東武野田線、愛称「東武アーバンパークライン」は埼玉県の大宮駅と千葉県の船橋駅を結ぶ62.7kmの路線だ。JR武蔵野線の外側を走る。東武野田線とJR川越線・八高線を結ぶと大きな環状ルートができあがる。その内側にある武蔵野線・京葉線・南武線・横浜線は、JR東日本が「東京メガループ」と名づけ、輸送改善を進めている。これら2つの環状ルートは、「ドーナツ現象」のドーナツの輪、ベッドタウン開発が進む地域だ。
東武野田線はもともと、野田市の醤油を柏に運ぶ路線だった。現在は貨物輸送もなく、ベッドタウンの通勤通学路線となっている。沿線の人々は大宮・春日部・流山おおたかの森・柏・新鎌ケ谷・船橋の各駅で、都心から放射状に運行される路線に乗り換える。全線を通して乗る利用者の割合は少ないかもしれない。そのせいか、かなり長い路線だけど、土曜日の「スカイツリートレイン」の他は普通列車だけだ。ダイヤ上は地味な路線かと思ったら、複線と単線、スイッチバックもある。運行計画の苦心の賜物といった印象だ。
平日ダイヤの全体図を見てみよう。「スカイツリートレイン」は土曜日のみの運行だから、平日は普通列車だけだ。7~9時台にかけて列車が集中している。特徴は春日部~運河間と柏~新鎌ケ谷間の本数が少ないところ。通勤時間帯だから他の区間並みに増発したいけれど、できない。なぜならこの区間は単線が含まれるからだ。
東武鉄道が4月30日に発表した2015年度の設備投資計画では、野田線の複線区間延伸は盛り込まれていない。すでに複線となっている大宮~春日部間で急行を運転するための線路改良と、清水公園~梅郷間の高架化工事が示されていた。高架化と同時の複線化もしないようで、他の区間に比べて輸送量が少なく、投資効果が小さいと考えられる。全線複線化・全区間急行運転で、並行する武蔵野線と競ってくれたらおもしろいけれど……。
野田線のもうひとつの特徴は夕方のラッシュ時間帯だ。大宮~柏間は増発されているのに、柏~船橋間は日中の運行間隔とほぼ同じ。柏駅を境に、単線を含む大宮側は増発され、船橋側はそのまま。野田線にとって柏駅が境界になっている様子がわかる。柏駅はスイッチバック構造になっていて、列車の運行系統が分断されている。直通列車は早朝に数本。そのうち全区間直通列車は大宮発船橋行が1本、逆向きが2本となっている。
朝の通勤時間帯、複線区間・単線区間がどうなっているか、「OuDia」の拡大縮小機能を使って詳しく眺めてみよう。ペイントツールで複線区間に赤いマークを付けてみた。断続的な複線区間があり、区間列車で運行本数を増やしている。逆に単線を含む区間の本数が少ない様子もわかる。単線区間の駅はすべてすれ違い可能で、そのすれ違い設備はすべて使っている。わざと運行本数を減らしているわけではなく、限界まで列車を増やしているわけだ。単線と複線の輸送力の違いがよくわかる。
野田線は全通当初は単線で、昭和30年代から少しずつ複線化された。増発に合わせて必要なところから少しずつ複線化しているようだ。南桜井駅付近は2007年、梅郷駅付近は2011年に駅構内を延長する扱いで複線化された。
柏~新鎌ケ谷間は需要がありそうだから、この区間は全線複線化したいところだ。調べてみたら、東武鉄道は昨年に発表した「東武グループ中期経営計画 2014-2016」で、「六実~逆井間複線化の推進」が明記されていた。2015年度計画には入っていなかったけれど、来年度に進展があるかもしれない。
野田線唯一の優等列車「スカイツリートレイン4号」は大宮駅から春日部駅までの片道運転だ。春日部駅からは東武スカイツリーライン経由で浅草駅へ向かう。野田線内も特急だけど、追い越し設備はないし、距離も短いから、前後の普通列車とほぼ同じ所要時間となっている。ゆっくり走るか、スピードを上げても途中のどこかの駅で運転停車する必要がある。
逆方向の列車も欲しいところだけど、なぜか片道1本しかない。「スカイツリートレイン」に使われる634型は4両(2両2編成)のみ。土曜日の634型の動きを追ってみると、太田駅9時25分発・浅草駅11時5分着、そこから春日部駅経由で大宮駅に回送され、大宮駅12時30分発・浅草駅13時25分着。折り返して浅草駅14時10分発の長距離コースで鬼怒川温泉駅16時32分着。ここから東武日光駅へ回送され、浅草駅に19時35分着。さらに新栃木行となって21時37分着となっている。新栃木駅からは翌日の朝までに⻤怒川温泉駅へ回送される。ものすごい大行路だ。
浅草発大宮行の回送列車は時刻表に現れないけれど、AmazonにDVDソフト『前面展望 スカイツリートレイン 東武伊勢崎線~野田線直通』のページがあり、紹介文に「浅草11:10発→大宮12:11着」とあった。春日部駅発着時刻がわからないのでダイヤには反映できなかったけれど、営業してくれたら野田線の「スカイツリートレイン」は両方向で乗れる。もっとも、浅草駅の5分の折り返し時間は降車で精一杯だろう。乗車案内は難しそうだ。
「スカイツリートレイン」の行路は面白くて、日曜日の日中も浅草発東武日光行という長距離の回送がある。回送列車は時刻表には表示されないので、ダイヤから察するに、「スケジュール的に回送運転で早く移動させる必要がある。とうきょうスカイツリー駅に停車する余裕がない。それではスカイツリートレインとして成立できない」という理由かもしれない。