『守ってあげたい』という、松任谷由実さんの歌があります。「あなたを苦しめる全てのことから」守ってあげたい、という歌です。歌い手である松任谷由実さんが女性であることを考えると、女性が男性に対し、「守ってあげたい」と考えている、そういう歌だと捉えることができます。
世間的には、男性が女性を「守る」ものだ、という風潮が今もまだ、多少あります。実は私は、長い間この言葉が、まったくピンときませんでした。
「君を守るよ」……。そんなことを言われたことがないわけではありませんが、「守るって、いったい何から!?」と、ビックリして口もきけないというか、「守る」というヒロイックな言葉に酔いしれている男性の気分に水を差すのがためらわれるというか、まぁそんな感じでツッコむ勇気も出ないまま、今に至っていました。
実は「守って」ほしい? 強い男を求める気持ち
「男が女を守るものだ」という考えは、私にはずっと苦手なものでした。「守ってやる(その代わり、おとなしくしとけ)」というように、その「男らしいふるまい」の対価として、「女らしいふるまい」が求められるようで怖いのです。『守ってあげたい』という歌に、母性本能という言葉をくっつけられるのも苦手です。
「守る」という言葉には、何か気持ちの悪いものがくっつきやすい、という印象があるから、「守る」という言葉が好きではなかったのかもしれません。そもそも、わりと平和な日本でいったい何から守ろうとしてくれてるのか、よくわかりません。
でも最近、仕事でへとへとになってベッドに潜り込むときなど、ふと思うのです。「誰かに抱きしめられたい」と……。もはや性欲でもなく、ただ抱きしめて「がんばってるね」とか「おつかれさま」とか言ってほしい。ちょっとだけ触れ合って、体温で癒やされたい。
以前は、恋愛にこういうものを求めてはいませんでした。同じベッドに入って興奮されないなんて屈辱ぐらいに思っていたし、欲情こそが愛の証! と思ってました(われながら激しくて赤面しますね……)。激しい恋愛を求めていたのに、まさか自分が「癒やし」みたいなものを、男女関係に求めるなんて! と衝撃を受けました。
それに気づいた瞬間、「守ってほしい……。仕事のストレスから! 守って、私を苦しめる全てのことから!」と、明け方に叫び出しそうになりました。
私は、自分で言うのも何ですが、根が真面目です。そのせいなのか、「自分がしたいこと」や「してほしいこと」よりも、「何が公平か」「何が正しいか」を優先させて考える傾向があります。
実際の関係では、もっとずるく「自分がしてほしいだけのことを、あたかも正しいことであるかのように主張する」みたいなタチの悪いこともしましたし、そのせいで失敗もしましたが、「結婚」という未経験の分野に対し、私は「自分の欲求」というものを、実はそれほど考えたことがなかったのではないか、と思い当たりました。
何が正しい結婚か、良い結婚なのか、ということに重点を置き、そこから外れる自分の欲求については、見て見ぬフリをしてきたのでは……。今、何か重大なことに気がついたような、ふりだしに戻ったような、そんな気持ちです。
<著者プロフィール>
雨宮まみ
ライター。いわゆる男性向けエロ本の編集を経て、フリーのライターに。その「ちょっと普通じゃない曲がりくねった女道」を書いた自伝エッセイ『女子をこじらせて』(ポット出版)を昨年上梓。恋愛や女であることと素直に向き合えない「女子の自意識」をテーマに『音楽と人』『POPEYE』などで連載中。
イラスト: 野出木彩