熱中症になりやすい人なりにくい人…なぜか
熱中症の対策には「風」が有効! 風の強さを計るには風速計を利用する。種類はいろいろあるが、写真のようにハンディタイプの手軽に計測できるものが便利。1万円前後から購入することができる。えーと、今回もワンちゃんはオマケです |
少し涼しい日も出てきたが、まだまだ暑さが続きそうな2011年の夏。日本国民全体の努力によって計画停電もなく「節電」は順調だが、7月に熱中症で運ばれた方は昨年とほぼ同数の17,963人となった。これは一昨年の3.4倍近い。節電も大切だけど体調を崩してしまっては何にもならない。場合によっては死に至ることもあるので無理は禁物である。しかし、熱中症で怖いのは本人が気づかずに発症してしまうケース。屋外よりも室内で熱中症になる方が多いのだ。「このぐらいなら我慢できる」とか「あまり暑く感じないのでエアコンはつけない」とか「政府や東京電力が言うように室温を28度に設定しておけば問題はないだろう」というパターンで熱中症になってしまう人がかなり多いように思う。
消防庁のホームページ。同省によると、熱中症による救急搬送数を猛暑だった昨年と比べると、6月は3倍、7月はほぼ同数だった。8月の後半からは多少落ち着いてきたが、今後どうなるかまだ心配だ |
温度の感じ方は個人差が大きい。28度でも暑く感じる人もいればちょうど良く感じる人もいる。今年の夏はどのオフィスも28度の設定になっているだろうからケンカのしようもないけど、昨年までは冷房の温度設定で女性と男性が争う姿がよく見受けられた。これは、まったく同じ環境でも「性別」「年齢」「体質」「体型」「服装」などの違いによって温度の感じ方が大きく異なるからだ。また、熱中症のなりやすさも違ってくる。
まず、女性よりも男性のほうが同じ気温でも暑く感じる。女性は筋肉が少ないので熱を作る力が弱く、脂肪が多いので熱を伝導する能力が低いからだ。つまり、男性は熱しやすく冷めやすい、女性は熱しにくく冷めにくいのである。だから、男性がちょうどよい温度でもたいていの女性は寒く感じるのだ(私のように例外もいるが…)。さらに女性はどうしても夏は薄着になりがちだが、男性は職場でワイシャツだの背広だのと何かにつけて着込む必要があり、さらによけいに暑く感じてしまう。
次は、年齢と体質による感じ方の差である。よく言われることだが、子供は汗腺が未発達で汗をかきにくい。汗をかかないということは体の熱を外に逃がすことができないので体温調節がうまくできないということになる。実は大人でも汗腺が未発達な人が増えていて、熱中症にかかりやすくなっている。幼い頃からエアコンを使用した快適な生活が当たり前になっていると汗腺が発達せずにそのまま大人になり、子供と同じように体温調節がうまくできないのだ。気温が高いのに汗をかかなかったり、サウナに入っていてもあまり汗が出ない人は要注意だ。冷え性の人は特にこの傾向が強いらしい。
子供だけでなく、高齢者も汗をかきにくく体温調整が苦手だ。しかも体内の水分が少ないため、あまり汗をかかなくても脱水症状を起こしやすい体質になっている。さらに暑さも感じにくくなっているため、エアコンをつけずに室内にいて熱中症になってしまうケースが非常に多い。7月に熱中症で搬送された中で46.3%もの人が65歳以上の高齢者である。
それから、肥満の人は熱がこもりやすいので、やはり熱中症になりやすいそうだ。男性でも脂肪があれば女性と同様に熱中症に強いのかと思えばどうもそうではないらしい。逆に体内の熱が外に放出されなくなり、熱中症になりやすいらしい。このように熱中症のなりやすさはさまざまな要素が組み合わさって決まる。では、以下にまとめてみよう。
「女性よりも男性のほうが熱中症になりやすい」
「子供と高齢者は熱中症になりやすい」
「汗腺が未発達の人は熱中症になりやすい」
