『ハンドルは低いほどカッコいい! 』といわれたのは昔の話。今はストリートやアドベンチャー系のようなアップライトなライポジのモデルも人気が高く、フルカウルのロードスポーツにアップハンを付けたいという方もいます。

アップハン、つまり純正よりハンドルのグリップ位置を高くさせる改造ですが、最大のメリットは見てのとおり、乗車中の姿勢がラクになることです。

しかし、高ければ高いほどラクになるというものでもありません。今回は、そんなハンドル廻りのカスタムについて解説します。

■バイク用ハンドルの種類と規格

バイクのハンドルは1本のパイプを曲げた「バーハンドル」と、左右で別れた「セパレートハンドル」があります。どちらもバーの直径は国内モデルならほとんどが22.2mm(7/8インチ)ですが、ハーレーなどのアメリカンタイプではひとまわり太い25.4mm(1インチ)が採用されています。また、アメリカンやオフロードモデルではグリップ部とクランプ部で径が異なる「テーパーバー」というバーハンドルが使われているモデルもあります。

市販されている社外ハンドルもこの規格なので、もともと1本のバーハンドルがついたモデルであれば、“バー交換だけ”なら比較的簡単です。対してセパレートハンドル車の場合はスペーサーで嵩上げするか、トップブリッジ廻りをバーが取り付けられるクランプ付きのパーツに交換します。

セパレートハンドル車用のバーハンキットは車種別の専用品が販売されていますが、適合する製品がない場合、純正のトップブリッジに穴をあけて汎用クランプを取り付ける方法があります。しかし、もともとセパレートハンドル用に設計されたトップブリッジなので、どんなモデルでも簡単に取り付けできるというものではありません。

また、バーが取り付けられるようになったとしても、市販のハンドルは高さや幅、曲がり具合が異なったものが数多く存在します。何も考えずに好きな形のハンドルを買ってしまうと取り付けに苦労するほか、タンクやカウルを傷つけたり、指を挟むなどの不具合が生じることもあります。

  • 「バーハンドル」と「セパレートハンドル」の違い

■バータイプは高さ、幅、絞りもさまざま

バータイプのハンドルは、おおまかには「オンロード」、「オフロード」、「アメリカン」で分別されます。「高さ」のほかにも「幅」や「絞り」など、形状はさまざまで、ほとんどは1本のパイプを曲げたものですが、急な角度を付けるために途中でパイプを切断して溶接したものもあります。

パイプの素材はスチール製のほかにも軽量なアルミ製がありますが、軽い方がフロント廻りのレスポンスが機敏になり、路面の状況もわかりやすいため、オン/オフのスポーツ系バイクに向いています。対してツアラーやアメリカンなど、ゆったりしたハンドリングを好む人はスチールバーと重いバーエンドウエイトの組み合わせを好むようです。

大排気量の単気筒や二気筒エンジン車は振動がハンドルにも伝わってきますが、これを軽減させるには、長めのスチールバーの内部にもウエイトを加えたり、グリップもヒダのついたレトロ風や、厚めのタイプに交換するといった方法がとられます。さらにクランプの付け根をゴムマウント化すれば振動は減りますが、あまりやりすぎると接地感や操舵感が薄れてしまうというデメリットもあります。

■バーの交換だけでは済まないことも

ハンドル交換をする場合、バーを付け替えるだけでなく、グリップやスイッチボックスのほか、スロットルやブレーキ、クラッチなどのホースやケーブル類も付け直さなければなりません。純正よりも大幅に高いハンドルに交換した場合は、これらの長さが足りなくなることもあります。20~30mm位なら許容範囲といわれることもありますが、車種や取り付けるバーの形状によって変わってきます。

仮にギリギリで付けられたとしても、ハンドルを左右に切ったり、フロントサスペンションが伸びたときにホースやハーネスが突っ張ってしまうと、走行中に破損したりスロットルが開いて暴走や転倒の恐れもあります。ハーネスが断線するとショートして電装部品が壊れたり、最悪の場合は車両火災になります。

そのため、長さが足りなければホース類も変更しなければなりませんが、極端に長すぎると挟んで破損したり、無理に曲げてホースやケーブルに負担をかけてしまいます。このほか、スイッチボックスに回り止めの突起がついたものは、ハンドルバーに穴をあける加工も必要です。

人気のあるモデルはパーツメーカーから専用のアップハンキットが販売されています。加工済みのハンドルバーやブラケットに加え、最適な長さのホース類や延長用ハーネスも付属しているため、取り付けに苦労することはないでしょう。ショップに依頼した場合の工賃も安く済むはずです。

  • ホースやハーネスなどの付け直しも必要

■高すぎのハンドルはかえって疲れることも

ハンドルを高くして背筋がまっすぐになれば上体はラクになりますが、これは停車中に限った話ですので、実際は走行中のイメージを意識してポジションを選ぶべきです。一定走行で巡行するアメリカンや市街地メインのストリート系ではそれほど不具合は感じませんが、ハイウェイを長時間走るようなツアラーやスポーツバイクの場合、高すぎるハンドルは意外と疲れてしまいます。

風の強い日に歩くときは前かがみの方がラクなように、高速巡行では適度に前傾して風圧に上体をゆだねる方が疲労は少ないというわけです。上体が立った姿勢では変動する風圧に耐えながらバランスをとり、加速時は後ろにのけぞらないように腹筋を使って上体を前に傾けたり、ハンドルにしがみつくような力を使うことになります。

さらに、路面からの衝撃もシートを通して腰から背骨、首にかけて垂直に伝わるため、サスペンションやシートの硬いスポーツモデルでは身体に大きな負担がかかります。こういったモデルでは、上体が前傾していた方が車体下からの衝撃をうまく逃がせるわけです。

スポーツモデルのハンドルが低いのは“見た目のカッコよさ”ではありません。グリップからはフロントタイヤの接地感がわかりやすく、コーナリングや加速時は効率的にシートやステップに荷重ができるなど、スポーツライディングに最適な理由があるためです。

  • ハンドルが高すぎると走行時は疲れることも……!

■車検のあるバイクは要注意

苦労してハンドルを交換ができたとしても、純正よりも大幅に変わってしまった場合は、保安基準に適合しないと判断されることがあります。

保安基準ではハンドルの高さは±4cm、幅は±2cmまでと限られており、これを超えた場合は整備不良や不正改造とみなされます。かなり悪質でなければ警察官に止められることはないようですが、切符を切られても文句はいえません。

また、251cc以上の場合は車検で引っかかってしまうため、検査時は純正の状態に戻すか、「構造変更」の検査に合格しなければなりません。ただし、構造変更をすると、その日から改めて車検の有効期間が2年間に定められるため、残っていた車検は抹消されてしまいます。

そのため、構造変更をするタイミングは車検満了日のギリギリか、車検が切れた後に行うケースが多いのですが、そのあと純正ハンドルに戻した場合も構造変更をしなければなりません。