路面電車にも列車ダイヤはある。普通の鉄道に比べると、路面電車はのんびり走っているように見える。道路併用区間は赤信号で停まるし、交通渋滞でダイヤが乱れる。電車同士も渋滞すると数珠つなぎだ。それでも列車ダイヤは作られているし、なるべくダイヤが乱れないように工夫している。今回は東京の路面電車、都電荒川線と、併用軌道区間は少ないけれど道路信号で停止する東急世田谷線のダイヤを作ってみた。
都電荒川線と東急世田谷線は、法律上は「鉄道」ではなく「軌道」だ。敷設や運営の基本となる法律も、鉄道は「鉄道事業法」、軌道は「軌道法」となる。技術的にはどちらも鉄道といえるけど、軌道は道路に敷設するため、地方自治体との調整が必要になることから、異なる法律で運用されている。
運用方法でいうと、ほとんどの鉄道は閉塞方式といって、線路を一定の距離で区切り、その区間は1列車しか入れない。しかし軌道は道路上を走る事情もあって、閉塞はなく、その代わりに目視で安全に運行できるよう、最高速度を自動車と同じにするなど制限されている。だから都電荒川線のように、電車が2台も3台も数珠つなぎ……という状態になる。これは全国の路面電車でおなじみの風景だ。
その都電荒川線の列車ダイヤを作ってみた。電車が渋滞したり、運行間隔が空いたりするけれど、列車ダイヤはちゃんとある。列車ダイヤは車両の運行管理表でもあるから、作らないと電車のやりくりができない。路線バスにだってダイヤはあるのだ。
都電荒川線の公式サイトの時刻表を見ると、日中は6~7分間隔と表示されていて、あいまいだ。しかしインターネット時刻表サイト「駅から時刻表」にはきちんと紹介されている。この時刻を列車ダイヤ作成ソフト「OuDia」に入力してみた。
運行本数が多いので、1日を圧縮すると塗りつぶされてしまう。それでも朝夕のラッシュ時は増発されている様子がわかる。
始発から朝ラッシュ時を拡大表示してみた。なんとなく町屋~大塚駅前間の運行本数が増えている。荒川車庫前、王子駅前もダイヤの境目のように見える。道路との併用区間は王子駅前~飛鳥山間だ。区間運転を増やして、交通渋滞による遅延の影響を減らす努力をしているように見える。また、王子駅前~荒川車庫前間という短い区間列車は、電車の遅延を見越して挿入した電車かもしれない。
それでも交通渋滞や事故、乗客の混雑や偏りなどで電車は遅れてしまう。でも列車ダイヤはきれいに等間隔で描かれている。毎日が遅延との戦いといえるし、いちいち遅延を気にしていられないともいえる。のんびりした雰囲気の電車だし、乗ろうとした電車が遅れていたとしても、先に発車する電車がタイミング良く遅れてやってくることも。折返し設備が多いから、道路の事故などで大幅にダイヤが乱れたときは臨機応変に対応できる。
続いて東急世田谷線の平日ダイヤを作成した。沿線は住宅地。両端は都心へ向かう東急田園都市線と京王線に接続している。途中の山下駅は小田急線豪徳寺駅に近い。したがってラッシュ時の増発が多く、こちらも朝夕の混雑時間帯は黒く塗りつぶされてしまった。日中時間帯を見ると、線の間隔が整っている。きれいなダイヤである。
始発からラッシュ時までを拡大してみた。世田谷線は上町駅に車庫があり、朝は三軒茶屋方面・下高井戸方面の両側に向かって出庫している。下高井戸行は5時ちょうど、三軒茶屋行は2分早い4時58分に発車する。2分のずれの意味は何だろう? 発車の合図をする人が1人とか、1本ずつ安全確認して発車させたいからか。ラッシュ時間帯の増発は、上町駅から発車し、上町駅で入庫する列車の増減で対応している。
ここまで綿密なダイヤ設定をして、列車の間隔を維持しても、道路信号によって乱れてしまうのではないか? しかし、東急世田谷線は時刻表通りに走っている。その理由は、道路信号の若林踏切に工夫があるからだ。
若林踏切は西太子堂~若林間にある。道路は環状7号線。交通量が多く、渋滞しやすい道路だ。若林踏切には遮断機がなく、道路信号が設置されていて、自動車はもちろん電車も交通信号に従う。ただしこの信号機は、じつは電車に有利なしくみになっている。
若林踏切で観察すると、電車が踏切に近づいて一旦停止すると、すぐに道路側の信号機が赤になり、電車側の信号機が青になる。このしくみを織り込んで列車ダイヤを設定しているというわけだ。
西太子堂~若林間の距離は0.3km。これは隣の区間、三軒茶屋~西太子堂間と同じ。ただし、ダイヤ上では三軒茶屋~西太子堂間の所要時間は約1分に対し、西太子堂~若林間は2~3分に設定され、余裕を持たせている。もし若林交差点の電車側の信号が青の場合は、スムーズに通過できてしまうので、かえってダイヤを乱してしまう。おそらく若林交差点を順調に通過した電車は、どこかの駅で時間調整し、長く停車しているだろう。