ずーっと言いたい気持ちを我慢してきましたが、今日は思いきって言わせていただきます。最近の私は、結婚が、ぜんぜんしたくありませんでした。

「どうしても結婚がしたい」と思ったのは、二年ほど前のことだったでしょうか。揺るぎなくその気持ちを持ち続けていられたのは一年半。ここしばらくは、「結婚したい」という気持ちと、「結婚のことさえ考えなければ私は幸せなのに」という気持ちの間で揺れ動いてきました。

「結婚したい」と言うと、まず誰からでもダメ出しをされます。「こんなだから結婚できない」「努力が足りない」。そして次に勧められるのは「妥協」です。「選んでたら結婚できないよ!」……。

結婚の話をすると、それは愛の話とはまったく別物のように扱われたり、「自分の価値の低さを認識しろ!」「もっと死にもの狂いで努力しろ!」と言われたりする。私は、そのことにだんだんうんざりしてきました。

今よりも良い人生を送るために結婚したいのに、なぜ「妥協」? なぜ「愛」を無視? 努力はしてても、「結婚」という結果が出せていないと、「してない」と決めつけられる。ひどい失恋をして傷だらけでも「早く次! 次! 時間がない!」と言われる日々です。

正直、「少しでいいから休ませて……」というのが本音です。ここに来て、先日『世界婚活』という本を書かれた中村綾花さんとのトークイベントに参加したのですが、そのときに中村さんが「私は本当に愛が欲しかったから、何もかも捨てる覚悟で世界に出て婚活した」とおっしゃるのを聞いて、私はさらに考えこんでしまいました。

「私は、捨てられない」。そう思ったのです。少なくとも仕事は捨てられない。別に結婚が、愛を取ってすべてを捨てるか、捨てずに愛を得ることを諦めるかの二択だとは思いませんが、「結婚したい」と思ってからというもの、見えてくるのは結婚についてのハードルの高さばかりです。

愛があれば、結婚で得られるものがはっきり見えるわけですから、今とは全然違う景色が見えるのだと思います。けれど私は、まだ見ぬ相手との愛ある生活をイメージできません。そうなると、「結婚で失うもの」や、「結婚するためにしなければならない膨大な努力」ばかりが目について、気を失いそうになるのです。

ひとりでできることの限界

しかし、昨日、「やっぱりそういうことではないのかもしれない」と思う出来事がありました。スカパーで観たいチャンネルがあり、契約しようと考えた私は、録画機器も新しいのに買い替えて視聴環境を整えようと思ったのです。

はりきってブルーレイ付きのハードディスクレコーダーを買ったものの、帰宅するとテレビとレコーダーをつなぐ端子の差し込み口が、テレビについてません。まさかの展開に青ざめつつ、そちらの端子がすでに主流なのは明らかで、テレビも買い替えるか……と考えつつスカパーに電話すると、電話越しのリモコン操作で現在の環境をチェックされ、「アンテナをつけなければ観れないので、アンテナをベランダにつけていいか、マンションの管理会社に聞いてくれ」とのこと。

管理会社に連絡すると「共用部分だから、うちではわからない。マンション全体の管理会社に聞いてくれ」。管理人さんに訊くと「アンテナはつけられません。スカパーのことは全然わからないですけど、回線が来てるっていうポスターがあるから、アンテナをつけなくても観られるのでは?」との返事。どうやらフレッツ光の回線で観れるっぽいポスターだったので、電器屋さんのフレッツ光の担当の方に「スカパー観たいので契約したいんですが」と言うと、「お宅ではフレッツ光TVに対応してません」。

「いやポスターあったんですけど」と言い返すと、別の人が出てきて「フレッツ光を契約しなくても、お宅のマンションでは視聴できることになっています。工事も不要です」。しかし、何が原因で観られないのかはいまだまったくわからず、おそらくテレビの配線の問題だろうと思われるのですが、レコーダーも買ったのに肝心のスカパーが観れるのかどうかすらまだわからない。というか、私が衛星放送やCATVの仕組みをまったく理解していないし、テレビの配線もわからない……。二日間かけて、この有様です。わからなすぎて泣きそうになりました。

私は思いました。「一人でできることには限界がある」と。もちろん、わからないなりにいろいろ人に訊いてなんとかすることはできますが、そこまでして観たいチャンネルでなければ、こんなのもう最初につまずいた時点で即座に諦めています。

人には得意、不得意があります。誰かとパートナーになるということは、その得意、不得意を分け合えるということではないでしょうか。自分が得意なことはしてあげられるし、相手が得意なことはしてもらえる。しかも一緒にできる。それは、人生が二倍以上豊かになることのように思えるのです。

とりあえず、そういうパートナーのいない私は、ヨドバシカメラに1050円払って、明日、テレビと録画機器の配線をやってもらいます。

<著者プロフィール>
雨宮まみ
ライター。いわゆる男性向けエロ本の編集を経て、フリーのライターに。その「ちょっと普通じゃない曲がりくねった女道」を書いた自伝エッセイ『女子をこじらせて』(ポット出版)を昨年上梓。恋愛や女であることと素直に向き合えない「女子の自意識」をテーマに『音楽と人』『POPEYE』などで連載中。

イラスト: 野出木彩