわざ倒して引き起こしの練習をする人はいませんから、そのときに愛車の本当の重さと、自分の体力のなさを知るというわけです。
エンストはクラッチ操作に不慣れな初心者に多いですが、ベテランのライダーでも、エンジンが温まるまで調子の出ない古いバイクなどでやってしまうことがあります。
■サイドスタンドの不適切な使い方
バイクには停車時のためにスタンドがついています。リアタイヤを浮かせて車体を直立させるセンタースタンドは教習所でも最初に練習したはずですが、軽量スポーツやアメリカンなど、サイドスタンドしか持たないバイクもたくさんあります。
サイドスタンドは手軽ですが、立てる場所は注意が必要です。とくにロードモデルはアスファルトを前提にしているので接地面積も少なく、未舗装路ではめり込んで倒れてしまうこともあります。キャンプ場など、未舗装の駐車場に停めるときはスタンドの下に板を敷いたり、木や支柱などにロープで固定するといった対策をした方がよいでしょう。スタンドの接地面を拡大するプレートも市販されています。また、アスファルト路面でも施工されて間もないところは柔らかいため、炎天下でめり込むこともあります。
純正のサイドスタンドはさまざまな状況でちょうど良い傾き具合に設計されていますが、サスペンションやホイール・タイヤの変更などで車高に変化があった場合、傾斜角度も変わってきます。車高を上げれば傾きも大きくなり、下げれば車体が立ちすぎてバランスを崩しやすくなります。適正な角度に補正するには、スタンドを加工したり、社外パーツや他車の流用といった方法がとられます。
そのほか、チェーン注油や足廻りチェックなどで車体を動かしながら整備するときは、引きずったサイドスタンドが半掛けになって外れてしまうこともあります。また、急な坂道や強風が吹く場所ではバイクが動いてスタンドが外れてしまうので、必ずギアを入れておきましょう。
■センタースタンドの失敗
センタースタンド掛けは教習所では最初に教わりますが、教習所の平坦な路面と違い、公道では路面の傾きや窪みなどがあります。2つの足があるためサイドスタンドより安定しますが、接地面積はそれほど大きくはないため、未舗装路ではサイドスタンドと同じように、めり込まないための工夫が必要です。
センタースタンドは平坦なところで掛けるのが鉄則で、傾いている場所では失敗する可能性が高くなります。教習所ではスタンドを外したときは車体が身体側に傾くよう、ハンドルを右に切ることを教わりますが、運悪く身体と反対側に傾いた状態で掛けてしまった場合、外すと反対側に倒れてしまう恐れがあります。
この場合、車体の左側に立って外そうとはせず、バイクにまたがった状態でセンタースタンドを外す方が安全です。そのままではバイクは動きませんから、腰を浮かしてハンドルを後ろに引き、前輪を浮かすように勢いをつけて車体を前に出し、外れたと同時にシートに飛び降りて右足で支えます。
傾斜は前後方向にも気をつけてください。フロントを下にするのは自重で外れやすくなるので当然NGですが、フロントを上にすると掛けるときは力がいらないものの、外すのは大変になります。また、掛けたときのショックでスタンドの根元に強い力がかかり、部品が変形しやすくなります。場所によってはサイドスタンドと輪留めやブレーキレバーのロックを組み合わせた方が安定します。
■狭い坂道の転回では山側の足をつく
狭い場所の低速ターンは初心者が苦手とするものです。教習所で教わったように、足はステップに乗せたままバランス感覚を磨くのもよいですが、自信がないなら足を出した方が安全でしょう。ただし、坂道の転回や徐行では注意が必要です。
坂道での転回は、平地とは違ったアクセルやブレーキ、クラッチワークが必要なうえ、下り坂の方向に足をついたときは車体の傾きが大きくなるので支え切れません。下り方向に倒してしまうとバイクのダメージも大きく、起こすのも大変です。
初心者の場合、こういった勾配のきついところで無理に転回することは避けた方がよいですが、どうしても途中の路地や車庫に入れなければならない場合、車体は重力に対して垂直に立て、地面につく足は上り側だけにするよう意識します。つまり、急こう配の途中で左に曲がるときは教習所のように必ず左足をつくのではなく、右足を使うというわけです。
また、平地でも停止時に足をつく際、路肩は砂や水、落ち葉やゴミ、窪みなどが多く、これでバランスを崩したり、靴の紐やジーンズの裾がステップに引っかかって足を出し損ねることもあります。倒れたバイクと縁石に足首などを挟んでしまうと、立ちゴケ程度でも骨折などの大ケガを負ってしまうでしょう。
■無理に粘らず、危険だと思ったらあきらめる
いくつか立ちゴケのリスクや回避方法を解説してきましたが、無理に粘って立て直そうとしてもいけません。傾いた車体の下敷きになって足腰を打撲したり、ハンドルやレバーに指を挟むと骨折することもあるからです。挟まれた状態で動けなくなり、後続車に追突されたら目も当てられません。
これは走行中の転倒時にもいえることですが、もうダメだと思ったらバイクから離れて身を守ることが重要です。バイクはお金をかければ直りますが、自分の身体は元には戻りません。軽い打撲や擦りキズ程度ならまだしも、手や足などの骨折は意外に治りにくく、つらいリハビリをしても後遺症を負うリスクがあるからです。
経験を積めば立ちゴケなどの転倒も減りますが、どれだけキャリアを積んでもバイクは転倒のリスクを抱えた乗り物です。立ちゴケ程度は大ベテランだって経験していることなので恥じることはありません。万が一のときは自身の安全を最優先にしてください。