2020年9月、6世代目にあたる新商品が発売になった水なし自動調理鍋「ヘルシオ ホットクック」。2015年に初代モデルが発売されて以降、近年人気の“ほったらかし鍋”の中でも先駆者と言うべき存在として市場をけん引しているが、現在は容量の異なる3タイプのモデルや人気ゲームとコラボレーションした限定モデルが発売されるなど、その勢いは止まらない。
今回は、前編で紹介した機構・設計・構造上の開発秘話に続いて、さらに進化した最新モデルの話を中心に、操作性や使い勝手といったユーザーインターフェースのこだわりや、デザイン意匠、今後の展望についても話してもらった。
コロナ禍における自炊の変化、クラウドデータが示す
小容量モデルには、1.6Lの標準モデルや、2.4Lの大容量モデルにはない「上下2段調理」機能も搭載されている。付属の専用容器をセットすることで、ごはんとおかずなど、内鍋の上下段で2品のメニューを同時に調理できる。
現状は小容量モデルのみに採用されている機能だが、シャープ Smart Appliances & Solutions 事業本部 国内スモールアプライアンス事業部 商品企画部・主任の吉田麻里氏はその理由を次のように説明した。
「小容量モデルのメインターゲットは、単身者や小世帯家族の方です。そこで、一台でごはんとおかず、あるいはお酒のおつまみとか、単身生活でも食生活を手軽に充実させることのできるメニュー開発と提案を考えています。ご要望があれば、ファミリー向けの機種でも2段調理をしていただけるように工夫し、クラウドメニューで対応するなど今後検討してまいります」
6世代目として今秋発売された新製品には、新たに低温調理のメニューが追加された。吉田氏によると、コロナ禍による生活習慣の変化からホットクックで調理されるメニューにも変化が見られることが、クラウドデータから示されているという。
「“ステイホーム”の人が増えたためか、これまで興味がなかったり、なかなか試さなかったような新しいメニューに挑戦される方が増えている傾向にあるという分析結果が得られています。低温調理は以前のモデルのホットクックでも対応していたのですが、今回新たに付属品である蒸し板の形状をトレイ状に変更し、食材を入れた袋の浮き上がりを抑えることで、専用のメニューも複数追加しました」
単純に蒸し板をトレイ状に変えるというだけでも、多数の試作が行われたという。
「高さや穴の数やサイズをどうするかなど、さまざまな試作を行いました。一度、欲張って食材がたっぷり入るすごく深いトレイを作ってみたのですが、見た目もごつくなってしまった上に、材料も重ねて納めなければならず、サイズ感が少し変わっただけでも蒸気の発生の仕方や熱の伝わり方などいろいろな要素に影響があるとわかり、四苦八苦しました。まずは最適な分量というのを決定した上で、検討と検証を改めて行っていきました」と続けた。
ホットクックのデザイン・ポリシー
ホットクックを皮切りに、昨今各社からさまざまなタイプの電気調理鍋が発売されている。デザインやインテリア性を強調した商品も増えている中、初代モデルから新製品に至るまでの外観やデザイン意匠など、ホットクックのデザイン上のポリシーやこだわりについて、同事業本部 国内デザインスタジオ・エキスパートデザイナーの小池岳男氏は次のように語ってくれた。
「端的に言うと、デザイナーとしては、家電としてよりも、お気に入りの調理道具としてデザインしたいという想いがあります。使われるシーンとか、ダイニング、キッチンに置いた時のこと。LDKの間取りが増え、最近は見せるキッチンが増えてきているので、そこに置かれるモノへのこだわりを大切にされる方も増えています。キッチンウェア、キッチンツールとして、その中に入っても違和感がなく、『家電もステキだよね』と思ってもらえるようなデザインを意識しています」
さらに、「使いやすさは機器の本質」とも話す。そのこだわりの具体例は、天面操作だ。「食材をセットして、蓋をしてという一連の動作において、同じ姿勢や視線で料理を行うことができ、動線を妨げないことを大切にしています」と小池氏。
さらにもう1つのメリットとして「本体前面側に余計なものが見えない」点も挙げ、「デザインにおける、共通したキーポイントとして、空間を意識しながら要素を整理し、調理道具としてのシルエットをすっきりと見せることも意識しています」とコメント。
小容量モデルにおいては「『自分が生活する上で、本当に必要なものは何か?』ということを意識してシンプルなライフスタイルを実践している人が多いので、スリムになった構造をベースに、外観上もスマートなデザインにアップデートしていきました」と語った。
ホットクックのもう1つのユニークなポイントには、発話機能も挙げられる。調理中や調理後などに「出来上がりを楽しみにしていてくださいね!」「仕上がりを確認してくださいね」など、ホットクックがユーザーに話しかけてくれ、気持ちをなごませてくれる。
小池氏によると、これもデザインの1つ。「調理して出来上がるまでワクワクさせてくれる楽しい時間。その『おいしさの体験』を機器とともに表現することもデザインの1つでもあります」と話す。消費者から好みのアンケートを募り、今夏、限定商品として発売された「戦国BASARA 伊達政宗Ver.」のホットクックも、その試みの1つと言えるだろう。
単なる調理家電としてではなく「AIoT家電」を標榜し、最先端のテクノロジーとともに、実用性だけでなく遊び心の要素も取り入れて、独自の進化を遂げているホットクック。今後の方向性や可能性、課題について改めて訊ねると、現在行っているユーザーの声に対する施策を話してくれた。
「ユーザーの方からは、レシピがダウンロードできる点を評価していただいています。これはクラウドに対応しているからこそだと思っています。また、先日『ホットクック部』というユーザー参加型のコミュニティーも立ち上げました。ユーザーの使用状況のデータや生の声により、ホットクックがどのような使われ方をしているか、ユーザーご自身でどのように工夫されているかといったことを知ることができます」
では、他社が追随してくる中、今後どのような展開を検討しているのだろうか。
「他社と大きく異なる点はクラウド対応にあると思いますので、クラウド製品だからこそ実現できる進化をさせていきたいと思っています。ハード面では“混ぜる”機能を進化させていきたいです。もっと対応メニューを拡げていくなら、サイズ感や実現可能な価格帯などを考えた上で、検討していきたいと思っています」(吉田氏)
主婦の欲しいものリストの上位に入る電気調理鍋の中でも、不動の人気と実力を誇るシャープのホットクック。新たな機能を追加するだけでなく、容量タイプの拡充やメニューのバリエーションは、すべてユーザーのニーズに応える形で進化してきた。「クラウドでユーザーとつながれる家電」を武器にした、今後の展開にも期待したい。