だんだんと気温も上がり、バイク乗りにとっては快適な季節も近づいてきました。せっかくのツーリングをトラブルで台無しにしないためにも、シーズン前に愛車の点検を行っておきましょう。
3回に分けて深掘り紹介する「基本の点検ポイント」、今回は「中編」です。
■<エンジン>かからない、調子が悪い時は燃料系や点火系をチェック
しばらく乗らなかったバイクの「バッテリー上がり」はよくありますが、セルモーターは勢いよく回るのにエンジンが始動しない場合は、燃料系か点火系の不具合が考えられます。少しメカに詳しいユーザーの場合、スパークプラグを外してガソリンの湿り具合や火花をチェックしたり、プラグホールやキャブレターからパーツクリーナーなどの燃えやすいケミカルを吹いて、初爆の有無を確認しながら原因を特定していくはずです。
また、セルモーターは何十秒も回し続けるとはモーターの負担が大きいことはよく知られていますが、かといって1~2秒くらいで何度も分けて使うのもNGです。これはセルボタンを押した瞬間に一番大きな電気を使うためで、ほかの電装に十分な電力を供給できないままバッテリーを消耗する恐れがあります。1回は5秒くらいで10秒ほど休ませ、エンジンがかかったらモーター本体やギアにダメージを与えないよう、すみやかにボタンを離します。セルモーターが回らない場合は、モーター本体かスターターリレーの故障が考えられます。
エンジンが始動したものの、音のバラつきや振動が出たり、パワーの出方がおかしい場合はトラブルを抱えている可能性があります。金属の擦れや大きな打音など、明らかに普段とは違う異音がした時は、すぐにエンジンを停止してプロに相談しましょう。そのままエンジンを回していると、壊れた部品がエンジン内部で暴れてしまい、大きなダメージを負うこともあるからです。
そのほか、稀にですが自然の多い地域では、マフラーの出口にドロバチなどの虫が巣を作ってしまうこともあります。排気管の細い原付などの小型車に多いのですが、この場合は針金などで突いて泥を砕きます。
■<ブレーキ>効きだけでなく、フルードの量や劣化、漏れにも注意
ブレーキはレバーやペダルを操作して効きを確認するのはもちろんですが、フルードの量や汚れもチェックしましょう。フルードは2年ごとの交換が推奨されていますが、効くからといって何年も交換されていないバイクもあります。一般的なフルードは薄い黄色ですが、劣化が進むと徐々に茶色くなり、湿気を吸って性能が低下します。
実際には劣化したフルードでもブレーキが効いてしまうのが曲者です。しかし、沸点の下がったフルードは高熱で急激に性能が低下するため、ツーリングで普通に走っている時は問題なくても、ワインディングに入ってブレーキを多用すると効きが悪くなり、最悪の場合はまったく効かなくなります。また、劣化したフルードはマスターシリンダーやキャリパーのゴム部分に腐食物を作ってしまい、動きを悪くさせたり、液漏れなどのトラブルも誘発します。
フルードの漏れは、レバーやペダルを強く作動させ、マスターシリンダーやキャリパー周辺のほか、ブレーキホースからも滲んでいないことを確認してください。フルードは塗装を侵すため、周辺の塗装が剥がれていたら漏れている可能性が大きいでしょう。アルミ製フィッティングのホースに交換している場合、純正のスチールやステンレスに比べるとデリケートなので、ここの割れなども確認しましょう。(筆者は何台か割れているのを見たことがあります)
ブレーキパッドはキャリパーの後ろ側や、フォークとホイールの間から厚さを確認できます。ダブルディスクで左右の厚さやディスクの荒れ具合が違っている場合は、キャリパー内でフルード漏れやピストンの固着が生じている可能性があります。ブレーキは安全面で重要なだけでなく、気持ちのよいライディングに影響する部分ですので、しっかりチェックすることをおすすめします。
■<クラッチ>油圧式はブレーキと同様、フルードの量や漏れもチェック
現在はあまり聞かなくなくなりましたが、昔は長期間放置しているとクラッチが切れなくなることもありました。一般的なバイクのクラッチは「湿式多板」といって、リング状になった複数のクラッチ版で構成されており、エンジンオイルに浸っています。これを押し付けたり離すことでエンジンパワーのオン/オフを行っているのですが、長期間放置していると、クラッチ板が張り付いてしまうわけです。
