熱中症の話題も今回が最後。じっくり解説しようと思ったら、かなりの文書量になってしまったが、毎年問題になりながらあまり世間では触れられてこなかった大切なポイントを説明したつもりだ。お子さんやワンコのいる方は、来年以降も十分気をつけてほしい。 |
悲しむべき熱中症の発症…先生はもっと理解を
ようやく夏も終わり、涼しい日が多くなってきた。今回は、エアマルチプライアーの実力についてお話する予定になっているが、その前に熱中症について少し触れておきたい。
9月も最高気温が30度を超す日が続き、熱中症発症のニュースは後を絶たなかった。特に学校で運動中に倒れる児童や生徒の報道が目立った。この連載では、2回に渡って熱中症の話をしてきたので繰り返しになるが、気象庁の発表データであるアメダスの気温はあくまでも理想的な環境での測定であり、実際に我々が暮らしている環境とは大幅に異なっていることが多い。例えば、アメダスの数値が27度であってもアスファルトの上に立っていると実際には5度から10度は高くなる。もし、自分が立っている場所の本当の気温が37度だったとすると、ヒートインデックス(Heat Index)の指数では湿度40%で「危険」、65%で「非常に危険」な熱中症のゾーンに入る。つまり、「アメダスでは27度ぐらいだから大丈夫」と安心しているとたいへんなことになる。何度も言うようだが、自分が置かれている環境の危険度は、自分で気温と湿度を測定して割り出すしかないのである。
9月15日に熱中症で千葉県の小学校の児童が搬送されたが、その付近のアメダスの記録は29.3度(風速1.7m)で明らかに危険な領域だった。ところが、同日に群馬県の小学校でも熱中症患者が出た際には、付近のアメダスの気温は27.3度(風速0.7m)だったので、通常は問題のない値だと判断しても仕方ないかもしれない。しかし、実際に熱中症を発症していることから考えるとグランドの気温と湿度はそれなりに高かったのではないだろうか。学校側がどこまで正確なデータを取っていたのか不明だが、ニュース番組の映像を見た限りでは、先生たちが気温や湿度を細かくチェックしていたようには感じられなかった。この他にも9月は、愛知県の小学校で2日に14人、千葉県の小学校で9日に9人、大阪府の小学校で13日に7人、岐阜県の小学校で14日に10人といったように頻繁に児童の熱中症の搬送が報道されていた。
子供は汗腺が未発達なため熱中症になりやすい。しかも学校という環境では、児童が自分で熱中症の危険性を判断して、運動の可否を決めることはできない。すべては先生の判断が児童の生命を握っていると言ってよい。もし、気温も湿度も測定せずにこのような結果を招いていたとしたら問題だ。アメダスの仕組やヒートインデックス、WBGTといった指数をきちんと理解して行動していれば熱中症になる確率はかなり低くなるはずである。熱中症に詳しくない先生がいるようなら、ぜひ理解を深めて対処してもらいたいと切に願うばかりだ。
いよいよ実力をテスト…ちょっとその前に
では、熱中症対策に有効な風を発生する装置の検証結果をお知らせしよう。純粋に風だけを発生する装置ですぐに思いつくのが扇風機だが、他にもサーキュレータや団扇、扇子なんていうものもある。「団扇や扇子なんてたいしたことはないんじゃないの?」と思われる方も多いかもしれないが、意外にそうでもない。
計測は、「扇子」「小型卓上扇風機」「エアサーキュレータ」「エアマルチプライアー」の4種類について行なった。実は、読者の皆様にお詫びしておかなくてはならないことがあって、今回のテストで羽根のある扇風機も計測するのが当たり前なのだが、以前使用していたものは廃棄してしまい自宅には1台もない状態だった。まだ気温が暑い中で近所から借りることも憚られて結局テストができなかった。エアマルチプライアーがあるのにわざわざ新しい扇風機を購入するというのも厳しく、何卒ご了承いただきたい。
