マスクを装着し、ハンズフリーで顔の表情筋をケアできる"ウェアラブル美顔器"として2018年3月に発売され、以降2カ月で初回生産分が完売となるなど大ヒット商品となった、ヤーマンの「Medi Lift(メディリフト)」。今年9月には第二弾として目元専用の「メディリフト アイ」も発売となり、美容意識の高い女性層を中心に話題を呼んでいる。

開発・発売元のヤーマンは、1978年の創業以来、多数の美容健康機器の研究開発・製造・販売を手掛けてきた、日本の老舗美容・健康機器メーカーだが、今回の画期的なヒット商品の登場で、ブランド認知を高めた。そんなヒット商品が生まれるまでの秘話や苦労話などの裏側をプロダクトデザインを切り口に、同社ブランド戦略本部マーケティンググループの吉田誠氏に語ってもらった。

  • マスクを顔面に装着し、ハンズフリーでリフトケア(機器で肌を持ち上げてケアをすること)が可能なヤーマンのウェアラブル美顔器「Medi Lift(メディリフト)」

「美顔器は面倒」を変えたかった

マスク型の美顔器というこれまでなかった形だが、この発想に行き着くための出発点は"ハンズフリー"にあったという。「美容機器は、正しく使うと高い美容効果を実感できますが、使い方が難しかったり面倒だったりと継続使用に対してハードルが高いです。弊社では、これまでにも様々な美容機器の開発の歴史がありますが、何もしなくても勝手にお手入れしてくれる究極の美顔器とは何か? を模索・追求しました。その結果、たどり着いたのが"ハンズフリー"と言う思想。そのことに改めて注目すると、顔に直接触れるマスク型にたどり着き、マスク形状でリフトケ(機器で肌を持ち上げてケアをすること)アをテーマとした製品開発がスタートしました」と吉田氏。

とはいえ、ひと口にマスク型と言っても、どのような仕組みでケアを行うかは次の課題だ。本製品は、マスク状のシリコーンゴムの中にEMSのデバイス(本体)をセットした上で、顔に装着するという仕組み。最初に取り組んだのは電極の位置と構造だという。

  • 全体を広げた状態のマスク。左右の頬の部分に電極を備えるEMSデバイスをセットする仕組み

「リフトケアに重要な筋肉は、大頬骨筋・小頬骨筋、咬筋の2軸と考え、多くの人のお顔に対して適切な部位にEMSを作用させるために、まずは試作品での検証を多く重ねました。鼻に当てる形状を採用したのは、ユーザーがマスクの装着のとき位置決めしやすくなるからです。さらに、マスクを物理的にしっかり固定しやすいように2つのバンドで装着できる仕様にしました」

  • 鼻の部分が中心になるように設計したのは、「ユーザーが装着位置を決めやすいようにするため」とのことだ

ちなみに、マスクの素材には硬度が異なる2種類のシリコーンゴムが採用されている。その理由は「特に重要なのは顎部分にあるバンドです。顎から頭頂部に伸ばすためには、そのぶん伸長しなければならず、適切なシリコーンゴムの硬度を選択する必要があります。柔らかすぎるとすぐに断裂し、固すぎると頭頂部まで届きません」と吉田氏。「材料の硬度の選択を試行錯誤して、物理的に肌を引き上げつつ、本体と肌を密着させるための構造を検討するのにとても苦労しました」と明かす。

  • 垂直方向と水平方向に設けられた固定用のバンドは、伸縮性と密着性、耐久性を鑑み、硬度が異なる2種類のシリコーンゴムが採用されているという

マスクの厚みも重要な要素の1つだ。というのも、「マスクが厚すぎると、当然マスクの重量が重くなり、顔へのフィット感も損なわれてしまう」からだ。マスクを伸ばして装着する構造上、より薄くすれば断裂などのリスクも大きくなるため、両者のバランスを保つのに試作が繰り返されたと言い、「電極位置の細かい検証とシリコーンマスクのフィット感については、モニター評価を含めて満足できるまで何度も試作するといったトライ&エラーでした」と吉田氏。

過去に多くのEMS製品を開発し、周波数や出力に対して安全性の知見を保有してきた同社だが、EMSの体感と効果の検証も繰り返し行われたとのこと。「最終的に咬筋を休ませるためのリリースEMSとして20~100Hzの周波数を、大小頬骨筋を鍛えるためのトレーニングEMSとして2.5~17Hzの周波数が採用されました。これまでに培った安全性を担保できる条件から、いかに満足度の高い結果を出せるかの検証を重ねていき現在の製品仕様にたどり着きました。製品開発期間としては約2年かかりましたが、自社でも肌状態を評価できる分析機器を備えているので、細かくかつスピーディーに効果検証と安全性評価を行うことができたと思います」と振り返る。

本製品は、美容家電にありがちなピンク系や白、ゴールド系ではなく、ブラックを採用しているのもユニークだ。「引き締まり感や顔への装着した時のインパクトの強さから黒を選択しました」というのが理由だという。

ヒットに続け! より難しい目元ケアに挑戦

「メディリフト」のヒットを受け、発売後に第二弾商品として開発されたのが、今年9月に発売した「メディリフト アイ」だ。メディリフトと異なり、目元の筋肉ケアに特化したアイテムだが、開発は前者以上に難しかったとのことだ。「目元は皮膚が薄く、非常にデリケートな部分のため、EMSの出力や電極の位置の決定もさらに慎重にしなければなりません。高い効果の実感を出したい反面、安全性のバランスを取るのが非常に難しい製品でした」と振り返る。

  • 第二弾商品として、目元専用に発売された「メディリフト アイ」

「メディリフト」にしても「メディリフト アイ」にしても、形や大きさなど個人差が大きい顔面に装着する商品というだけでも、開発のハードルの高さは容易に想像がつく。また、肌に直接触れる美容機器という面でも安全性など一般的な家電より高い水準が求められる。それにも関わらず、当初の開発コンセプトである"ウェアラブル"性能と、高い美容効果の両立ができた理由を、吉田氏は最後に次のように語った。

  • 基本構造や仕組みは「メディリフト」を応用しながらも、より皮膚が薄くデリケートな目元向けにより綿密な設計が必要だったとのこと

「他社メーカーからも似たような製品が多数販売されていますが、装着できても行動が制限されてしまったり、筋肉の部位にかかわらず、ただ闇雲に鍛えるだけだったりする製品も見受けられます。一方、美容機器メーカーとして40年以上の実績を持つ弊社では、それだけの美容機器技術と知見を保有し、それらを活用することでスピーディーな開発が実現しました。また、新規性のある美容機能に対しても、効果効能と安全性を自社でしっかりと評価できる体制が整っているからこそ、実用化できた商品だと思っています」