バルミューダが10月17日に発売した「BALMUDA The Lantern(バルミューダ ザ・ランタン)」。これまでもデザイン性に優れた家電製品を次々と世に送り出してきた同社が新たに手掛けた製品は、"一見ありそうだが新しい"プロダクトと感じるものだ。
"シンプルでありながらも個性を追求する"同社だが、今回の新製品にはそれがどのような形で昇華されているのだろうか。気になる秘話を、企画・開発の中心人物である2人の担当者に訊ねた。
アルコールランプを彷彿とさせる、クラシックな佇まいの同製品は、ロウソクのように揺らめく炎をLED照明によって再現したLEDランタンだ。台座にあるつまみを回すと、中のLEDが赤系から白色にゆっくり混ざり合うように色味と明るさが変わり、テイストの異なる明かりを楽しめる。その様子は、まるで昇って沈む太陽が放つ光のようで、自然な安らぎを与えてくれる。
単に調光・調色が行えるLEDライトというのは、今時珍しくはない機能だが、色温度と明るさがリアルな炎のように同時に変化していくというのが、本製品の特異なポイントでもある。
本プロジェクトのリーダーを務めた商品設計部の佐名木啓介氏によると、LEDは本製品のために開発されたオリジナル。「今回、暖色LEDと温白色LEDの2種類のLEDを採用しました。暖色LEDは本製品用に色温度をカスタマイズした太陽光LEDを搭載。昨年発売したデスクライト「BALMUDA The Light」に続き、太陽光LEDを採用し、バルミューダ独自の色を実現しました」と打ち明ける。
人間味のあるデザインを目指し、何度もつくりなおす
バルミューダとしては第2弾となる照明製品として発売された新製品だが、開発のきっかけになったのは、今回も寺尾社長の強い思いが表現されている。スキー場のロッジで過ごした時の温かみあるあかりが気に入り、室内・屋外を問わず、食事シーンを中心に"くつろぎ"の時間を演出する照明を作ろうと開発が進められた。
最終形である現在の形状は、クラシカルなランタンの要素がありながらも、ひょうたんのような丸みを帯びた姿。しかし、同社クリエイティブ部でデザイナーを務める比嘉一真氏によると、初期の段階ではおよそ異なる形状だったという。
「まずは全体的な姿・形から検討したのですが、初期段階では四角い形状でした。しかし、実際に四角い形状を試作してみると、なんとなく食卓には合わなかったんですね。そこで、少し"緩み"があって、人間味が出るフォルムの検討を重ねた結果、上にフードがあって全体的に丸みを帯びた現在の姿に落ち着きました。人が集まって食卓なりを"囲む"という空間において、その中心にあるのは面のある四角よりも丸いほうが親和性があるのかもしれませんね」
屋内外の場所を問わず、幅広い用途で照明器具として使えることを考えた時、電源は必然的にバッテリー式が採用されたという。また、アウトドアでの利用も想定し、"IP54"という生活防水レベルの防滴仕様にも対応している。「はじめはテーブルウェアとしての明かりをメインに考えていましたが、アウトドアや、屋内でも寝室や私たちの製品を使っていただいているキッチンなどいろいろな場所で使えるような仕様にしました」と比嘉氏。
LEDでどうやって"炎のゆらめき"を表現したのか
「いろいろな場所やシーンに合わせられるように」と、演色や光らせ方にも特にこだわって開発されている。本製品は、光源(LED基板)が上部のみにあり、上から下へと照らす仕組みとなっている。上から照らされた光が真ん中の"ライトパイプ"と呼ばれる管を導光する。ライトパイプは内側の乳白のパイプと外側のアクリルの二重構造で、導光率の違いによって拡散する効果と、透過して底面から反射する効果が合わさる。それにより、柔らかい光と、下からも照らされているような光り方を演出する。
また、"炎のゆらめき"の再現は、ソフトウェアによる制御で実現している。その開発の過程も「試行錯誤の繰り返しだった」と、佐名木氏は次のように明かした。
「"ソフトウェアでLEDをどこまで制御できるのか"ということと、"速度と強弱のバランスでどういうふうに感じるのか"を徹底的に調べました。バランスが悪いと焦れったかったり、故障のように感じることもあったので、これを回避する必要がありました。次に、炎の動き方を観察してみると、大きなゆらめきと細かいちらつきとが三次元的に動いているということがわかりました。そういった炎の揺らぎの要素を抽出して、それを1つ1つソフトにより制御して動きの複雑さを再現していきました。実は、明かりの強弱とは別に、あえてちらつくような制御も追加しているんですよ」