その原因はクラッチ版やオイルの劣化によるもので、きちんと直す場合はオーバーホールが必要です。軽症であれば、新しいオイルに交換してエンジンを始動させ、十分に温まったら何度かギアを入れてみることで直ることもあります。バイクが飛び出してしまう恐れがあるので、センタースタンドをかけたり、ブレーキレバーをゴム紐やタイラップなどで縛っておきましょう。
クラッチレバーは油圧式とワイヤー式がありますが、油圧式はブレーキと同様にフルードの量、色、漏れなどもチェックしてください。ワイヤー式は、レバーの付け根やワイヤーのタイコ部などにグリスアップをすればスムーズな操作と腐食を防げます。レバーの遊び調整は、ワイヤーを受ける部分のボルトとナットで行います。伸びている場合は、ハンドルを左右に切って確認しながら適度な遊びを持たせて調整しましょう。遊びがまったくない場合、クラッチの寿命を短くしてしまいます。
また、クラッチレバーやサイドスタンドには、誤動作による飛び出しを防ぐためのスイッチが装備されているモデルがあります。セルが回らなかったり、ギアを入れるとエンストする場合、これらのスイッチを点検してください。
■<灯火類>安価な電球なら、定期的な予防交換も
ヘッドライトやブレーキランプ、ウィンカーなどの灯火類やホーンが作動しなかった場合、整備不良で違反点数と反則金が課せられます。ただ、電球は突然切れてしまうこともあるため、注意だけで見逃してもらえた人もいるかもしれません。とはいえ、手信号でずっと走り続けるのは危険ですし、ストレスもたまります。
ウィンカーの球切れは点滅間隔が早まることで分かりますが、切れる予兆をつかむのは難しいものです。レンズを外せば電球の状態を確認できますが、黒ずんでいた場合は寿命が近いので交換すべきでしょう。高いモノではないので、車検など2年ごとに交換する人もいます。ブレーキランプは「ダブル球」という、1つの電球にブレーキと尾灯のフィラメントが入ったタイプで、どちらか片方が切れたりします。
ヘッドライトを含めた灯火類はHIDやLEDが採用され始めています。どちらも省電力で長寿命というメリットがありますが、電球よりも高価で交換に手間がかかり、製品によって品質に差があるといったデメリットもあります。HIDは寿命が近づくと光量の低下やチラつくことがありますが、LEDの場合は光源のチップ部分よりも電子基盤の故障が多いようです。純正品は長寿命で故障も少ないのですが、レンズユニットごとの交換になるためコストがかかります。
また、灯火部品は「2輪用」と記載されたものがありますが、4輪用との違いは耐震性能の高さです。しかし、ほとんどの路面が舗装化され、バイクのサスペンションやタイヤ性能が向上した現在では、4輪用をつけてもすぐに切れてしまうことはないようです。そのほか、電球自体に問題はなくても、ソケットの腐食や配線が断線していることもあります。
■<バッテリー>一度上げてしまったバッテリーは要注意
長期間放置されたバッテリーは自己放電によって電気の量が減っています。昔はバッテリーが上がってもキックペダルや押し掛けで始動できましたが、近年の燃料ポンプ付キャブレター車やFI(フューエルインジェクション)車の場合、押し掛けで発生する電力だけでは始動はとても困難です。
バッテリー上がりの場合、充電器を使ってチャージするか、ほかの車両のバッテリーとブースターケーブルでつないで始動させる方法(ジャンプスタート)があります。一度かかってしまえばエンジンの発電機(オルタネーター)で弱ったバッテリーにも充電が開始されますが、これは緊急時の手段と考えておくべきです。
なぜなら、しばらく走って充電すればバッテリーは復活したように思えますが、バイクに使われる鉛バッテリーは一度上がると蓄電容量が減ってしまうため、何日かおくと再び上がってしまうことがあるからです。特にバッテリー液の補充が不要なMF(メンテナンスフリー)タイプの場合、高性能で長寿命な反面、急激に劣化する傾向にあるので注意が必要です。
バッテリーの寿命は約3年ほどといわれていますが、使用状況によって大きく変わってきます。長持ちさせるコツは常に満充電の状態を保つことで、通勤やツーリングで頻繁に長距離を走行していたり、チョイ乗りが多い人でも充電器で定期的な補充電を行えば5年以上持つことも珍しくありません。もっとも電力を使うのはセルモーターですが、純正の装備品以外に電気を使うアイテムを大量につけていると、それだけバッテリーや発電系統に負担がかかります。