この夏は節電をこころがけよう…でも熱中症が
今年の夏は「節電」が日本全体の重要なテーマだ。未だに不安な情報が多い福島第一原発の事故をはじめとして、多くの原子力発電所が稼働を停止しており、夏の電力供給に大きな影を落としているが、企業も家庭も節電目標(東京電力と東北電力管内では15%)に向けてがんばっている。しかし、「暑さ」には常に「危険」がつきまとう。毎年報じられているように熱中症で亡くなられる方がとても多いからだ。
厚生労働省によれば、平成22年に1,718名が熱中症で死亡し、その45.6%以上が家庭で発症したという。しかも死亡された方の中で79.3%が65歳以上の年配の方だ。地域別に見ると東京都が断トツで272人、次いで大阪府が139人、埼玉県が124人となっている。環境や人工密度は地域によって異なるので、都市部だから熱中症にかかりやすいというわけでもないだろうが、死者の半数近くが家庭で発症していることを考えるとエアコンをのスイッチを切るのにはそれなりに勇気が必要だ。ちなみに消防庁の発表によれば、今年の6月だけでも6,980人が熱中症で病院に運ばれたという。これは昨年の3倍以上にもなる。
厚生労働省のホームページには「熱中症を防ぐために」というリーフレットがアップされているのでぜひご確認を |
消防庁のホームページには今年病院に搬送された人の集計が掲載されている。ここにもリーフレットがアップされている |
アメダスの値よりも実際の気温は高い…なぜ?
今や生活の必需品とも言えるエアコンだが、夏前のテレビのニュース番組を見ていると「昔はエアコンなんてなかった」とか「最近は暑さへのがまんが足りなくなった」といったような無責任な発言をしていたニュースキャスターや解説者をよく見かけた。でも、そんな単純な問題じゃあないと思う。気象庁のデータを見ると夏の平均気温や最高気温は若干上がっているだけのように見えるが、これはあくまでも観測地点での話。私たちが実際に生活している環境は気象庁のデータとかけ離れていることが多い。
そもそも日本は高度経済成長期以降、さまざまな建築物を建設して緑地や水辺をどんどん減らし、地面にはアスファルトやコンクリートを敷き詰めてきた。日光は建造物に吸収され、それがそのまま周囲に放出されて気温をさらに上昇させるため、必然的にエアコンの利用が増えるが、その熱がさらに気温を上昇させる。都市部で問題になっているヒートアイランド現象はこのような状況が加速させている可能性が高いが、ビルは窓の開かないタイプが多く、最初からエアコンの利用を前提としているものが多い。これは電車も同じだ。
明らかに昔とは生活環境が異なっているように感じられるのだが、気象庁のアメダスの観測環境とは次のようなものらしい。
・風通しや日当たりの良い場所を選んでいます。
・自然の風を妨げないような材料で柵を設け、外部からの立入りにより不慮の事故や測器の障害が発生しないよう備えています。
・観測場所(露場)は設置される測器に望ましい観測環境を考慮して選定しています。
・気象測器の設置部分(30平方メートル以上)に芝生を植え地面からの日射の照り返し、雨滴の跳ね返りを少なくしています。
・設置部分に天然芝の代わりに人工芝を使っても観測には影響がないことを確認しています。
なんて贅沢で理想的な環境だろうと思う。家に例えれば、周囲に他の家屋が隣接していない風通しの良い一戸建ての芝生の生えた庭で測定しているというところか。これならば、エアコンがなくてもなんとか過ごせるかもしれない。しかし、実際の生活空間はとても過酷だ。私たちを取り巻く環境は昔と比べて大きく異なっている。道路や建造物はものすごい量の熱を蓄え、それが容赦なく周囲に放射され、アメダスの気温よりも遙かに高い値を示す。晴れた日の道路や屋上は5度ぐらいプラスした値が実際の気温に近いらしい。だから、気象庁の発表が「30度」であっても道路や屋上にいる時は35度はあると思ったほうがよい。当然だが、背が低くて地面(アスファルト面か)との距離が近いお子さんやワンコはさらに厳しい暑さとなる。本気で夏の節電や熱中症対策を考えるなら「都市計画」の見直しが必須だと思うが、なぜか私が見た範囲のテレビ番組では、この問題に触れられていない。なんでだろうねえ。
28度も場合によっては危ない室温…本当?
