みなさん、お正月に地上派放送されたあのドラマはご覧になりましたでしょうか。香港映画の傑作『インファナル・アフェア』の日本版リメイク『ダブルフェイス』です。

内容はさておき、この『ダブルフェイス』には蒼井優さんが登場します。この蒼井さんの役がもうとにかくすごい。まず、大物政治家の娘でありながら、その「親の操り人形」のような生活に嫌気がさして、小説家になるためにバイトを転々とする暮らしをしている。かなり時代遅れな「野良猫お嬢さま」設定の役柄で、好きな小説家はガルシア・マルケス……まぁそういう細かいところにツッコんでいるとキリがないので重要な部分にだけ触れていきたいと思いますが、この蒼井優さんが、バイト先のガールズバーで出会った刑事の家にたまたま泊まることになります。

そこで蒼井さんの取る行動は、「ソファで寝支度をし、『指一本触れるな』とセックスを拒否」。そしてなんと「あたしここに住んじゃおうかな~」と言うのです。

予想外の行動が恋を呼び込む

私はこのセリフを聞いたとき、テレビの前に崩れ落ちました。「これか、これだったのか……」、そう思いました。私もそうなのですが、優等生っぽく真面目に生きてきた人間、女として「こういうことを言っても許されるもんだ」と思ってない人間には、これが言えないんです。

恋愛で、なにが相手の心をつかむかというと、誠意よりも最初のきっかけはこうした「不意打ちのハプニング」や「思いもよらない展開」ではないでしょうか。「常識的にこんなこと言ってはいけない」「してはいけない」「相手の迷惑になるかもしれない」と考えすぎていては決して言えない、できないようなこと、それが相手を揺さぶるのです。「これができないから、私はダメなんだ……」。深く深く落ち込みました。「あたしここに住んじゃおっかな~」。練習してみても、非常にぎこちない声が響くばかりです。

私の友人の中にも、真面目で優等生な女性はたくさんいます。結婚している人も多いですが、真面目で結婚している女性は、みんな「地に足がついている」のですよね。私のように、真面目は真面目だけれど、どこか底が抜けていたり、夢見がちだったりはしないんです。地に足をつけることにも失敗し、かと言って今さらワガママ仔猫ちゃんになる道も……30代後半からがんばるには、大ケガしそうな未来しか見えません。

でも、ワガママ仔猫ちゃんは無理だとしても、「気になる人はいるけど好意を伝えられない」とか、「自分から誘えない」とか、そういう「できない」はもう、ふっとばしていきたいと思うのです。別に蒼井優さんほどのハイレベルなテクを使えなくとも、一般の男性だって、蒼井さんほどの攻撃を受けた経験はあまりないはず。もしかしたら、しょぼい攻撃だってそれなりに効いてくれるかもしれないじゃないですか。

私は確かに、いままでそういう攻撃を苦手としてきました。でも「そんなことできない」で人生終わりたくないです。だから、今年は……ちょっとがんばりたいと思うのです。

<著者プロフィール>
雨宮まみ
ライター。いわゆる男性向けエロ本の編集を経て、フリーのライターに。その「ちょっと普通じゃない曲がりくねった女道」を書いた自伝エッセイ『女子をこじらせて』(ポット出版)を昨年上梓。恋愛や女であることと素直に向き合えない「女子の自意識」をテーマに『音楽と人』『POPEYE』などで連載中。

イラスト: 野出木彩