地元で親戚の葬儀があり、あわてて帰省しました。私は葬儀などのきちんとした場に行くと、自分のきちんとしてなさが際立ってずいぶん落ち込むのですが、さすがにもうこういうことから逃げてばかりもいられません。

結婚もしていない、子供もいない……そうなると、普段なかなか会わない親戚と会う機会はお葬式ぐらいしかないですし、考えたくない話ではありますが、自分が親戚関係の行事をやることになるとすれば、それはお葬式である可能性が非常に高い。これからは自分がお葬式を出す側の世代になってゆくのですし、これを機に親戚の現在を把握し、どういう手順でいろいろするのか、しっかり見ておこうと思いました。

葬儀では、最後にプロのナレーターの方が、故人の経歴を、エピソードを交えて紹介するというコーナーがありました。私はそのナレーターの方が矢野顕子さんに似ているところがツボに入ってしまい、タメが入ったりするごとについつい矢野顕子さんのことを思い出し、気が散ってしまったのですが、「○○さまと結婚され、三人の子供を育まれました」というくだりを聞いてハッとしました。

「私が死んだら、ナレーターの人、困るだろうな……」

幸い、文章を書くのは得意なので、生前に用意しておこうか、でも葬式で「『ずっと独身でいるつもり?』などの作品を著し……」とか言われるのも微妙だろうな~とか、そもそも私の人生に、葬儀で語ってもらえるような立派な部分ってあるんだろうかと思いを馳せる始末です。

独身に大切なのは人望

そんな中、私は参列者の中に、叔父の姿を発見しました。母の弟である叔父は、バツイチで独身です。お焼香のとき、叔父は私の弟に妙に近づいてきて、何やら目配せとボディタッチを始めました。そして弟の手元から何かをもぎ取ると、そのまま祭壇の前へ……。そう、叔父は数珠を忘れていたのです。

「私よりもちゃんとしてない人がいた!」。叔父は、田舎の常識にとらわれず、好きなものは好き、嫌いなものは嫌いと言うタイプ。自宅に家より広いガレージを建てて、そこに車とハーレー、真っ赤な缶コーラだけがたくさん入った冷蔵庫、ソファを置いて犬と遊んでいるような人なのですが、昔から人望があり、慕われています。ケチケチせず気前のいい性格で、情にあつく、怒るときにははっきり怒るけれど引きずらない。正直、私も叔父のことは大好きですし、みんな叔父のことは大好きです。

あんなふうに、型にはまった親戚づきあいでなく、「久しぶりに会えて良かった」みたいな開けっぴろげな笑顔で親戚関係をやっていけたらいいのになぁ……。叔父のチャーミングな性格は天性の才能だとはいえ、あのように心をまっすぐに生きられないものだろうか、と考えずにはいられませんでした。

叔父はバツイチですが、アラウンド60にして、モテます。多くの人にとって叔父は「一緒にいて楽しい人」なんですよね。そういう人がいると、親戚同士のつながりはぐっとスムーズに、明るく、楽しいものになるのだなと感じ、私も、長く会っていなくて連絡先を知らなかった従兄弟に電話番号を訊いてみたりしたのでした。

ずっと独身でいたら、私自身にはなかなか親戚は増えません。それなら、今いるそれほど多くない人数の親戚とは、できるだけ楽しい関係でいられたらいいなと思います。

<著者プロフィール>
雨宮まみ
ライター。いわゆる男性向けエロ本の編集を経て、フリーのライターに。その「ちょっと普通じゃない曲がりくねった女道」を書いた自伝エッセイ『女子をこじらせて』(ポット出版)を昨年上梓。恋愛や女であることと素直に向き合えない「女子の自意識」をテーマに『音楽と人』『POPEYE』などで連載中。

イラスト: 野出木彩