バルミューダの製品と言えば、わざわざスタジオ録りまでしたギターやピアノの生音を操作音に忍ばせるなど、遊び心溢れる"ギミック"が用意されているのも消費者を魅了してきた要素。だが、今回の製品にはそういったギミックが採用されていない。比嘉氏はその理由を次のように語った。
「実は最初の段階では音も検討されていたんです。クリストファー・ノーラン監督のSF映画『インターステラー』の劇中のワンシーンにインスパイアされて、"深い落ち着き"を表現する音として、"コオロギ"の鳴き声が流れるようにしてみようと。実際、会社の近くにある公園まで行って録音したり、コオロギを20匹買ってきて鳴き声を録音したりとかいろいろやってみたんですよ(笑)。でも、それがあまりにリアル過ぎて、ランタンの中に虫がいるんじゃないか? と思ってしまって虫の声は止めました。他にも、雨とか雷の音とかBGM系の音もいろいろ試してみたのですが、音を入れるとシーンを限定してしまうという判断で、最終的には音の仕掛けは今回は見送ることになりました」
"バルミューダらしさ"へのこだわり
こうして生まれた「BALMUDA The Lantern」だが、今回もやはり外観上は一見シンプルでありながらも、さりげなく個性をまとった、バルミューダらしい製品に仕上がっている。まさに、"バルミューダらしさ"の真髄とも言える部分だが、今回の製品ではそれが具体的にブランド意匠としてどういった要素として反映されているのだろうか。
「シンプルで美しいものという、バルミューダのデザイン意匠は今回もかわらず。それでいて、ランタンというアナログなアイテムをバルミューダ流に現代にアレンジするためには、なつかしい感じも大事にしながら、新しすぎない、クラシックとモダンの中間のイメージを目指しました。素材は金属と樹脂が混在していますが、お互いが浮かないように色味を調整してしっかり合わせています」(比嘉氏)
「アウトドアギアとしての用途も考えると、軽量化は必須の事項なのですが、ある程度重さがないと不安定にもなってしまいます。そのあたりのバランスや、素材は軽くてもチープにならないように重厚感、高級感も大事にして、細部に至るまでこだわって仕上げています」(佐名木氏)
安全性の理由から、ライトパイプの外郭のシェード部分は、ポリカーボネート素材が使用されている。この部分の成型は「ひと際こだわりがある部分」とのこと。「シェード部分は、手作り感を出すために成型をあえて無骨な感じが残るところで留めています。もっと美しく仕上げることはできるのですが、量産品でありながらも職人さんによる手仕事のような"手作り"感を出すために、あえて途中で留めているんです」と比嘉氏。
開発過程は、内部の光源の部分と外観的な部分を並行して進められたとのこと。消費者からすれば、オーブンレンジや空気清浄機などに比べると、テーブルランプという比較的小さく、価格もリーズナブルで手にしやすい製品という印象だが、小さなものにたくさんの要素を詰め込み、デザイン性と機能性や使いやすさを両立させるのは、想像以上に簡単なことではなかったという。最後に、担当者の2人は次のように振り返った。
「明かりがついていない時にでも絵になるようなインテリアとしてのデザイン性も大切にしていたのですが、バッテリー1つとってもボトムの高さが変わって、全体のプロポーションが変わってしまたり、本当に試作を重ねて試行錯誤の連続でした」(比嘉氏)
「光源の方向性がようやく固まって、試作して実際に光らせてみると、新しい問題・課題が発生してしまう。また、光り方だけではなく、ハンドルやツマミのトルク感や全体のプロポーションなど意識する部分が多く、試作のたびに確認し、都度チューニングしながら作り上げました。お客様に届けたいのは、まさに製品コンセプトでもある"良い時間を"。『このランタンを通じて過ごしていただくその時間のために、自分たちはこの製品を作っているんだ』ということを、常に意識しながら細部にもこだわって作り上げましたので、ぜひそれを感じていただければと思います」(佐名木氏)