パナソニックから今春発売されたロボット掃除機「RULO MC-RSF1000」(以下ルーロ)。2015年に初代モデルが発売されて以降、毎年進化を続けているが、今回の新製品はメーカー自ら"次世代ロボット掃除機"と名付けるほど、過去にないほど様変わりしている。"三角形のロボット掃除機"というシンボルは変わらないが、その中身や見た目は大幅に刷新されている。そこで今回は、その進化のポイントを紹介しながら、それを成し得た技術と苦労、こだわりなどのエピソードを"プロダクトデザイン"をフックに2名の担当者に伺った。

  • 次世代ロボット掃除機を宣言したパナ「RULO」の”次世代”を紐解く(前編)

    パナソニックのロボット掃除機「RULO MC-RSF1000」。2020年最新の最上位モデルとして、360°全方位に照射する"レーザーSLAM"を搭載するなど最新の技術を詰め込んだ渾身の新製品だ

ナビは次世代に、でもすき間に届く「三角形」は維持

ルーロ史上初めて、ナビゲーション技術として"レーザーSLAM"を搭載した新製品。本体上面にある円盤状の内側の装置から全方位にレーザーを照射し、物体に当たって跳ね返った反射状況から空間を認識。作成した地図をもとに、自らの位置を確認しながら掃除を行う仕組みだ。船舶や潜水艦、航空管制でも使用されている高度な技術をロボット掃除機に採用したかたちだ。

  • 新ルーロでは、3つのセンサーの組み合わせにより、障害物の他、間取りを認識する

前述したように、ルーロと言えば従来から"三角形"のフォルムが特徴。円形やD形など他の形状に比べると、面積が小さく、狭いすき間にも入り込みやすい反面、内部に部品を納める体積は限られてしまう。そこで以前のモデルでも、部品を独自に小型化したり、配置に工夫を凝らすなどの逸話を語っていたが、レーザーSLAMという部品としては大きめのパーツを取り入れ、しかも機能的に本体の外側に取り付ける必要もあり、設計やデザインへの影響は少なくなかったことが見た目からもわかる。パナソニック アプライアンス社 ランドリー・クリーナー事業部 クリーナー開発課の古賀理基氏によると、いちばんの影響は"高さ"だったそうだ。

「今回、"これなら掃除を任せられる"レベルの圧倒的な掃除の繊細さ、安定性を達成するために、360度全方位に半径8メートルの広範囲で常にお部屋環境をセンシングできるレーザーセンサーを搭載しました。しかしその一方で、隅まで掃除できるルーロの三角形は、丸型に比べて単純に面積が小さくなってしまいます。また、360度センシングするためには、レーザーセンサーは本体のトップに配置する必要がありますが、ご家庭のベッドやソファの脚の高さの調査結果から、10センチの高さまでに抑える必要があり、技術的にさまざまな策を投じました」

  • 従来機種では、上面に備えたカメラセンサーによるSLAM技術を採用して空間認識を行っていたが、死角となる部分が多かった

  • 対して、"レーザーSLAM"では全方位に照射したレーザーの反射を捉えることで空間を認識する。そのため、床に近い低い位置などもより高い精度で認識できる

具体例としては、まずは"小型レーザーセンサー"の採用が挙げられる。「部品メーカーと協業で、一般的なセンサーに対して20%サイズダウンを図りながらも業界トップレベルのレーザーセンサーを開発しました」と続ける。他にも「従来機種では3枚に分かれて2階建て構造だった主制御基板を1枚に集約して小型化したり、社内の技術専門家と12%薄型化したバッテリーを開発しました」と明かす。さらに、筐体の構造についても「部品の分割や形状を工夫して、薄肉ながらも強度を確保するなど、これまでの経験や社内外の衆知を集めることで、日本の家庭サイズにフィットするよう0.1ミリ単位で調整し、現状のサイズ・高さを達成しました」とのことだ。

