デザイン性の高い製品を多数手がけることで知られる家電ブランド"cado(カドー)"が2015年10月に発売した加湿器「HM-C610S」。煙突のような2本の円筒で構成された独特なデザインで、店頭でもひと際目立つ商品だ。日本発の家電ベンチャーとして、既成の概念に捉われない製品を送り出し続けているブランドの本製品に込めた思いや秘話を、デザインを担当した副社長 兼 クリエイティブディレクター 鈴木 健氏に伺った。
潤いを可視化する
本製品を語る上で外すことのできないデザインの哲学は"可視化"だ。加湿器という効果が見えにくい空調家電の効果をなんとかしてわかりやすく伝えたいとの思いが製品のデザインに込められているという。
「まず最初に"すべてを視覚化したい"という思いがありました。加湿器というのは空間を潤すことを目的とした家電ですが、その効果を目に見える形で表現できないかと考えました」と鈴木氏。
そこで、加湿器による"潤い"を見えるかたちで表すために選ばれた加湿方式が"超音波式"だ。加湿器の方式にはこれ以外にも大きく分けて"気化式"と"スチーム式"があるが、潤いを目で見て感じることができるのがスチームやミストだ。そして最終的には湯気が熱くならないという安全性とランニングコストの安さから超音波式が採用されたのだという。
潤いを可視化した次のポイントが水タンクだ。加湿に不可欠な水を入れるための容器だが、透明な筒状のパーツを採用している。鈴木氏によると、タンクを透明にした第一の理由はもちろん水の量が瞬時にわかるという機能面でのメリット。しかし、それだけでなく「水が見えるということも"潤い"を見せるための演出になっています」と説明する。
タンクの下にはLEDライトも備えている。本製品ではこの部分の色の変化で部屋の"潤い"の状態を把握できる。一般的な加湿器では湿度を数字やアイコンの数で示すことが多いが、本製品ではLEDのカラーでそれを表現するという異例のスタイルだ。
「LEDの色はイエローは乾燥を表し、カラカラのサハラ砂漠のイメージです。グリーンはやや乾燥を表し、草原のイメージに由来しています。ブルーは青々とした海からのイメージで充分な湿度であることを示します。水が空になった状態はアラートの意味を持たせるため、赤で表現しました。この部分の仕様も、一目見て部屋の状況がわかるものにしたいという思いからの発想です」
「手間のかかる家電」だからこそ、質感にこだわる
本製品の水タンクには他にも一風変わったギミックが施されている。水タンクのフタの部分が、桐箪笥、茶筒を開ける時のような手の動きでスライドして開閉するしくみになっているのだ。こうした方式を取り入れられた理由にも実はブランドならではの思いが込められている。
「どのメーカーの製品でも共通して言えることなのですが、加湿器というのは実は非常に手がかかる家電なんです。水がなくなれば注ぎ足さなければならないですし、数週間に一度は中を洗って手入れしなければなりません。つまり、手に触れる機会をなくすことができない家電なんです。だからこそその触れる場所の動きや触れた質感にこだわりました」
加湿器のタンクのフタやキャップというのは、通常は取り外すことが多い。しかし「据え付けにすることで開閉もスムーズになり、スッと小気味よい動きになんとなく愛着が湧いてくるもの。毎朝、鉢植えに水をやるような感覚でタンクに水を足してもらえたらという思いです」と鈴木氏。
カドーの加湿器は、ミストの吹き出し口が煙突のように高い位置にあるのも特徴的だ。これは高い位置からミストを吹き出すことにより空気の対流に乗せて効率よく拡散させるという狙いもあるが、これもまたユーザーに潤いを実感してもらうために考え出された構造だという。鈴木氏は「人が生活する上で基本となる姿勢が"立つ"と"座る"の2つです。この日常的な基本動作においてミストによる潤いを感じるのにはこの高さが理想的なんです」と話す。
このように、カドーの加湿器のデザインに徹底して貫かれているのは、加湿器がもたらす"潤い"の実感。そしてそれと同時にもちろん設置された空間における調和も大事にされている。鈴木氏は次のように説明する。
「加湿器に真に求められる状況はどういうことか?を考えた時、生活シーンに最適な位置で加湿させなければならないということであの高さが生まれました。本体の土台部分は実はわずかA4用紙1枚程度の設置面積なんですが、背が高いぶん圧迫感が出てしまいます。そこで2つの円筒部分にすき間や透明パーツを採用することで抜け感のある軽やかな印象にしました。水タンクをスケルトンにしたのは単に可視化だけが理由ではないのです。周囲の家具やインテリアと調和させやすいデザインでもあります」
カドーの加湿器は独特な形状でありながらも全体的にはシンプルなデザインでもある。これは操作部にも言えることで、パネルにはボタンが4つしかない。鈴木氏によると、これはカドーの製品全般に共通した"アイデンティティー"だそうだ。
「操作性をシンプルにするというもカドーのプロダクト全般に言える共通項。これに加えて、パネル部分を極力フラットにすることでお手入れのストレスをなくしたいとも考えました。他にもお手入れしやすいように、内部構造の部分もすべて外せる仕様にしています。水タンクのフタ同様に、めんどうに感じそうな部分をそう思わせないための工夫なんです」
本製品が3代目のモデルにあたるカドーの加湿器。デザイン性の高さを追求しながらも、加湿器そのものとしての機能や性能、手入れのしやすさを両立させることを目指す上で最も苦労したのは、従来機種からの基本デザインを変えることなく機能美を高めていったことだという。
「初期のモデルでは、上から水を注いで給水することができなかったんです。これを給水が非常に負担であるという声を受けて上から注げる仕様にするなど細やかな改良をモデルごとに続けています。さらに今回は、加湿器としての真の能力と衛生面を追求し、超音波を発生させる素子には業務用を改良したものが採用されています。カドーでは、1つの製品を作ったら終わりというのではなく、真にお客様の使い勝手のよい製品を目指し、より良くなる工夫を常に惜しまずに考えています。カドーではこれを"深化"と表現しているんです」と鈴木氏。
最近は"見せ家電"、"魅せ家電"という言葉があるほどに、機能や性能だけでなく、持っているだけで悦びを感じる"所有欲"をも満たすことが家電製品にも求められている。カドーの加湿器はまさに機能が"美"として昇華されたかのような製品。次モデルでの"深化"にも目が離せない。