サラリーマンは毎日大変。日々の業務から、会社の人間関係など常に周囲の環境に気を配る必要があります。まさに会社でのサバイバル生活といえるでしょう。

この連載では、動物たちの生態を通して彼らの「生存術」を紹介します。生存テクニックを学び、会社生活をサバイブしましょう。

葛西臨海水族園は会社の縮図

今回は葛西臨海水族園に注目。ペンギンなどの人気動物に目が行きがちですが、さまざまな魚が混泳する水槽が舞台です。

魚ごとに「この岩周辺は譲らない!」と縄張りの主張があったり、相性があったりし、さながら会社の縮図。悩み多きサラリーマンに、多くの気づきを与えてくれるのです。

最近わたしが注目しているのは、「ホンソメワケベラ」というスズキ目ベラ科の小さな魚。魚への愛にあふれる教育普及係・堀田桃子さんが案内してくれました。

  • スズキ目ベラ科の「ホンソメワケベラ」

掃除の仕事で生き残る

ホンソメワケベラは最大でも全長12センチぐらいと小さく、ドジョウのように細長い魚。大きな魚にあっけなく丸呑みされるサイズですが、自分の何十倍も大きな魚のそばにいても食べられることがありません。

それは、大きな魚の「お掃除」をしてあげているから。ホンソメワケベラは、大きな魚の体の表面やエラの中まで、古くなった組織などを食べます。ときには、大きな口の中に入って食べ残しなどを掃除してあげることもあるそうです。

  • 大型魚と共生する

よーく観察してみましょう。ホンソメワケベラは、独特の動きをしながらクエやハタなどの大型魚に近づいていきます。すると、大型魚は口をクワッと大きく開き、掃除しやすい体勢を取っているではありませんか!

堀田さん:この独特の飛び跳ねるような泳ぎは、「私はお掃除屋ですよ。あなたのお役に立つので、食べないでくださいね」とアピールするダンスのような意味合いがあるようです。こうして自分よりも体の大きな魚の近くにいることで、ほかの魚からの攻撃にさらされるリスクも減るのかもしれません。

ホンソメワケベラにしてみれば食事ができる上に身の安全が保たれ、掃除されるクエたちは体の汚れも落ちてすっきり。まさにギブアンドテイクの共生関係です。

堀田さん:ホンソメワケベラの周りに、掃除をしてもらいたい魚の行列ができることがあります。ホンソメワケベラが掃除してくれることによって、病気が出にくい場合もあるようです。

行列のできる掃除屋さん・ホンソメワケベラ。その人気にあやかろうという、なんともずる賢い魚もいるんですって!

堀田さん:ホンソメワケベラの特徴は、口先からしっぽの先まで続く特徴的な青いラインです。このラインは、「私は掃除屋さんですよ」という目印になっているのかもしれません。この特徴をうまく擬態して、ほかの魚から食べられないようにしているのが、「ニセクロスジキンポ」です。

ホンソメワケベラの見た目だけでなくダンスまでマネして、お掃除もせずに「外敵から身を守る」という利点だけを享受しているというから手口は巧妙ですね。

あれ、でもニセクロスジキンポ、見当たりませんよね?

堀田さん:この水槽ではあまり動かず、巻貝の殻の中に潜んでいることが多いんですよ。

  • ニセクロスジキンポは隠れて生き残る

後ろめたい気持ちがあるから隠れているの……? しかし、ビジネスの世界でも普段はどこで何をしているのかわからないくせに、いつの間にか他人の功績を自分のものにするちゃっかり者、いますよね! 海の中でも人間社会もまるで同じじゃないの。

でも「誰もやらないことをやって相手にメリットを与えることで、その見返りとして自らもメリットを享受する」というホンソメワケベラ戦略のほうがいい。多くの人に求められ、誠実に仕事をすることこそ、厳しいビジネスの現場で大事だと思いませんか?

AIと共生して生き残る

さて、私たち人間の世界では、少子高齢化待ったなし。労働力人口の減少はさらに加速して、早ければ10年で今ある仕事の半分ほどがロボットやAIに取って代わられるという説もあります。

ロボットやAIは、多くのタスクを抱えるビジネスパーソンの優れた助っ人になりそうですが、果たしてそんな単純な話なのでしょうか。重要なルーチンをミスなくこなすロボットやAIに仕事が奪われやしないか、ひいては雇用自体が脅かされるのではないかという懸念もあります。

昔の産業革命を考えてみましょう。新しい技術がそれまであった仕事や雇用を奪ったのは事実ですが、裏を返せば新しい仕事とそれに伴う雇用が生まれたということ。

つまり、任せられる部分は任せ、頭を使って価値を創造することで新たな時代を切り開くことができるのです。ロボットやAIに仕事を明け渡すのでなく、うまく利用して共生していく道はきっとある……!

大型魚とホンソメワケベラの共生関係、したたかに生き抜くニセクロスジキンポなど、さまざまな戦略、思惑を持った生き物がともに暮らす水槽を眺めるだけで、多くの学びがあるのです。

●取材協力
葛西臨海水族園
東京都江戸川区臨海町6-2-3
03-3869-5152(代)