あまりお金もかからず、交換後の効果も体感しやすいハンドルのカスタム。前回はおおまかなハンドルの規格や、交換時の注意点などを紹介しました。
後半の今回は、自分のライディングに最適なハンドル選びの参考になるよう、さまざまなハンドルのバリエーションについて紹介します。
■オンロードタイプのハンドル
バイクのバーハンドルは厳密に区分けされているわけではありませんが、ある程度の形状で名称がつけられています。オンロード車に純正装着されているものは、1本の丸パイプを上方と手前に軽く曲げた「コンチネンタル」といわれるオーソドックスなタイプで、高さや曲がりの形状もさまざまなバリエーションがあります。
「スワロー」や「コンドル」は、パイプを途中で切断して溶接したもので、昔からスポーティなカスタム用のハンドルとして知られていました。形状は似ていますが、前者はバーの高さがフラットに近く、後者は高低差がついています。上下をひっくりかえすとさらにグリップ位置を低くできますが、ハンドルを切ったときにタンクに当たってしまうこともあります。
「ドラッグ」や「フラット」などは、パイプの形状がほぼ真っすぐな形状のタイプで、見た目のインパクトも強いため、ストリート系のカスタムユーザーには人気のあるハンドルです。シンプルですがグリップ位置は遠くなり、握った感覚も独特なものになります。
いわゆる「アップハン」といわれるものは、高めのコンチネンタルから、アメリカンやクラシック、ストリート系にもマッチする高低差がついたタイプが数多く存在します。高さや幅だけでなく、手前に絞られたものはグリップが近くなって上体の前傾度が軽減されます。
■オフロードバイクのハンドル
オフロード系のバイクはスポーツバイクに比べてハンドルが高くてラクそうに思えますが、よく見ればトップブリッジの位置が高く、ハンドル単体はそれほど高低差がないことがわかると思います。
オフロードバイクはオンロードのスポーツバイクと違い、ガソリンタンクとシートの段差が少なくなっています。これは本格的なダート走行では下半身をハンドルポストからリアタイヤの上まで前後に大きく移動させてライディングするためです。
そのため、ハンドルもライダーが前後左右に動きやすい形状で、外乱を受けた前輪を抑え込みやすいよう、幅広で絞り角度も開いたものが一般的です。中央にハンドルブレースという補強を入れることがありますが、オンロードのバーハンドルでもドレスアップや機器のマウント用に使われています。
アドベンチャー系は軽いダート走行もカバーできますが、オンロードツアラーの要素も兼ねたモデルです。そのため、車体も本格的なオフロードではなく、ロードモデルのフレームやエンジンをベースとして、ハンドルを高くすることでアップライトなポジションにしているものも多くあります。
■アメリカンのハンドル
アメリカンタイプは実用やコーナリング性能よりも、直進安定性やルックスを重視したバイクです。そのため、ハンドルの形状にもこだわるオーナーも多く、社外品は星の数ほど存在します。
例えば、バーがほとんど一直線の「ドラッグバー」や、高い位置でぶら下がるように握る「エイプバー」や「チョッパーバー」のほか、トップブリッジに付けるバーマウント用の「ライザー」も長いものから曲がったものまで、さまざまな形状があります。
映画やイベントなどで見かけるような、極端に高いハンドルと低いシートのロングフォーク・チョッパーは言葉にできないカッコよさがありますが、実際に乗ってみると前輪が大きく切れる低速カーブではハンドルから手が離れそうになったり、長時間走行では肩より高い位置まで上げた両手がとてもキツいうえ、腰にも負担がかかってきます。
しかし、徹底してスタイルにこだわるのもバイクの楽しみ方のひとつ。不便な面もありますが、ロングストレートのクルージングでは、アメリカ映画の主人公になったような気分も味わえるでしょう。ハーレーなどアメリカンバイクのハンドルは一般的な22.2mmではなく、25.4mm(1インチ)が使われていますが、ほかにもデザインと強度を両立した1.25や1.5インチの「ファットバー」と呼ばれるハンドルがあります。
■見た目だけでなく、握ったときのフィーリングも重要
そのほか、ちょっと変わった形状のハンドルとしてはトライアル車が挙げられます。足をつかずにバイクを停止させたり、人の背ほどある障害物を一気に駆け上るデモンストレーションを一度は見たことがあると思いますが、よく見るとバーエンドが上方に反り上がっているのがわかるはずです。
トライアルのライダーはシートから立った状態でバイクをバランスさせたり、全身を使ったアクションを起こしますが、この体制で繊細なハンドルとスロットルなどのコントロールをするため、上方に絞りがついているというわけです。
バイクを使った競技ではライダーが意図的にハンドルを操作してバイクの動きを引き出すこともありますが、変な力が入ってコントロールミスをしないようなハンドルの形状にこだわります。そこまで過激なライディングをしない一般ライダーでも、ハンドルはバイクのセルフステアに任せたままスロットルやレバーの操作が確実に行え、接地面やステアリングが切れる感覚がわかりやすい形状の方がライディングも楽しくなるはずです。
■初心者の場合、まずは純正の状態で乗ってみることがおすすめ
社外のハンドルは数千円で販売されているため、純正でバータイプのバイクなら手軽なカスタムのように思えます。しかし、大幅な変更をする場合は解説してきたような課題があるうえ、手間もコストもかけたのに満足できなかった、ということにもなりかねません。
市販のオートバイはより多くの人が乗りやすいポジションで設計されており、上体の前傾具合などもモデルの特性を活かすものになっています。大げさにいえば、スポーツバイクにアメリカンの高いハンドルや、オフロードバイクに低いセパレートハンドルを付けると、そのバイクの良さがスポイルされてしまうでしょう。ただ、身長が低かったり手足が長い人の場合は体形にあわせるためのハンドル交換は効果的なはずです。
バイクのハンドルは“たった1本のパイプ”ですが、カスタム車両のイメージをガラリと変えてしまったり、マシンの挙動や路面状況を感じるセンサーとして大きく影響します。実はかなりマニアックなパーツで、中には数ミリ単位の形状にこだわって特注する人もいるほどです。
新しいバイクを買った場合、いきなりハンドルを交換するのではなく、まずは純正の状態でしばらく乗ってみて、設計者がバイクに込めたこだわりを探してみるのもよいと思います。『なるほど、だからこんな形にしたのか! 』と、新しい発見をすることがあるかもしれません。