「好きだから、彼の部屋に押しかけて住んじゃった!」なんて女性もいれば、「本当は同棲したいけど、なかなか彼氏に言い出せない」という女性も、案外多いようです。確かに「最近の若い男性はガツガツせず、恋愛に消極的」なんてニュースを聞けば、「一緒に住みたいなんて言ったら『重い』って思われちゃうかも」と遠慮したくなるかもしれません。「草食系男子」「絶食系男子」などの言葉が流行し、「異性との交際経験が全くない」独身男性の割合も増加中。何となく「オクテ」な男性が増えているような……その変化は、同棲経験にも影響を及ぼしているようです。

意外と同棲好きな日本の若者たち

「同棲経験」の線引きは、意外と難しいもの。国立社会保障・人口問題研究所によると、同棲経験のある18~34歳の「独身者」は、男性5.5%、女性5.8%(30~34歳の層に限ると、8~9%に上昇します)。この20年あまりで「同棲経験あり」は男女とも2倍以上に増えていますが、それでも未婚の若者のうち、同棲経験があるのは20人に1人。あれ、意外に少ない? と思った方もいるでしょう。

ただ、これは「独身者」に限ったデータ。既婚者まで含めると、同棲経験率はぐんと上がります。少し古くなりますが、2006年に第一生命経済研究所が30代以上の「既婚男女」800名に対し行った調査では、30代の5人に1人が「結婚前に同棲経験あり」と回答。今や結婚前の同棲は、それほど珍しいものではありません。

「周りに同棲している知人がいる」という人も、結構いるのではないでしょうか。カップルのどちらかが相手の部屋に転がり込んで「半同棲」というパターンも「同棲」とカウントするなら、同棲経験のある若者は意外と多いのかもしれません。

「同棲」に臆病になる独身男子たち

とはいえ、独身男女に限ってみると、同棲への考え方は少しずつ「保守的」になっているようです。国立社会保障・人口問題研究所の調査では、これまで増加傾向にあった同棲経験率が、2010年に初めて減少に転じました(男性は05年の7.9%→10年に5.5%に、女性は7.3%→5.8%へ減少)。恋人と一緒に暮らすことを、ためらう若者が増えているのでしょうか。

「いや、そもそも恋愛に消極的な若者が増えているのだから、カップルも減って、必然的に同棲する若者も減ったのでは?」という意見もありそうです。ところが、詳しくみると、「恋人がいる独身者」の割合は、この20年で一貫して変化がないのです(1987年には男性19.4%→2010年には22.8%、女性は26.2%→30.9%と微増)。一方、同棲経験率は、87年から一貫して増えていた。「恋人のいる独身男女」の割合は一定のまま、「恋人と一緒に暮らす独身男女」の割合は少しずつ増えてきたのです。この20年で「性の解放」が進み、同棲へのイメージが「ふしだら・いかがわしい」といったものから、「おしゃれ」で「明るい」へと変わっていったのも関係しているでしょう。

ところが05年から10年の間に、同棲経験率が初めて減少に転じたのです。恋人のいる若者の割合も減っていますが、同棲経験率のほうが、減少幅がやや大きい。つまり「恋人はいるけど、一緒には住まない」若者が増えたのです。なぜでしょう?

気になるのが、「同棲するなら結婚すべきである」と考える若者が、00年代に入って増えている点。「同棲なら結婚」というこの考え方は、90年代には減少傾向にありました。「結婚に繋がらなくたって、好きなら一緒に暮らせばいいじゃん!」という人は、増加傾向にあったのです。が、最近はむしろ、その逆を行っている。特に女性は右肩上がりで「同棲するなら結婚でしょ?」が増加しています。

収入が不安定化している男性たちが、これをプレッシャーに感じている可能性は大です。同棲するなら当然、結婚しないといけないし、彼女の人生を背負うことになる。大げさ? でも、彼女がもし、「仕事はほどほどでいいから、主婦になりたい」と言い出したら? 「今の職場は微妙」とか、「子供は2人欲しい」なんて言ってたし。自分1人で家族を養っていく覚悟は、ちょっとないかも。というわけで、結婚へのプレッシャーとセットになった「同棲」を避ける男子が増えたのではないか。こと「結婚」に関しては、男性の方が何かと重荷に感じるようです。「夫は仕事・妻は家庭」と考える男性も、女性より多い。保守的で、「一家の大黒柱にならなくちゃ」と思っている男性ほど、勝手に同棲(そして結婚)のハードルを上げてしまっている可能性はあるでしょう。

同棲が、全ての男女にとって「良いことである」とは言えません。誰にでも、向き不向きはある。ただ、自らハードルを上げて「同棲なんて絶対無理!」と思っていると、それはそれで経験値を狭めることになりますし、少しもったいない気も。同棲に必要なのはきっと、恋人とのコミュニケーション(の喜びと、それより沢山の失敗や困難が予想される毎日)に飛び込む勇気なのかもしれません。

<著者プロフィール>
北条かや
1986年、石川県生まれ。同志社大学社会学部、京都大学大学院文学研究科修了。 会社員を経て、14年2月、星海社新書より『キャバ嬢の社会学』を刊行。
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イラスト: 安海