スウェーデンの家電メーカー・エレクトロラックスからこのほど発売された、ロボット掃除機「PUREi9」。同社としては2001年に発売された「トリロバイト」以来のロボット掃除機の発売となる。

  • 3月2日発売のエレクトロラックスの「PUREi9」。2001年に商用ロボット掃除機として初めて発売された「トリロバイト」以来の製品

    3月2日発売のエレクトロラックスの「PUREi9」。2001年に商用ロボット掃除機として初めて発売された「トリロバイト」以来の製品

新製品のコンセプトをはじめ、開発の経緯とプロセス、デザインについてのこだわりについて、日本法人であるエレクトラックス・ジャパンで、アシスタント・プロダクトライン・マネジャーを務める、小林麻梨亜氏にお答えいただいた。

同社から17年ぶりに発売されることになったロボット掃除機だが、新製品の開発にあたっては、現状のロボット掃除機が抱える問題点を克服した製品を出すという目標が掲げられた。同社では、掃除機としての基本性能が高いうえに、家具を移動させるなどロボット掃除機を動かす前に準備をする必要がないように、障害物を的確に認識し、最初から最後まで任せられる製品が目指されたという。

  • 野球のホームベースのような形状が特徴の本体。

    野球のホームベースのような形状が特徴の本体。高さ8.5センチ、奥行28センチと、ロボット掃除機市場の中でもコンパクトかつスリムさが際立つ。マットなメタリックボディーで、先進性を想起させながらも上品で洗練されたデザインが特長だ

そこで採用されたのが、"3D Visionテクノロジー"という、ロボット掃除機の性能を左右する自立走行のための技術。他社の高価格帯のロボット掃除機にも採用されている"SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)"と呼ばれる技術のひとつで、周りの環境と自分の位置を認識して地図を作成しながら自走するための仕組み。もとは自動車などの自動運転技術として開発されたものだ。

しかし、同じSLAMでも、PUREi9の場合は、前面の両サイドに備えられた発光部からのレーザーを、その間にあるカメラによって捉えることで、環境認識をするのが独自な点。カメラで認識した障害物をソフトウェアで分析し、行動パターンを決定する総合的なシステムでもあり、部屋のレイアウトと障害物を同時に認識できているのが特長だ。主に赤外線センサーと天井部にあるカメラで別々のものを検知して判断する他社の仕組みとは異なり、わかりやすく言うと、「人間が目で見ているように部屋の状況が見えている」というものだという。

  • 本体前方には両サイドにレーザーの発光部を備え、それを受信するカメラが真ん中にある。

    本体前方には両サイドにレーザーの発光部を備え、それを受信するカメラが真ん中にある。センサーとカメラが同じ方向にあるため、人間の目と同じように物体を捉えられる

だが、これらのセンサーと、各々3つのサーキットボードと個別のプロセッサー、さらには掃除部分のすべてのシステムを、幅32.5センチ×奥行28センチ×高さ8.5センチというコンパクトな筺体の中に、性能や自立性に妥協することなく搭載するというのは至難の業だったと小林氏は次のように説明する。

「スウェーデン本社の開発チームの話では、ミリ単位で障害物や敷居などの小さな段差、落ちてはいけない大きな段差などを確実に検知できるレベルの3Dビジョンセンサーを自社開発しなければならなかったそうです。3Dビジョンセンサーの開発には、もちろん光学センサーと、レーザーの安全認証、工場での最終試験、画像処理・分析といったイメージプロセス部分も含まれます。そして、実環境での長年のテストの間に発見された、イレギュラーな環境でも問題なく対処できるお掃除パターンとナビゲーションを検討しなければならず、とても苦労したとのことです」

  • 「3Dビジョンセンサー」により捉えた障害物を解析するイメージ画像

    「3Dビジョンセンサー」により捉えた障害物を解析するイメージ画像

他のロボット掃除機に比べてPUREi9が特殊な点としては、形状も挙げられる。17年前に発売したトリロバイトをはじめ、現在も市場において主流になっている円形は採用されなかった。三角形がベースではあるものの、3つの角を断ち落とした野球のホームベースのような形だ。この形状が採用された理由について、「丸型のような内転機構で方向転換に長けながらも、丸型よりコンパクトでしっかり角までリーチできるようにするため、研究を重ねた結果、現在の特殊な形に至りました」と小林氏。