  • 仕組み上、どうしても本体の内部には収めることができないレーザーセンサー。ベッド下などにも潜り込める高さに抑える必要があるため、小型・薄型化に力が注がれた

新製品でもう1つの大きな進化点として、"アクティブリフト"機能の搭載もある。正面にあるセンサーにより、段差を見分け0.8センチ以上~最大2.5センチであれば本体前方を持ち上げて乗り越えるという画期的な機能だが、三角形という物理的に制約条件の多い本体の形状において、どのように実現できたのか、古賀氏は次のように説明した。

「アクティブリフトは、タイヤユニットを押し出すことで、本体がリフトアップする仕組みです。しかし、本体が三角形であるがために、タイヤユニットを押し出すためのデバイスの設置スペースがなく、苦労しました。一般的にタイヤのギアというのは円形なのですが、扇型にしたオリジナルのギア形状を開発することで省スペースを図っています。また、制御を単純化することによっても小型化を達成しています」

  • 0.8~2.5センチの段差を見つけると、本体前方を持ち上げて乗り越える新機能"アクティブリフト"

  • 三角形というルーロの形状は、狭い隙間に出入りしやすい反面、円形やD型に比べると容積が小さく、パーツを小型化する必要がある。アクティブリフトの機能を実現するために、通常は円形であるタイヤのギアを扇形に設計した

しかし、実は「この機能は三角形だからこそ実現できた要素もあるのです」とも語る。「リフトアップして乗り越えるべき段差かどうかを見極めるために、前面の左右上下に2個ずつセンサーを設けています。これは先頭がフラットである三角形だからこそ最適な位置に設置ができたとも言うことができるのです」(古賀氏)というのが理由だ。

  • 段差を見分けるためのセンサーは、三角形の形状ゆえに本体前方に設けることができ、"コロンブスのたまご"的産物でもあった

最先端技術を、いかにして家庭用へ落とし込むか

新製品のルーロは、千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(fuRo)と共同開発し、2018年に技術発表されたコンセプトモデルが元になっている。全方位レーザーSLAMの搭載も、本体を持ち上げて段差を乗り越える機構も新製品でほぼそのまま踏襲されているように見えるが、今回、コンシューマー製品として発売するにあたり、どのような違いや変更があるのだろうか。

「コンセプトモデルは、最先端の技術を搭載していますが、家庭用として実用化するにあたり、価格を従来程度に抑えることも重要視しました。コンセプトモデルでは、段差を見極めるセンサーとして、AI床センサー(TOFセンサー)を搭載していましたが、有効性が確認できたため、従来から実績のある赤外線センサーを活用しています。縦置きにして充電できるスタンドも、価格を含めた製品仕様を決定する中で、今回は導入を見送りました」(浦川氏)

  • 新ルーロの原型となったコンセプトモデルのイメージ

新製品のもう1つの機能に、"otomo機能"というのもある。円盤部を3回タップすると、目の前にある足を認識し、ルーロがその後を追随して、止まった位置の直径1.5メートルの範囲をスポット掃除してくれるというユニークな機能だが、コンセプトモデルからはスタート時の仕様上の変更が行われているという。同クリーナー商品企画課の浦川航氏は、その理由を次のように語る。

「コンセプトモデルでは専用のボタンがありました。しかし、レーザーセンサー部の円盤をタップする仕様に変更したのは、次世代ロボットと謳うくらい技術・性能面で大きく進化したルーロなので、一般的な家電ではなく、一緒に暮らしている"ロボット感"を感じてもらうためでもあります。その象徴として、otomo機能を搭載しており、その起動方法を『ねぇねぇ』とルーロを誘い出すようなUI、つまり円盤をタップするという方法で表現しています」

  • レーザーセンサーの円盤部分をタップした後、180度回転して目の前にある脚を認識し、ルーロがその後を追随し、止まった場所を掃除する"otomo機能"

2015年の初代モデルの発売から、ルーロ史上最大の進化を遂げた新製品。今回は、技術や機構・設計部分を中心に話を伺った。次回後編では、"次世代ロボット掃除機"としての意匠的なデザインのこだわりや意図、それぞれのパーツが象徴する意味について語ってもらう。

  • パナソニック アプライアンス社 ランドリー・クリーナー事業部 クリーナー商品企画課の浦川航氏(左)と同クリーナー開発課の古賀理基氏(右)