イタリアの家電メーカー「デロンギ」から今年6月に世界に先駆け日本先行で発売された空気清浄機能付きファン HFX85W14C。涼風・温風兼用のファンで、PM2.5を99%除去する性能を持つ空気清浄用のフィルターも備えた、同社としては初めてとなるマルチ空調製品だ。
海外の家電メーカーらしいスタイリッシュなデザインも目を引く新商品の発売の経緯からデザインへのこだわり、開発にあたっての裏話やエピソードなどを、デロンギ・ジャパンのプロダクトマネージャー・西岡祐子氏に伺った。
デロンギが追求した”快適な風”
デロンギの空調機器と言えば、マルチダイナミックヒーターやオイルヒーターが人気商品だが、複数の機能を搭載した製品は実は今回が初めてだという。
「マルチダイナミックヒーターやオイルヒーターは冬の自宅環境を快適にする商品として好評を博してきました。そこで、デロンギが快適さを365日=1年を通じて提供できる商品を作りたいということで今回の製品につながりました。また、空調ということで言うと、大気汚染や花粉症など、空気への関心が世界的に高まっている上、グローバルでもオールインワンというトレンドがあるため、空気をキレイにした上で心地よさを届けられるようにと空気清浄機能も一体化させることにしました」と、新製品発売の経緯を語る西岡氏。
デロンギの従来の製品は、風が出ない輻射熱で心地よさを実現している。しかし、今回の新製品はそれらとは異なり、風を起こすことで快適さを届けるという、製品の開発思想そのものが正反対とも言える。その理由は、空気清浄機能を出発点にしていることにあるようだ。
「新製品は空気清浄機能を搭載するため、風を起こすということが必然的になります。ただ、従来の風ではなく、デロンギとして"快適さを追求した風"を試行錯誤した結果、形状はタワー型になりました」
同製品は、一般的なタワーファンのような直線的な風ではなく、"3Dコンフォート・エア テクノロジー"と呼ばれる独自技術により実現した、全身を包み込むような穏やかな風が特長。風を真正面から直接的に浴びるというよりも、回り込むように周りから感じられるという、これまでの扇風機にはなかった体感だ。
その仕組みは"コアンダ効果"と呼ばれる、流体力学を応用したもので、水や空気などの"流体"は物の表面にくっつき、曲面に沿って流れる性質を利用している。吸い込んだ風を前方に直接放出するのではなく、一度背面に誘導した後、その背面パネルにぶつかる。その後、風が後方の左右に2カ所あるスリットから前方に送り出される。そして放出された風が再び前方中央部でぶつかり、広範囲に送風されるという仕組みだ。2度ぶつけることで、風が持つうねりやムラが極力軽減されるので、結果的に風あたりがなめらかになり、従来の体に直接当たる風よりも温度ムラが抑えられ、風によるストレスが大幅に緩和されるという理屈だ。
西岡氏によると、同製品の流線形の美しいデザインはまさに"機能美"と呼べる部分。原型は機能のために生み出されたものだが、設置した際に圧迫感を感じないよう、外観上のデザインでもよりブラッシュアップが図られている。
「本体正面に設けられたシルバーのラインは、鏡面加工にすることによって製品の縦のラインを強調し、より洗練されたイメージに仕上げています。ディスプレー部も兼ね備えているため、操作をした時だけ表示を浮かび上がらせて見た目をスッキリさせるというデザイン上の意味も兼ねています」
空気清浄用のフィルターが格納された本体上面にはパンチングの穴が施されている。もちろん、空気清浄機の吸引口でもあるが、「ベストな吸気量を確保しつつも、配置に関しては境目のところがランダムになっています。これはデザイン上のもので、本体の上と下をはっきりと分けたくないという意図があります」と説明する。
機構・設計上で最も試行錯誤をした部分はやはり形状だったとのこと。「製品で一番こだわらなければならないのは"風の質"です。ちょっとでも一部の傾斜だったりが変わったりすると、気流が変わって風の質が変わってしまうんです。デザインと機能の両方を収めるというのは本当に至難の業でした」と話す。
本体は、一枚板のボディ一体成型で作られている。最大限に快適な風を作り出すためには、譲れない要素でもあった。「一枚板を使用した繋ぎ目のない大きな成型は通常の機械だと作れないため、この製品のためだけに新しい成型のマシンを導入したほどなんです」と振り返る。
同製品の操作は、本体では電源のオン・オフのみとシンプルに。風量や首振り設定などはすべてリモコンで行う。操作をリモコンに集約した理由も快適さにこだわったためだという。
「風量や温度を最も快適な状態で使って欲しいという思いから、実際に使う場所から調整してほしいという理由で操作はリモコンに限定しました。首振り機能の範囲が左右に25°までというのも、"包み込む風"の価値を最大限享受いただくため弊社が設定した最大解なのです」
もちろんデザイン的な意味合いも兼ねており、「操作部ボタンを極力なくすことで、スッキリとしたデザインにすることで長く使っても飽きない商品にしたかったのです」と明かす。
本体の寸法は、直径270ミリ×高さ850ミリ。部屋に設置した際の印象は数字以上にスリムでコンパクトに感じる。「送風口が縦方向な上、ユーザーが立った状態でも座った状態でも包み込むような風を送るという目的があるため、座った時の頭からつま先までとなると、自ずとサイズはだいたい決まります。ただ、全体のバランス感はとても大切なので意識しています。数字以上にコンパクトに感じられるのは足元の設置面積が小さいためだと思います。発売前にモニター100人に調査したところ、置く場所が限られないサイズ感がとても好評でした」
同製品のカラーバリエーションはグレーの1色のみ。西岡氏によると、まずは第一弾として1色にしぼりこんだ際に、あらゆる雰囲気の部屋に映える色であり、なじみやすいという色ということで選ばれた色だそう。「中間色であるグレーはどんなインテリアにも合わせやすい色です。北欧テイストのデザイントレンドもあるので、ナチュラルにもシックな雰囲気にも合わせやすい色を選びましたが、カラーバリエーションも検討中です」と西岡氏。
部屋を均一に暖めることで快適にするヒーターですでに世界的なシェアを誇る実績を持つデロンギが、"人とその周りを包み込むように快適にする"という新たなコンセプトで挑んだ今回の新商品。日本ではスタイリッシュなデザイン性が注目を集めることの多いブランドだが、高度なテクノロジーとデザイン性を見事に融合させた商品の市場投入で、同社の製品に対するイメージが新たになったという人も多いのではないだろうか。