今回使用した計測機器は、風速用にケストレルの4200、騒音用にカスタムのSL-1370、消費電力用にサンワサプライのワットモニターを用意した。項目は、1cm、30cm、100cmの距離で、各機器で風の強さ(弱、中、強)を切り替え、風速と消費電力を計測している。騒音のみ100cmの距離で計測した。
エアマルチプライアーの驚くべき実力…風の強さ
風速の値を風の強さの目安にしているが、これはあくまでも狭い範囲を通過する値を計測しているだけなので風全体の量とは違う。風量は、風速に加えて面積を加えて算出しなくてはならないが、今回はそこまでは計測していない。計測結果は以下のようになった。
最初に軽量コンパクトでどこにでも持ち歩いて使うことができる「扇子」の検証結果から報告しよう。当然だが動力は人力である。だからたいしたことないのかなあと思いきや、これが意外や意外、実力はかなりのものでバカにできない。適当に扇いでも風速0.8m/s、一生懸命扇ぐと2m/sにもなる。常に顔に近い距離で扇ぐタイプの装置ということもあるが、2m/sというのはかなり涼しい。ただ、100cm離れてしまうとどんなに強く扇いでもケストレル4200の計測値の限界である風速0.4m/s以下になってしまい計測できなかった。
次によくある小型の卓上扇風機。風の強さを切り替える機能がないため、距離の違いしか計測できなかったが、1cmぐらいの距離なら風速は3.6m/sもあった。これは次に紹介するサーキュレータよりも強い風だ。しかし、羽根の直径が10cmぐらいしかないためか、距離が離れるにつれ急速に弱まり、100cmも離れると0.5m/sの風速しかなくなってしまった。机に置いて上半身に当てるというのが正しい使い方なのだろう。
強力な直進性のある風で部屋の空気を撹拌するサーキュレータはさすがに素晴らしく、100cm離れても強だと風速は2.5m/sもあり、落ち方がもっとも小さかった。これならさらに離れても強い風がくるだろう。ただし、他のサーキュレータも同じ傾向だったが、弱、中、強と切り替えると騒音だけ大きくなって、見た目ほど風速は速くならない。また、本来は風を壁等にぶつけて部屋の空気を掻き混ぜる装置なので首振り機能がなく、連続して体に当て続けるのは少々辛いので扇風機の代わりにはなりにくい。
さて、エアマルチプライアーである。風速は1cmの距離なら強で5.8m/sもある。これは、約1.3mmの狭い隙間(スリット)から空気を放出し、ベルヌーイの定理によって周囲の空気を巻き込んで全体の風量を15倍にするという構造のためだと思われるが、それにしても驚くべき速さだ。しかし、エアマルチプライアーと言えども扇風機なので、風を遠くに飛ばすことよりも広い範囲に多くの風を送る必要があるので、100cmの距離になると風速は2.2m/sに減少する。とは言え、それでもサーキュレータより少々低い程度だ。ダイソンのホームページに「風船を使った実験」というエアマルチプライアーの空気の流れを映像で確認できるムービーが掲載されているので興味のある方は見てもらいたい。
扇風機であるにもかかわらず風速は素晴らしい数値を記録。スリット付近の風速は5.8m/sもあった。右の図版は以前にも紹介した15度でカーブしているエアマルチプライアーのプロジェクタの内側の解説イラスト。ここでグンと風が加速するという |
これらの検証結果でもわかるように、扇風機はできるだけ広い範囲に多くの風を送るためのものであり、サーキュレータは遠くまで飛ばすために直進性の強い性格の風であるということは間違いないようだ。しかし、エアマルチプライアーはその構造から多くの周囲の空気を巻き込んでかなり強い風を送り出すため、ある程度はサーキュレータ的な役目を果たせるのではないかと期待できる。通常の扇風機とは大きく異なる点だ。
こちらも以前に紹介したエアマルチプライアーの空気の流れのイメージ図。羽根のある扇風機は後方の風を全面に押し出すだけだが、エアマルチプライアーは周囲の空気を巻き込むことによって全体の風量を多くしている。これならサーキュレータとしての効果も高そうだ |
本当に騒音は大きいのか?…その真実は?
