“ブルーフレーム”の愛称を持つ石油ストーブなどで知られる、英国のアラジン社。日本では、1985年から日本エー・アイ・シーがブランドのライセンス権を持ち、国内での製造・販売を手掛けている。
同社がこのほどクラウドファンディングサイト「Makuake」で先行販売をした新製品が「ランタンスピーカー」だ。
英国アラジン社の創業100周年を記念して日本でオリジナルに企画した商品で、1900年代に作られていた「アラジンオイルランプ」を、現代の技術で進化させた復刻版として開発された。
今回は本製品の発売に至った経緯をはじめ、製品のこだわりや企画・開発段階における逸話について、同社 企画本部・商品戦略課の高橋弘真氏に話を伺った。
復刻品らしい素材感と操作感
高橋氏によると、1900年代に製造・販売されていたオイルランプをリバイバルするにあたって意識したことの1つとして、“素材感”が挙げられる。
オリジナルのオイルランプは、当時の写真を見る限り、その年代らしくガラスと金属部品を中心とした、重厚感のある造りだ。これを再現するため、復刻版のランタンスピーカーも、ガラスと金属素材を中心としたデザインだ。
しかし、「技術的にもっともこだわった」と話したのは、明るさの“調整”部分だという。
「オリジナルのオイルランプは、つまみを回して芯を出し入れすることで明るさを調整するというものでした。今回、照明部分にはLEDを使用していますが、この作法を完全に再現しています」と語った。
実は「つまみを回して調整をするというのは、ブルーフレームをはじめとするアラジン製品の象徴的な作法」でもある。そのため、特に力を入れて開発された。
もちろん、“色味”の再現も注力された部分だ。「オイルランプ特有の温かみのある暖色を表現するために、特色の暖色LEDの光をアクリルで覆うことで光を柔らかく拡散しました」と高橋氏。さらにこの部分をよく見ると、ロープ模様のような部品で覆われており、オイルランプの綿芯の部分が表現されているのだ。
100年前の“作法”を現代のパーツで再現、重ねた試行錯誤
LEDランプの周りは、ガラス製のホヤで覆われている。これは「LEDがガラスの曲面に写り込む効果で、蜃気楼のような印影のあるオイルランプの炎を再現しました」と説明する。
高橋氏によると、「この部分は製造上、最も苦労した部分」でもあるという。LEDの高さを決めるにあたって、高くすればするほど、上下させるための中の歯車の構造が複雑になってしまうそうだ。
「試作段階では3Dプリンター製の部品で試すのですが、その部品ではスムーズに上下に動いていても、量産金型で作った段階の部品では、本来図面上にはない金型から部品を押し出すピンの跡が0.2ミリほどあり、ちょっとした摩擦が生じてしまって、スムーズに動かなかったりと、感触が悪くなることが多々ありました」(高橋氏)
そのため、急遽金型を作り直したりと、試行錯誤を繰り返した。
「使用する際に毎回触る部分なので、感触を大事にしたいと思い、動きが重すぎたり軽すぎたりしないよう感触を確かめながら、細かな調整をしました」と振り返った。
明かりにプラスされた機能が「スピーカー」になった理由
こうして100年の時を経て蘇ったランタンは、Bluetoothスピーカーとしての機能も追加された。そこに至るまでの経緯について訊ねると、高橋氏は次のように明かしてくれた。
「LEDはエネルギー効率がいいことから、まずは充電式にしようという話になりました。充電式であれば容易に持ち運びもできますし、室内だけでなくアウトドアシーンなど幅広く使えるようになります。そこで本体にバッテリーを内蔵したことから、当初はスマホの充電スタンドを兼ねようという別案が上がりました」
では、そこからどのようにスピーカーへと着地したのだろうか。
「仕様を詰めていく段階で、使用時間などの問題もあり(充電スタンドは)取り止めました。改めて別の案を検討している際、オリジナルのオイルランプが使われていた時代背景を調べていたところ、当時まだ家庭に電気配線が整っていなかった時代に、2階以上の部屋には持ち運べるオイルランプを明かりとして使うのが主流で、寝室のベットサイドに置いて、癒し、くつろぎの空間を作るアイテムとして使われていたということがわかりました。そこで、癒し、くつろぎをキーワードにした時、明かりと音楽が結びつき、スピーカー搭載という方向性に決まりました」
とはいえ、自社では音響機器の技術は持っていないため、開発は協力会社と共同で行われたとのこと。癒し・くつろぎを意識し、高性能なコーデックを採用するなど音質にもこだわった。
ブルーフレームのように囲んで楽しむ使用シーンをイメージし、360°全方位に広がり、低音を強調しないようにチューニングされているという。その結果、「ピアノとかギターとかアナログ楽器の生音の周波数の音と相性がいい」と話す。
本体サイズは、縦横12.4センチ、高さ38センチ。オリジナルよりひとまわりコンパクトだ。「最初にデザインがあって、その中でスピーカー機能をうまく収めていただきました」と高橋氏。
質感重視の塗装工程、経年変化で見える“味”も
スピーカーを内蔵した台座部分はアルミの鋳造が採用されている。しかし、外観上は重厚感あるブロンズ調。「リアルな質感を再現するために、通常はしない5回の工程の重ね塗りを、1台ずつ職人の手作業で施しています」と明かす。
「ギャレー」と呼ばれるホヤ受け部分は、オリジナルと同様に真鍮が採用されている。王冠のような複雑な形状は、「へら絞り」というプレス加工によって成型され、一般的に色褪せを防ぐために施される「クリア塗装」加工はあえて行わなかったという。
「アラジンの製品は、時間の経過とともに“味”が出て、古きよき道具としてのより愛着を持ってもらいたいという共通した思いがあります。そこで錆び感や光沢の変化を楽しんでもらえるように、元の素材の色だけで仕上げました」というのが理由だ。
場所を選ばずどこにでも持ち運んで使えるように、本体はIPx4相当の防水性能も備えている。
「さまざまな部分にシリコンのパッキンを仕込んでいます。雨水などが360°どの方向からかかっても電気系統には水がかからないように、スピーカーのある台座の下の穴の部分にもネズミ返しのような形状にして、水が内側に入り込まないようにしています」とのことだ。
クラウドファンディングでは大反響、今秋に一般発売
アラジンのランタンスピーカーは、6月19日にクラウドファンディングサイト「Makuake」で先行予約販売を開始した。高橋氏はその理由を次のように説明した。
「英国アラジン社の創業100周年の記念モデルということで企画した商品ですが、弊社の中では新しいカテゴリーの1つの商品。最初から一般販売するよりも、ストーリーを理解してもらった上で購入していただきたいと思ったからです。Makuakeには感度の高いユーザーの方も多く、狙いや思いが伝わりやすいというので手ごたえを知る上でMakuakeで支援を募ることにしました」
その結果、目標金額である50万円には、募集開始からわずか10分で達成。急遽追加した受付最終日の8月3日の段階では、目標の3129%となる1564万円を調達するほどの大反響を呼び、今秋にも一般発売が予定されている。
「特別なモデルでもありますし、ギフトを想定してパッケージにも相当こだわりました。今秋中に弊社の直販サイトでも販売が開始になりますので、先行販売を逃してしまった方にもご購入いただけます」
歴史ある明かりを現代に復刻した本品。一般発売によってさらなる反響が生まれるか、注目していきたい。