韓国の家電メーカー・LGエレクトロニクスが2018年10月に日本市場でも発売した「LG SIGNATURE DUALWash」(以下、DUALWash)。洗濯容量11キロのメインのドラム式洗濯乾燥機の下に、2キロのミニ洗濯機を備えるという、これまでになかった発想の画期的な一台だ。製品のコンセプトから、設計・構造から意匠を含むプロダクトデザインに込められた思いを、LGエレクトロニクス・ジャパン マーケティングチームの芦野純子氏に伺った。
本製品の韓国での発売は2016年3月。"LG SIGNATURE"として、LGのハイエンド製品のみをラインナップした"プレミアムシリーズ"的な位置づけで展開している製品のひとつだ。斬新さが受け入れられ、洗濯機としては高価格帯の製品でありながらも、本国内では当初予想していた2倍以上の売上を記録。現在は、日本以外にも世界20カ国で販売されている。
技術は本来、より便利な生活のためのもの
"LG SIGNATURE"は、LGのブランド力を高める役割を担ったシリーズでもあり、DUALWashは洗濯機では初のモデル。"本来、家電があるべきその本質とその価値を極限まで追求し、不要な要素はそぎ落とし、家電に本当に必要な性能と使いやすさ、デザイン美を最先端の技術をもって形にした、LGのプレミアムブランド"というのがシリーズ共通のコンセプト。それはデザイン上ではどのように表現されているのだろうか。
「象徴的な点は、まず操作ボタンです。本製品は、物理的なボタンは電源ボタンのみ。電源以外の操作はすべて"サークルディスプレイ"と呼ぶ丸いタッチパネルで行い、スマートフォンのように直感的なユーザーインタフェースを採用しています。従来の家電は、物理ボタンや説明表示が、製品の天面や側面にたくさんついているものが多くありましたが、新しい機能を追加すると、ボタンも追加する必要があります。しかしその結果、お客様は機能をひと目で確認することが難しくなり、どのボタンを押したらよいのかわからず、逆に使いづらい、ということもあったからです」(芦野氏)
「機能が増えることで、デザイン面にも制限が生じていました」とも話す、芦野氏。だが、最先端技術というのは、そもそも使いにくい家電を作るためのものではなく、より生活を便利にするためのものであり、「だからこそ、最先端の技術と、デザイン性を両立させることに注力しました」と語るように、DUALWashではあり方の原点が大切にされた。
そこで技術面において採用されたのは、"Centum System"と呼ぶ最先端の低振動・低騒音設計。DD(ダイレクトドライブ)モーター、振動感知センサー、バランサー、サスペンションなどによる独自機構により、高い洗浄力と低騒音を両立させた技術だ。そして、その独自の設計技術の1つである"サスペンションシステム"は別のメリットももたらした。
というのも、従来のドラム型洗濯機は、機内でドラムを支える際に、上からダンパーでドラムを吊り下げながら、下からもサスペンションで支えるという仕組みだ。それをDUALWashでは、上吊りをなくして下から支える3つのサスペンションと2つのダンパーのみで構成する構造とした。上からのダンパーがないことから、メインの洗濯機の内部のスペースを広く確保することができたという。そしてその結果、「外観だけでなく、見えない内部でも不要な要素をそぎ落とすことで、シンプルなデザイン性と、洗濯容量を増やす事に成功しました」と芦野氏。使用するマテリアルにもこだわり、外観にはエナメルコーティングを施すことにより、傷や腐食、汚れに強い耐久性を実現し、手入れもしやすい設計が生まれた。
サークルディスプレイを中心とした機能美
本製品は、国際的なデザイン賞である、『レッドドットデザインアワード」や、 『iFデザインアワード』、『IDEA』なども受賞しているが、中でも見た目の"美しさ"へのこだわりがふんだんに込められた部分は、前述のタッチ式のサークルディスプレイだ。例えば、表面の継ぎ目をなくし、美しいシームレスなデザインにこだわった結果、タッチパネルに直接触れる構造ではなく、メインドアのガラス面の中に埋め込んだ構造を採用した。
しかし、これを実現するために新たな課題にも直面したという。というのも、「ガラスの内側にタッチパネルを装着すると、指の接着部とタッチパネルの間にガラスを隔てることになるので、より正確に感知させることが難しくなった」からだ。これをクリアにするために、試行錯誤を繰り返したという。
さらに、サークルディスプレイのデザイン面でもっともこだわったのは"円形"という形状。しかし、円形のタッチ式ディスプレイというのは、タッチパネルの感知の正確性を維持するのが難しい。そこで、タッチパネル関連のノウハウを多く持つグループの総力をあげた。「LGエレクトロニクスだけでなく、LGグループ全体のリソースを結集して生産率を上げ、販売に至りました」と明かす。
本製品のデザインでは、使う人の動作を考えた"エルゴノミックデザイン"も強く意識されている。具体的にはどのような点に表れているのだろうか。芦野氏は次のように説明した。
「例えば、メイン洗濯機のドラムは、洗濯物の出し入れがしやすく、腰への負担が軽い角度に設置し、力を入れなくても優しく開くプッシュオープン式のドアを採用しています。サークルディスプレイ部は、人が立って操作をする際にタッチがしやすい角度である17°の傾斜角をつけ、使いやすさを追求しています」
大小2つの洗濯槽を持つことで、洗濯物を同時に洗い分けるなど、ライフスタイルに合わせた多様な洗濯方法を叶えるLGのDUALWash。斬新なアイディアと先鋭的なデザインは、"使いやすさ"を追求した先にたどり着いたまさに"機能美"が結実した製品と言えるだろう。