パナソニックが2017年11月に発売した「ロティサリーグリル&スモーク」。内部に肉を回転させる機構を持ち、家庭で手軽にロティサリー料理や燻製料理などを楽しむことができるこれまでなかった調理家電で、今流行りの"インスタ映え"する家電としても話題をさらった新製品だ。

今回は、同製品の企画やデザインに携わったパナソニック2人の担当者に、開発秘話やデザイン上のこだわりについて話を伺った。

  • 2017年11月発売のパナソニック「ロティサリーグリル&スモーク」NB-RDX100

    2017年11月発売のパナソニック「ロティサリーグリル&スモーク」NB-RDX100。内部で肉を回転させながらあぶり焼きができる"ロティ"をメインとしたグリル機能をはじめ、燻製、トーストの1台4役の新ジャンルの調理家電

冒頭でも述べたとおり、これまでにない調理家電として世に送り出された同製品だが、企画段階として挙がったテーマは"新しい食の提案"だという。パナソニック アプライアンス社ビューティ・リビング事業部商品企画部の石毛伸吾氏は、その背景について次のように語った。

パナソニック アプライアンス社ビューティ・リビング事業部商品企画部の石毛伸吾氏

パナソニック アプライアンス社ビューティ・リビング事業部商品企画部の石毛伸吾氏

「女性の就業率の上昇に伴い、近年夫婦共働き世帯の家庭が増え、ライフスタイルにも変化が見られます。夫婦共働きのため平日の食事は手早く済ませる一方で、週末は時間をかけてでも調理を楽しんだり、多少お金をかけてでも美味しいものを食べたいといった家族が増えるようになりました。そういうニーズに応えられる調理家電、かつ加熱調理が強みである弊社の技術を活かした製品で何か新しい価値を提供できないだろうかと、社内で検討が始まりました」

社内におけるカジュアルな議論を経て辿り着いたのが、肉を回転させて焼き上げることができる調理家電。当初賛否両論はあったものの、「こんな商品はなかった! 」という前代未聞のインパクトが評価され、2015年末ごろから「ロティサリーグリル&スモーク」という商品の方向性でプロジェクトがキックオフしたという。

その際に掲げられた商品のデザインコンセプトは"おうちバーベキュー"。キャンプなどのアウトドアで楽しむバーベキューのイメージをそのまま製品デザインとして表現するために採り入れられたのは"五感に訴えるデザイン"だ。

パナソニック アプライアンス社デザインセンター クッキングデザイン部の小林幹氏

パナソニック アプライアンス社デザインセンター クッキングデザイン部の小林幹氏

デザインを担当したパナソニック アプライアンス社デザインセンター クッキングデザイン部の小林幹氏は次のように説明した。

「キャンプ場のバーベキューを楽しむ時のワクワクするシーンをご家庭で再現してもらえるようにデザインを考えていきました。肉を包み込むように覆い、回転させることで美味しくなることを造形で表現したかったんです。」

そしてデザイン上のもう1つの大きだなこだわりとして挙げられたのが、表面処理だ。「特別な調理器具をイメージしていただくために色は黒を基調に、手触りでも美味しさを感じていただけるよう質感にもこだわりました」と小林氏。

しかし、このこだわりが製品開発の上では大きなハードルにもなったともそれぞれ次のように打ち明ける。「中でもハンドルの部分に苦労しました。正面が湾曲しているゆえに、そのままハンドルを取り付けると、開閉の際に手が本体に当たってしまったりと安全面のハードルもありました。そのため、デザイナーも操作性や構造まで入り込んで検討しました。 」(小林氏)

  • お肉が回転するというイメージをデザインで具現化するために採用された円筒形。

    お肉が回転するというイメージをデザインで具現化するために採用された円筒形。独自の形状ゆえに、操作性や安全性と両立させたハンドルの取り付けに想像以上に苦労したという

「円筒形は、板金で形作るなど成形に関しても通常よりも高い技術が必要です。表面の塗装に関してもそれくらいの質感が出せるかを何度もチェックしました」(石毛氏)

