先週、ロンドンブーツ1号2号の田村淳さんの結婚報告番組を観ました。3時間スペシャルを余すところなく堪能いたしました。周囲の祝福の気持ちが伝わってくる良い番組で、特にコンビを組む田村亮さんからの手紙など、ぐっとくる場面も多々ありました。

しかし、この番組を観ている間、私の心中は決して穏やかではありませんでした。

田村さんと彼女は、過去に一度交際していたことがあるそうです。「あまりになにもかも受け入れてくれるから、このままつきあっていると、自分が芸人としてダメになると思った」のが別れの理由だったそうで、彼女もそれで納得していたそうです。

しかし、やはり忘れられず、よりを戻して結婚に至ったのですが、なんと彼女は過去に別れたとき、その理由を自分の両親には「自分のせいで別れた」と説明しており、会ったことのある田村さんのご両親にも、「良くしてもらったのにこのようなことになり、淳さんとお別れしたのにお二人との交流を続けていくのは不自然なので」と、今までのお礼とお詫びを綴った手紙を出していた……ということが、結婚に至って初めて発覚したのです。

非の打ち所のない奥さん像

その手紙の筆跡の綺麗さからもうかがえる通り、彼女は本当に育ちが良いお嬢さんという印象で、夫を立てる控えめな人柄、家事は一生懸命に覚えてこなし、プレゼントは必ず手作り(趣味のガラス細工)という、もう観ているこちらはテレビの前でばったり倒れるしかないほどの完璧な「良い奥さん」なのです。

そして、あれだけ食にうるさく料理自慢だった田村さんが、自宅に先輩の出川哲朗さんを招いたとき、自分は台所に一歩も足を踏み入れず、ソファに座ったまま奥さんに10品以上料理を出させて「これ生煮えだよ?」とツッコんですらいたのには本当に驚きました。これが一番のショックでした。「結局、古典的な『夫を立てる嫁』が欲しかったんだなぁ……」と感じたのです。

最高に感じのいい、笑顔の素敵な奥さんです。一生懸命でちょっと天然、さらに「一度も人の悪口を言ったことがない」「怒ったところを見たことがない」(淳さん談)……。そりゃあ、こういう人は誰からも好かれるよなぁ、と思いつつ、私はやり場のない気持ちでいっぱいになりました。

怒る奥さんでは安らげない?

「理想の奥さん」というのは、自己主張の少ない奥さんなのでしょうか。私にはそれは無理です。自己主張は最後まで絶対に捨てられないものです。私は人の悪口を言います。愚痴も言います。怒ります。家事は分担して欲しいです。人の悪口はまぁ、言わないほうがいいとは思いますが、できれば怒りたくない、イライラしたくない、と思っていても理不尽なことは起こりますし、怒ることぐらいあります。そういうのが「安らげない」のだとすると、私に結婚は無理です。

自己主張よりも他人を尊重できる人、そうすることが自然で、自分にとっては大事なことだと自然に思う人もいるように、自己主張を簡単にやめることができない人もいます。やめることができなくても、やめざるを得なかった人、勇気を持ってやめる選択をした人もいるでしょうし、逆に本来自己主張が苦手なのに、どうしても仕事などでせざるを得ず、がんばって主張するようになった人もいるでしょう。

自分とはまったく違うふうに生まれついたように見える、淳さんの奥さんの姿を見ていると、自分とはまったく違う道を努力して歩んでいる人のまぶしい姿を見ている気持ちになりました。そして、私はどのように努力してゆけば、自分の道をまっすぐに歩んでいけるのか……と考え込んでしまったのでした。「理想の奥さん」にはなれそうもありませんが、自分には人に合わせる努力が足りなすぎるのではないか、とも……。

<著者プロフィール>
雨宮まみ
ライター。いわゆる男性向けエロ本の編集を経て、フリーのライターに。その「ちょっと普通じゃない曲がりくねった女道」を書いた自伝エッセイ『女子をこじらせて』(ポット出版)を昨年上梓。恋愛や女であることと素直に向き合えない「女子の自意識」をテーマに『音楽と人』『POPEYE』などで連載中。

イラスト: 野出木彩