掃除機ブランド「Shark(シャーク)」が2020年8月に発売した、コードレススティッククリーナー「EVOPOWER SYSTEM」。およそ2年前に発売したシャンパンボトルのようなハンディクリーナー「EVOPOWER」のヒットを受けて開発されたスティックタイプのクリーナーで、他に類を見ない独自のスタイルが注目を集めている。
今回は発売に至った経緯から、製品コンセプト、デザイン上のこだわりやそれを支える技術などについて、日本法人のシャークニンジャ 代表取締役の古屋和輝氏に話していただいた。
米国とは動向が違う、日本市場に向けた製品開発
シャークと言えば全米ナンバーワンの掃除機ブランドで、グローバルに展開している一大メーカー。2018年にリリースした「EVOPOWER」の売れ行きは、世界中でも日本市場が圧倒的に良いのだという。
「北米では性能の高さとリーズナブルな価格で好評を博しているシャーク製品の中でも、EVOPOWERは2万円を超えるプレミアムな製品です。にもかかわらず、日本で売れていることを米国本社では不思議に思われていました」
日本での反響を受け、EVOPOWERシリーズはその後もスターウォーズのデザインや臥牛窯の装飾を施した限定モデルを発売。1年後には、フローリング用の延長ノズルを付属し、床の掃除にも対応したスティッククリーナーとしても利用できる「EVOPOWER Plus」も発売している。いずれもプレミアム仕様な製品でありながら、日本での販売はやはり上々だった。
そこで「日本市場により注目し、さらなるシェアを獲得するために、日本発の掃除機を開発することが必要」との判断から、日本向け製品の開発プロジェクトが始まった。
「シャークが2018年に日本市場へ本格参入したときリリースした『EVOFLEX』というスティック掃除機は、パイプ部分が折れ曲がるという独自の構造などが注目を浴び、ニッチなニーズに応えた製品として反響がありましたが、大きなシェアを取るまでには至りませんでした。そこで、日本市場で受け入れられる掃除機というのを一から考えたとき、既に市場に存在している製品と同じようなものを作ったとしても、あまり意味がないという結論になりました。本当に日本の家庭で求められている掃除機は何か? ユーザーが意識しない潜在的な部分で、掃除機に抱いている不満点やニーズは何か? という対話を進める中で、導き出されたのが今回の新製品なんです」(古屋氏)
「使い心地」を継承し、いちから開発したEVOPOWER SYSTEM
ハンディクリーナーのEVOPOWERが日本市場で受け入れられた理由には、「見える場所に出しておきたくなる」スタイルが挙げられる。
「高いところを掃除したいとき、毎回パーツを分解したり組み立てたりするのは大変な手間です。いつでも手の届くところに出したままで、手軽に使える掃除機というニーズを、EVOPOWERがはっきり示しました」と古屋氏。
「掃除を楽しくしようとまでは思っていません。掃除という行為のハードルを下げること。すんなりと掃除を開始できて、途中も、終わった後も、心地よさを持続させることを意識して開発しました」と説明する。
日本市場に注力した、新しいモデルの開発プロジェクト。スタートするにあたって、米国本社で日本向けのチームが組まれ、スタッフが日本に派遣された。そして、日本家庭にプロトタイプを持ち込み、実際に使ってもらうことで、「例えば階段の掃除といった日本独特の事情や、潜在的なニーズというのを、彼らも腹に落ちるような形でつかんで帰国しました」と明かす。米国の本社には、「ジャパンルーム」と呼ばれる、6畳ほどの空間のテストルームも設けられているそうだ。
「EVOPOWER」を“祖”とし、日本独特の掃除事情も踏まえて生まれた「EVOPOWER SYSTEM」。一見すると、単なる「EVOPOWERのバリエーション」にも見えるが、実はほぼ一から作り直されているという。古屋氏は次のように説明した。
「踏襲しているのはあくまで使い勝手の部分です。考え方として、ハンディクリーナーがメインだったEVOPOWERの使い勝手をコードレススティックに置き換えたらどうなるのか? 見える場所に出しておいても違和感のないデザイン性や、スタンドにセットしておくことで常に充電されているといった利便性を維持しながらも、いかに床掃除を快適にできるか? というのを熟考しました」
その結果、たどり着いたポイントは主に2つ。「まずは高い吸引力ですね。床に落ちているゴミやホコリをヘッド部分でいかに取り除けるかが重要なため、吸引力はブーストモードを追加して、EVOPOWERの最大2.5倍まで高め、サイクロン機構も採用しています」(古屋氏)
また、ブラシレスパワーフィンという、新開発のローラーも技術的に重要な部分だ。
「『ブラシレスパワーフィン』はソフトローラーと青いフィンを組み合わせたものなのですが、実はEVOFLEXで採用されていた2つのローラーを1本に集約した形になります。ソフトローラーの柔らかい部分は床やフローリングを傷つけず、ナイロン素材にシリコンのコーティングを施した青いフィンの部分は、毛足の長い絨毯から、ゴミやホコリをかき出す効果があります。1本にまとめたことで、ヘッドブラシもよりコンパクトにできました」(古屋氏)
新しいヘッドブラシは、毛や糸くずが絡まないユニークな機構も採用している。古屋氏によると、2年前から米国で販売中のモデルでも採用されていた機構を大幅に改良したものであり、「ローラー上の青いフィンの角度が中央に向かって傾いた構造により、吸い込んだ毛を真ん中に寄り集まらせる効果があります」という。
しかし、「そのままだとローラーが回転するうちに、毛がだんだん巻き付いてきて、きつく絡んでしまうんです。そこでローラーの一部を櫛(くし)のような構造にして、毛をほぐすことで締まるのを防ぎ、緩んだ状態のままで中央に集まり、吸引口から吸い込むというように誘導していく仕組みです。ローラーの端側のほうにも、毛が入り込まないような設計を採用しています」と解説した。
世界的な掃除機ブランドとして知られる米国のシャークが、日本での「EVOPOWER」の大ヒットを受けて日本向けに開発した「EVOPOWER SYSTEM」。前編では、その経緯やプロセスと、スティッククリーナーとして新たに発売するにあたって改良されたヘッドブラシについて紹介した。次回後編では、「EVOPOWER」の使い勝手のよさを継承し、新たに採用された独自の機構や、デザイン上のこだわりについて語ってもらう。