  • 側面から見た本体。

    側面から見た本体。手前部分が円筒形になっており、一般的な立方体の製品ではない、高い成形技術が要求された

同製品は、ロティサリーをメインとしたグリルの他に燻製とオーブン、トーストの4つの機能を持つのも特徴だ。石毛氏によると、技術面で最も難しかったのはそれらを1台の調理器具として集約しなければならなかったことだという。

「この製品は、弊社のオーブントースターなどの加熱調理製品のフラッグシップ機という位置付けで、4つの調理機能を持たせています。しかし、それぞれの機能を一定の性能を維持しながら両立させるのは本当に苦労しました。というのも、何かの機能を作ったり、改良すると別の機能に影響があり、性能が変わってしまうということが起こります。本来相反する要求事項をひとつひとつ丁寧に折り合いをつけて、落としどころを決めていく作業は非常に難航しましたし、それを何度となく繰り返しながら設計を固めていきました」

  • ロティ調理の際には、肉を専用のカゴにセットし、オーブン/グリルでも使う受け皿と組み合わせて使用する。

    ロティ調理の際には、肉を専用のカゴにセットし、オーブン/グリルでも使う受け皿と組み合わせて使用する。左右に渡された軸を本体内部の歯車にはめ込むことでカゴを回転させられる

  • 専用の容器に食材を入れ、アルミホイルでフタをして庫内にセットすることで燻製調理にも対応する

    専用の容器に食材を入れ、アルミホイルでフタをして庫内にセットすることで燻製調理にも対応する

中でも難しかったのがトーストの機能。ムラなく焼くことが実はとても難しく、4つの調理機能のそれぞれパラメーターを取った上で、徐々に優先事項の最適化が図られていった。

もう1つデザイン上のこだわりは"特別感"だ。前述のとおり、週末の"ご馳走"を楽しむための機械として開発された同製品は、使用する際の動作の上でもそれを体験できるよう、扉側には覗き窓のようなサイズ感の窓がデザインされていたり、トースト用の網がわずかに前に飛び出すような仕組みがあえて採用されている。

  • トーストを焼く時は焼き網をセット。

    トーストを焼く時は焼き網をセット。網は着脱式だが、一般的なトースターのように扉を開くと網がわずかに前に飛び出す仕組みがわざわざ考えられた

同製品の操作部分は、右側にワンタッチのボタンをまとめ、左側にはダイヤル式の操作インタフェースを配備しているのも特徴的だ。この仕様も実は"ユーザー体験"を意識したものだと明かす。

「右側は全部オートメニュー用のボタンですが、左側のダイヤルは手動用です。オートで調理したい時にはワンタッチで簡単にできますが、手動で手作りする場合には、自分で操作するという"体験"を楽しんでもらえるようにあえて2通りの方法を採用しました。しかし、階層を深くすると操作方法がわかりにくくなってしまうので、プラグをコンセントにつないだ時に、それぞれの操作方法がLEDで交互に点灯して全機能がわかるように秘かな仕掛けをしています」(石毛氏)

  • 調理時間の表示画面を境目に、左側のダイヤルが手動メニュー、右側のボタンがオートメニュー用に分かれている。

    調理時間の表示画面を境目に、左側のダイヤルが手動メニュー、右側のボタンがオートメニュー用に分かれている。わかりやすさと、手作りの楽しみを操作性でも体験できるようにした

  • ロティ用のかごを受け皿にセットするためのカゴ受けはあえて台形になっている。

    ロティ用のかごを受け皿にセットするためのカゴ受けはあえて台形になっている。これはカゴとカゴ受けをセットする左右の方向をユーザーが直感的に理解できるようにするためにあえて採用されたという

調理する楽しみをユーザーに提供するだけでなく、その体験がわかりやすく使いやすいものでもなければならないと、熟考が重ねられた末に誕生した同製品。他にも受け皿にセットするロティ用のカゴのセットの方法を直感的に理解できるような形状を採用するなど調理家電としての使い勝手にも手を抜かず、パナソニックとして初めて作った製品とは思えぬ仕上がりだ。調理を面倒な"ルーティンワーク"というイメージから"エンターテイメント"な体験へと価値観を転換する製品としても、一目置かれるべき存在だ。