外科医でありながら、「オペ室より愛をこめて」などを執筆して漫画家としても活躍するさーたりさんによる連載「メディクショナリー ~スパイス効かせた医療用語辞典~」がスタートします。さーたりさんが時にコミカルに、時に鋭く医療用語・略語を解説する本連載の初回は、「IC」(Informed Consent: インフォームドコンセント)です。

インフォームドコンセント


医師が手術の説明や治療方針などを患者に対して分かりやすく説明し、患者の同意を得たうえで手術などを実行しようとする考え方のこと。近年、日本の病院においてもこの考え方が広まってきている。


使用例: 「来週手術の患者さんにICとってきます」

ドクターさーたりの解説

Informed consentの読み方は、そのままアイシーです。「集積回路」(IC)や「インターチェンジ」(inter change)と混同しないでくださいね。

手術や投薬などの医療行為に先だち、医療提供側(医者)からその内容について説明され、理解したうえで合意することを意味します。十分理解したうえで、拒否しても構いません。

例えば手術であれば、まずは病気の内容や進行度、それに対する治療法を説明します。そのうえで、「なぜ手術を医者が選択したのか」「手術のメリットとデメリットは何なのか」「手術に伴う副作用や考えうる合併症などはあるのか」などを説明して、手術同意書にサインをいただきます。

手術同意書だけではなく、麻酔同意書や抗生物質使用の同意書、輸血同意書、血液製剤同意書にもサインしてもらいます。もしも緊急手術であれば、緊急手術同意書も…と書類だらけになってしまうので、こちらとしても「患者さんに申しわけない」と、日々思っています。

ところで、「ICをする」という用法を聞いたことがあるかもしれませんが、こちらは実は間違った用法です。ICは「説明と同意」と日本語で訳されているので、本来ならば「ICをとる」「ICを得る」が正しい表現です。

「IC」という言葉が浸透する以前は「ムンテラ=Mund Therapie(ドイツ語)」(説明)という言葉を使っていたのですが、「『医者のいいなり』というイメージがある」との理由で「IC」を使い始めた経緯があります。そのため、「ムンテラ」と「IC」が混同して使われていることが多いのです。

「IC」が使われ始めた背景には、医療訴訟の増加と患者さんが医学情報を得る場が増えた(ネットの普及)があるわけで、この単語が医療界の環境の変化を象徴している気がします。

筆者プロフィール: さーたり

某大学病院勤務の消化器外科医。2児の母の生活、外科医の日常、漫画・アニメへの溢れる愛を描き散らしたブログ「腐女医が行く!!~外科医でママで、こっそりオタク~」を絶賛随時更新中。