  • 2001年に発売された「トリロバイト」(写真右)と比較すると、サイズも形状も何もかも変わっているが、デザインの印象にはどこか似通ったものも感じられる

    2001年に発売された「トリロバイト」(写真右)と比較すると、サイズも形状も何もかも変わっているが、デザインの印象にはどこか似通ったものも感じられる

PUREi9は、本体の操作部も洗練された印象を持つ。三角形の一辺に細長い帯状のタッチパネル液晶が採用され、操作時にのみバックライトが点灯してボタン類が表示される仕組みだ。小林氏によると、操作部のUIは特にこだわった部分で、「UIは直感的に分かりやすく、シームレスで操作しやすい洗練されたタッチパネルが採用されています」と話す。

  • コーナー部分にもアプローチしやすいよう緻密に計算された、PUREi9の形状。吸引口が本体前方のギリギリの位置にあり、サイドブラシの位置も吸引口に極力近づけられており、集めたゴミを取りこぼしにくい

    コーナー部分にもアプローチしやすいよう緻密に計算された、PUREi9の形状。吸引口が本体前方のギリギリの位置にあり、サイドブラシの位置も吸引口に極力近づけられており、集めたゴミを取りこぼしにくい

  • 本体操作部のUIもこだわられた部分。タッチパネルを部分的に採用し、シームレスで操作しやすい上に操作時以外はボタンが消灯するなどデザイン性も損ねない

    本体操作部のUIもこだわられた部分。タッチパネルを部分的に採用し、シームレスで操作しやすい上に操作時以外はボタンが消灯するなどデザイン性も損ねない

PUREi9は、排気口のデザインもユニークだ。本体後方の左右2ヶ所に丸いパンチ穴が複数設けられたデザインで、一見するとオーディオスピーカーを彷彿させる。このデザインにはどのような意図があるのだろうか。

「排気口部分のデザインは、消費者テストでの結果をもとに研究・開発したものです。小さな排気口は、ゴミが排出されずに中に留まる高いフィルター性能を象徴しています。実際に排気されている部分はダイナミックなパターンですが、デザイン上はシームレスにフェードアウトすることで掃除機と調和させています。この手法はエレクトロラックスの掃除機製品群に共通した、デザイン上のキーエレメントとなっています」

  • オーディオスピーカーの穴のような洗練されたデザインが採用された排気口

    オーディオスピーカーの穴のような洗練されたデザインが採用された排気口

PUREi9のホームベースのような形状は、機能的な意図だけでなく、先進的でユニーク、かつオリジナルなロボット掃除機であることを示しシンボリックな意味もあるとのことだ。

「PUREi9は"ウェルビーイング(暮らしをより豊かに)"というビジョンに沿った新しいデザインパターンを採用しています。このデザインは、デザインのトレンドと、ご家庭のインテリアにもっとも自然になじむようなものをというさまざまな発想から生まれたものです。全体的には、"フィット"と"フィール"に最も重点を置き、それを実現する頑丈さ・しなやかさと同時に、精密な形状を目指しました。そして、前面の3DVisionのカメラやレーザーのウィンドウ部分が目立つように、またPUREi9の主要コンポーネントの最先端の賢さにスポットライトが当たるようにデザインされています」と小林氏。

  • 停止中の充電台も薄型で目立ちすぎないデザインで周りのインテリアと調和力が高い

    停止中の充電台も薄型で目立ちすぎないデザインで周りのインテリアと調和力が高い

さらに、マットでメタリックなカラーを採用した理由は、「最高にプレミアムな製品にするため、高級感を与える仕上げにしました。この重厚感により、本体のコンパクトさをさらに強調する狙いもあります」と説明した。

17年ぶりに登場したエレクトロラックスのロボット掃除機。商用のロボット掃除機を初めて発売した先駆者としての意地をかけ、技術面においてもデザイン意匠においても独自性ある製品を投入し、市場に再参入するかたちとなるが、消費者の間にどのように受け入れられるかを楽しみにしたい。