ソニーが6月30日に正式発売を開始した「wena wrist」。ヘッド部分はアナログ時計でありながら、バンド部分に電子マネーや通知、ログといったいわゆる"スマートウォッチ"的な機能を持たせた製品だ。
本製品は、社内からビジネスアイディアを募るソニーの新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program」から誕生した製品。2015年秋には、ソニーの運営するクラウドファンディングとEコマースのサイト「First Flight」において、国内で実施されたクラウドファンディングとしては初めて1億円以上の支援を集めたことでも話題を呼んだ。今回は同製品のデザイン面を中心に、設計開発を担当したチームに話を聞いた。
いかにして持ち物を減らすか、というアプローチ
いわゆるスマートウォッチ的な製品であるwena wristが他の製品と決定的に違う点は、デジタルな機能性と、従来のアナログ時計的なデザインを両立させていることだ。(wena projectの)事業責任者である、ソニー 新規事業創出部wena事業室統括課長の對馬哲平氏によると、本製品でコンセプトとして掲げられていたのは「いかに持ち物を減らせるか?」だと話す。
「『wena wrist』1つで何か持ち物がマイナスにできること、そういうイメージで考えていきました。まず、財布の機能があれば、ポケットから都度出さなくてもいいですし、スマートフォンの着信を通知してくれれば、カバンの中に入れておけばいい。そして、ログの機能があれば、手首に活動量計と時計を2個付けしなくてもよくなります。こうして、3つの機能に絞り込みました」と對馬氏。
大学時代のアイデアをカタチに
wena wristの大元のアイディアは、実は對馬氏がソニー入社前の大学生時代から温めていたものだ。
「その段階での構想は、バンドに何か入るといいなとか、そこにどんな機能を入れようかとか単純なアイディアにすぎませんでした。そしてソニーに入社した直後の研修の時に作りたいものとして最初に絵を描いたのがwena wristの原型。バンド部分にLEDが入っていたり、振動モーターが入っていたりと、完全に夢物語みたいな絵でした。どこにバックルを付けるとかなんて一切考えていませんでした」と語る。
しかし、その後にこのアイディアをもとに同期を中心とした有志が集まり、水面下でプロジェクトを進めていった。そして社内の新規事業創出プログラムに応募して見事採用され、事業化に向けて動き出した。
時計としてのルックスをそのままに
一般的にこの手の製品は多機能性を求める傾向にあるのに対し、wena wristは真逆の方向性を追求したというのが面白い。そして、結果、厳選された機能性と同様に、デザインの方向性も自ずとシンプルさを求めていったと明かす。
「もともとシンプルな機能しか入っていなかったので、デザイナーとの間でもシンプルにやりたいと話していました。wena wristのいいところは、ふつうの腕時計に見えるところなので、奇をてらったデザインにしようとかは全く考えませんでした。パッと見はふつうの腕時計なのに、よく見るとこだわりが随所に見られるみたいなものをデザインコンセプトに設定したので、(配色も)モノトーンの極力シンプルなものにしました」(對馬氏)
その結果、国内の時計メーカーが設計・製造したヘッド部分を採用。クロノグラフと3針の2モデルで、色はプレミアムブラックとシルバー、限定カラーのホワイトを展開し、美しい円筒形のケースと精密なヘアライン加工など、長年培われてきたアナログ腕時計の美しい佇まいをそのまま取り入れた。
腕時計としてはスタンダードなデザインとも言えるが、對馬氏によるとこれは“リファレンスモデル”とのこと。「今後、服飾ブランドなどさまざまなところとコラボしていきたいと思ってるので、第一弾はできるだけシンプルなデザインとし、配色もモノトーンに統一しました。Android端末で言うと、Nexusみたいなイメージですね。これをもとに機能拡張やアレンジをしていこうと思っています」(對馬氏)
時計を意識したUIデザイン
また、本体と連携するスマートフォンアプリは時計をモチーフに作られている。アプリの開発設計を担当した中村尚太氏は次のように語る。
「シンプルというのが製品のコンセプトにあったので、アプリもシンプルにこだわりました。でも、実はUIは新規事業創出プログラムの応募の際のデモで使ったものからは2回変更していて、だいぶ変わっています。ただ、時計のモチーフというのは当初から変えておらず、歩数やバッテリー残量を表示するダッシュボードや、スイッチのオン/オフのボタンなどを丸の時計をモチーフとしたデザインに統一しました」
wena wristの現在の購入者層は30~40代の男性がほとんどだという。しかし、アイコンなどのUIやロゴのデザインを担当した松原明香氏は、デザイン上は男女を問わず身に付けられる、ニュートラルなものを目指したと説明する。
「現在はサイズの問題でどうしても男性向けになってしまっていますが、今後は女性版にも展開していきたいという狙いがあります。UIのデザインコンセプトとしてプロジェクトのメンバーで共有していたのは、"男女ともに使えること"。アイコン1つで、女性っぽくなりすぎたり、思わぬ印象を与えてしまったりするので、周りの意見を聞きながらRを調整したり、全体的に男女両用を意識してデザインを詰めていきました」
次回は、同製品の技術面に迫っていく。