さらにもうひとつ。部屋の温度(あるいはエアコンの設定)を28度にしよう! という今年の夏のスローガンはわかりやすくていいのだが、正確な知識なしにそのまま実行すると危ないケースも考えられる。熱中症の要因は「温度(気温)」だけではなく「湿度」が大きく関わっているからだ。実は、気温が同じであっても湿度の違いによって快適だったり危険だったりする。米国の「National Weather Service」が掲載しているヒートインデックス(Heat Index)という表を見ると、28度という気温は湿度が低くても注意が必要な値だとしている。では、湿度が85%を超すとどうなるのか? かなり注意しなくてはならない領域らしい。この話はややこしいので次回詳しく触れたいと思うが、とにかく湿度が高いと危険度が増ということは覚えておいて欲しい。逆に湿度が低いと涼しくて快適に過ごせるということである。
日本ではあまり見かけないが、米国ではヒートインデックス(Heat Index)というのがポピュラーな体感温度(?)のようだ。専用のiPhoneアプリも発売されており、気温と湿度を入力すると危険度を教えてくれるアプリもある。左から、「Heat Index Calculator」「iHeatIndex」「Heat Index」 |
では、私の住んでいる環境はどうだろう。近所の道路はすべてアスファルトで舗装され、その脇に木と呼べるものは非常に少ない。だから、ワンコたちと散歩していても晴れの時はとても暑い。7月~9月ぐらいは早朝や夕方とか、かなり曇った日中しか散歩にでかけることができない。太陽の陽がサンサンとふりそそいでいる時に外に出ると5分もたたずにみんなダウンである。とは言え、夜の散歩は景色が見えないのでちょっとご不満のようだし、なかなか難しいね。
米国の「National Weather Service」が、Heat Index表を公開しているが、表示が華氏であり値も結構ザックリとしているので、これかな? という計算式を探してきて日本向けに摂氏の表を作成してみました。たぶん、計算はこれで間違っていないと思うけど…体感温度なども含めて詳細は次回説明します |
ちなみに私の住まいは一日中必ずどこかの窓から陽が当たるとても条件のよい部屋で、窓のある壁にはすべてベランダが付いている。ここを選んだ時は「最高にいい部屋だね」と思っていたのだが、この夏に限って言えば「最悪の環境の部屋」になってしまった。日中は陽が当たって部屋の温度がどんどん上昇し、エアコンを停止すると室温は35度以上にもなってしまう。窓を開けるともっと悲惨でベランダの輻射熱が入ってくるのでまったく涼しくない。これは夜も同じ。そのため、エアコンを完全に停止するのはたいへん難しい。なんとか電力を抑えながら使って、可能であれば時間帯や日によっては停止するという方法しかない。そこで重要になってくるのが「風」の存在である。
扇風機が6月ですでに品不足…風が節電のポイント
風というのは「気温」と「湿度」に続いて熱中症対策に重要となる3つ目のポイントだ。ある意味魔法のような存在だ。
とにかく今年は扇風機が売れている。というか、すでに在庫がまったくない店も続出している。エアコンと比べて扇風機の消費電力は大きく異なるため注目されているわけだが、経済産業省の節電対策メニューの中にも「無理のない範囲でエアコンを消して、扇風機を使いましょう」という項目があり、多くの方がそれを実践するべく扇風機を買い求めているようだ。私も昨年購入したエアマルチプライアーをフルに活用している。
ただし、基本的に扇風機の風で部屋の気温や湿度そのものを下げることはできない。しかし、実際には体温を下げることができる。矛盾しているように思えるが本当の話だ。扇風機は上手に利用すると節電に協力しながら快適に過ごすことができるツールなのである。次回は、「温度」「湿度」「風」の3つの関係について触れながら、エアマルチプライアーの実力にも迫りたい。