「肥満の人は熱中症になりやすい」
「服をたくさん来ている人は熱中症になりやすい」
「体調不良、脱水症状の人は熱中症になりやすい」
複数該当する人は特に注意しよう。水分もこまめに補給して、自分が居る場所の気象データをチェックし、できるだけ気温の高い場所には長時間いないようにしよう。なぜ、データでチェックしたほうがいいのかというと、暑さを感じにくい人は知らず知らずのうちに熱中症になるからだ。若者でも炎天下のグランドに長時間いれば発症することもある。あまり自分の感覚だけを頼らずに数字で確認してそれに基づいた予防策を立てることが大切だと思う。
天気のよい日に測定した高さによる気温の違い。アメダスでは、33度となっていたが、アスファルトの上にいると38.5度もあった。さらにダックスのお腹の高さはなんと46.7度! これはたまらない。あっという間に熱中症になってしまう。※写真はイメージです。本当にこんな気温だとワンコがすぐに倒れちゃうので… |
ちなみに犬は足の裏にある肉球にしか汗腺(エクリン汗腺と言うらしい)がなく、汗をかきにくい動物である。だから熱中症にはとても弱い。増してやダックスとなると足が短いから地面との距離がほとんどなく、相当本人たちは夏の散歩が苦しいようである。彼らの肉球以外の冷却方法は、舌から唾液を蒸発させて体温を下げる方法がある。暑いと「ハッハッハッ」となりやすいのはこのためだ。
気温と湿度の値がわかれば熱中症は防げる…その理由
気温だけを捉えて熱中症の危険性を判断している場合があるが、そんな単純なものではない。例えば、今年の節電のキーワードとなった「28度」というエアコンの設定温度は必ずしも安全とは言えないことをご存知だろうか。前回掲載したヒートインデックス(Heat Index)表を見ると、気温が28度の場合はそもそも「注意」が必要で、湿度が85%を超すと「特に注意」の領域に入る。同じ28度でも湿度が高いとより危険なのだ。これが1度アップすると70%の湿度で、2度アップ(つまり30度)すると60%で「特に注意」となる。
15%の節電が始まった当初、政府や東京電力の告知では湿度が高いと危険性が増すことをきちんと説明していなかったように思われる。そのため、「何が何でも28度以上に設定しなくては」という人が増えてしまい、さらに「今年はエアコンを使用すること自体が悪い事」と勘違いした人も出て来て、それが猛暑だった昨年の3倍以上(6月時)という熱中症患者の救急搬送につながってしまったような気がしてならない。
政府も東京電力も「無理をしない範囲でエアコンを使用するように」という方向に徐々に変わってきたが、湿度についてはあまり詳しく述べられてはいない。また、エアコンよりも扇風機の使用を推奨しているが、これに関しても説明不足が目立ち、扇風機がなぜ有効でどのような環境ならその力を最大限に発揮できるのかわかりづらい。そこで、「風」の力の効果についても説明しよう。
熱中症に深く関わる気象的な主な要素としては「気温」「湿度」「輻射熱」「気流(風速)」の4つがある。厳密にはこれに「放射熱」と先に説明した「性別」や「体質」といった各個人の要素が加わって最終的な判断にならなければならないが、そこまで考慮した指数は目にしたことがない。また、要素が増えれば増えるほど面倒な計算が増えてわかりづらくなるので、ここでは「気温」「湿度」「輻射熱」「気流(風速)」に絞って話を進めて行きたい。
さて、人間は、暑い→汗をかく→汗が気化する→気化する際に体の熱を奪う→体温が下がる、という仕組みによって体温を調節することができる。これは、湿度が高い梅雨時には洗濯物が乾きにくく、湿度が低い季節には乾きやすいのと同じだ。湿度が高いと体温は下がりにくく、湿度が低いと体温が下がりやすくなる。