騒音計の画面。リアルタイムで計測することができる。右の「LO.」と表示されているのは、騒音が30dBを切った状態のためだ。夜間の室内はだいたい30dBぐらいだと言われているので、うちの部屋も比較的静かなほうなのだろう |
エアマルチプライアーが登場した当時は「音がうるさい」という問題が取沙汰された。で、実際どうなのかと言うと確かに最強で動かすと、音が気になることは否めない。ただ、最小の時はとても静かで、個人的にはまったく問題がないレベルだ。インターネットで飛び交っているさまざまな意見を見てみると、どうも「中から強の時にうるさくて耐えられない」ということのような気がする。
この問題に白黒を付けたいと思い、今回は騒音計を使用してエアマルチプライアーの騒音の計測に挑戦してみたが、これは非常に難しかった。以前に普通の扇風機の騒音を計測してみようとチャレンジしたことがあるのだが、そもそも扇風機というものは、風を送り出す際にかなりの風切り音が発生する。そして、騒音計で計測しようとすると風がバシバシマイクに当たるので余計な音がさらに発生してしまい正確な値がほとんどわからないのだ。よほどちゃんとした無響音施設でそれなりの計測器で計ればいいのかもしれないが、とりあえず正面と斜めの2方向から計測してみた。密閉された部屋で夜間に行なっているが、誤差は結構あると思うので、本当に参考程度にとどめていただきたい。以下がその結果である。
やはり風が直接当たる正面のほうが騒音は大きい。斜めになると構造的なものかあるいは風の性格によるのか、直進タイプのサーキュレータは極端に値が下った。逆に拡散タイプの小型卓上扇風機とエアマルチプライアーの差は小さかった |
ちなみに計測に使用した部屋は夜間で30dB以下であり、私が働いている昼間のオフィスは40~50dBぐらいの騒音である。サーキュレータは、正面が70~79dB、斜めで47.8~51.4dBで、弱でも音が大きいのはその構造上仕方がないところ。エアマルチプライアーは、正面が35.7~68dB、斜めで32.8~56.6dBで、正面についてはサーキュレータよりもかなり低い。個人的な感想だが、30~50dBなら多くの方がそれほど気にはならない範囲で使用できる気がする。
一方、60dBぐらいになるとそこそこうるさく感じるので、エアマルチプライアーを常に強で使い続けるのは少々厳しいのではないか、というのが個人的な感想だ。しかし、参考までにすでに処分してしまった羽根のある扇風機を他の実験で騒音だけ計測したことがあるのだが(当時は風速計を持っていなかったので)、強で60dB以上の騒音だったと記憶している。各社の扇風機のカタログを見てもスペック上では40~50dBの製品が多く、扇風機というものは強で使用するとうるさいもののようだ。エアマルチプライアーの肩を持つわけではないが、強のモードにして「これってうるさいね」と判断するのではなく、一番多く使用する風の強さの音の大きで判断した方が現実的だと思う。
消費電力っていったい…とても少ない
最後に消費電力について触れておこう。今年の夏の最大のテーマになった節電にもつながる話だが、私の使用している「エアマルチプライアー AM03 フロアーファン」は、なぜか消費電力がホームページに記載されていない。サイズが小さいテーブルタイプの「AM01」は40Wと書かれているのだが、まさか同じわけもないだろうから少々心配になった。ダイソンの掃除機の消費電力は1000W以上ある。まさか、エアマルチプライアーもそれに負けない消費電力では……計測結果は以下となった。
参考として現在も使用している例の古いエアコンのほぼ最大値とパソコンの消費電力も掲載している。DELLはデスクトップタイプの「OPTIPLEX 380」、iMacは2.8GHz Corei7を搭載したタイプ。iMacの値が大きいのはモニタ一体型のためだ |
心配したが、ぜんぜん大丈夫だった! 強では58Wだけど弱では5.8Wという少なさだった。消費電力の少なさを売りにしている「グリーンファン」が最弱時で3Wということなので、さすがにそれには及ばないけどいい勝負である。グリーンファンのホームページにはさらに従来型の扇風機は弱で30Wぐらいと書かれているから、それが本当だとしたらエアマルチプライアー の消費電力はかなり低い方に入るのではないだろうか。
実は、エアマルチプライアーの風量調整は他の扇風機と違って無段階になっている。これは扇風機としては非常に珍しい。風速が1.5m/s~5.8m/sまで幅広く対応しているため、自分の好みの風量に完全に設定することができるのだ。そのため、そよ風からかなりの強風まで、生活のスタイルや用途に合わせてさまざまな使い方が可能だ。私は、夏場の冷房の補助から冬場のサーキュレータの代わり、そして梅雨時の洗濯物の乾燥にも使用しており、従来の扇風機に比べて使用範囲と頻度が大きく増した。いろんな意味でエアコン頼みだった生活から節電をしながらそれでいてある程度快適な生活をワンコたちにも与えてあげられるようになった気がする。
最後に私ごとで恐縮だが、タイトルにもあるように私はMacをいつも愛用している。これはパソコンに限らず家電にもいえることだが「誰にでも使いやすく本当に役に立つもの」ということが製品として大切なことだと思う。その発想の元になったのが、Macをはじめとしたアップル製品との出会いだった。その結果、パソコンはMacを選び、家電もとにかく実際に自分で試して取捨選択して来た。掃除機や扇風機がダイソンに至ったのも自分が苦しんだ末に出した結論である。どんな原稿を執筆する時も必ずそのことを忘れずに製品の評価や紹介に努めて来たつもりだが、それだけにスティーブ・ジョブズ氏の悲報は大きな衝撃だった。正直なところ、ショックが大きすぎて何も手につかない状態だ。今はただご冥福をお祈りしたい。