「無痛分娩だと愛情が湧かない」「離乳食は手作りがいちばん」――昔から育児当事者を苦しめてきた子育てにまつわる迷信や神話、さらにネット社会で広がる真偽不明の育児情報。
そんな育児の「これってほんと? 」について、ツイッターで人気の小児科医・ふらいと先生をはじめとする専門家たちが答える1冊が登場しました。この連載では、『新生児科医・小児科医ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』(西東社)より、一部抜粋してご紹介します。
子どもを産んで母親になれば母性は自動的に湧き上がる?
A. いいえ。
母性とは作られた神話のようなもの。子への愛情に性別や、産む・産まないは無関係です。
赤ちゃんを愛おしいと感じ、大切に育てようと思う――本来、こうした心の動きに性別は関係ありません。しかしこれが「母性」と呼ばれるため、女性だけに生じる現象だと思い込んでいる人は非常に多いです。
母性を神聖視し、女性なら誰もが備えているものとする考えは、「母性愛神話」と呼ばれます。母親がひとりで子育てを担うことが正当化される、またはそれができない女性が母親失格とみなされるため、注意が必要です。
母性という言葉は昔からあったものではなく、明治以降の近代に作られたものです。それまでは村などの共同体全体で担っていた子育てが、各家庭で行われることになりました。その後、戦争が相次ぎ、男性は戦争に駆り出され、子育てを担えるのは女性だけになります。母性という言葉は、こうした背景からさかんに使われるようになったものです。その後、日本が高度経済成長時代に突入し、男性は仕事、女性は家庭という性別役割分業が進むなかでも、母性が都合よくもち出されました。
子どもへの愛情は母親、父親のどちらもがもちうるものですし、また、どちらもがもてないこともあります。産む=育てられるではなく、とくに産後うつやワンオペ育児など精神的体力的に余裕のない状況に追い込まれれば、誰だって愛情を見失います。
今後は、母性という言葉で母親だけに育児を押しつけるのではなく、社会全体で子どもを育てるという意識に変わっていかなければなりません。
[参考図書『増補 母性愛神話の罠』(大日向雅美著、日本評論社)]
答えた人:新生児科医/小児科医・今西洋介
新生児科医・小児科医、小児医療ジャーナリスト、一般社団法人チャイルドリテラシー協会代表理事。漫画・ドラマ『コウノドリ』の取材協力医師。作中の今橋先生のモデルでもある。NICUで新生児医療を行う傍ら、ヘルスプロモーションの会社を起業し、公衆衛生学の社会人大学院生として母親に関する疫学研究を行う。SNSを駆使し、小児医療・福祉に関する課題を社会課題として社会に提起。一般の方にわかりやすく解説し、小児医療と社会をつなげるミドルマンを目指す。3姉妹の父親。趣味はNBA観戦。Twitter:@doctor_nw
『新生児科医・小児科医ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』
(西東社刊/1,430円)
もう悩まない、ふりまわされない! Twitterで正確な医療知識を発信しつづける"ふらいと先生"待望の書。子育ての常識は日進月歩。昔は当たり前だったことが今はまったく違う、ということはたくさんあります。また、ネット社会になり育児不安をあおるようなうわさやうそかほんとかわからない情報がSNSなどをつうじて広く拡散されるようにもなりました。いっぽうで、お母さんだけに負担を押しつけるような育児の迷信・神話は変わらず存在し、いまだ「呪い」のように育児当事者を苦しめています。そのひとつひとつについて「これってほんと?」と問い直し、専門家が最新の知見に基づいて科学的に答えていく一冊です。
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