ヒートインデックスは、もっとも重要な気温と湿度という2つの要素から計算して熱中症の危険度を知ることができるが、輻射熱や風速は考慮していないので、あくまで最低限の目安に過ぎない。しかし、気温と湿度は誰でも簡単に計測できる数値なので、まずはこれを利用するのがよいと思う。
日本では、熱中症予防の暑さ指数として輻射熱を取り入れた「WBGT(湿球黒球温度)」という指数を環境省が利用しており、輻射熱の要素を取り入れることでヒートインデックスよりもさらに正確な判断が期待できる。しかし、輻射熱を測定するには黒球温度計というのが必要で、これを搭載した熱中症指標計は安い物でも3万~5万円もする。黒球温度計を省いた簡易熱中症指数計というのが3,000円ぐらいで販売されているのでこれを利用するのもよいが、湿度と気温だけではヒートインデックスと何が違うのか少々疑問が残る。まあ、それでも自分の感覚だけに頼らずに数値的に「危ない」という指数を求めることができれば、エアコンの設定を変更したり、涼しい場所に移動するなど対策を講ずることができるので安心だ。そして、その対策として有効なのが風である。
環境省のホームページには「暑さ指数(WBGT)とは」というページがある。WBGTの値や予報も掲載されているが、今ひとつ一般に知られてないのが残念 |
熱中症には「風」が有効…その根拠は
「気流」は温度差や地形の変化によって起きる気象現象の1つで、ジェット気流や上昇気流などが有名だが「風」もその一種である。気温や湿度を上げたり下げたりするのとは違って、風は特別な装置を使用しなくても団扇で扇ぐだけでも作り出すことができる。先ほども述べたように人間は体表面の水分を気化させて体温を下げることができるので、体に風を当てればよりたくさんの熱を放出して体温を下げることができるわけだ。風が当たると涼しく感じるのはこのためである。そして、この風の要素を含めて表した数値が「体感温度」という指数だ。
「体感温度」という単語はよく耳にすると思うが、実際にどんな値なのか調べてみるとなかなかこれだ! という計算式が見つからない。有名なのはミスナールとリンケの計算式だが、ミスナールの式は、気温と湿度しか考慮しておらず風速が入っていない。そして、リンケは気温と風速しか考慮しておらず湿度が入っていない。なんとも中途半端な感じだ。実は、この2つの計算式に風速の要素を加えた香港天文台の改良版の計算式というものがあって、同じ気温と湿度で風速が1m増すごとに体感温度がどれぐらい下がるのかを算出してみた。気温は28度、湿度は「特に注意」の領域に入る85%の条件にした。
気温が28度、湿度が85%の場合に風速が1mごとに増した時の体感温度。不快指数やヒートインデックス、ミスナールの式は風速を考慮していないため影響を受けない。リンケの式と体感温度はそれぞれの理屈によって変化している |
これを見ると、気温が28度でも風速が3mあると体感温度はなんと24度。4度も下がっている。これなら熱中症の心配はかなり少なくなる。風というのは熱中症に対して効果が高いのだ。もちろん、うちのエアマルチプライアーだって羽根はないけど扇風機なので、同じ効果が得られるということだ。体感温度がどこまで正確なものなのか疑問もあるが、このように数値として表してくれるのはありがたい。
さあ、いよいよエアマルチプライアーの出番となるわけだが、体感温度を出すためには風速を測定する必要がある。しかし、どうやって測定すればいいのだろうか? ここでいよいよ風速計の登場である。風速計とは、インペラーと呼ばれる風車のようなプロペラが回転して、風の速さを計測する装置だ。安い物だと1万円以下でも購入することができる。では、次回はこれを使ってエアマルチプライアーや風を産み出すさまざまな装置の測定をしてみたい。ついでにエアマルチプライアーがよく問題視される騒音も一緒に検証するつもりだ。エアマルチプライアーの実力や如何に!