シャープが今秋発売した、ドラム式洗濯乾燥機「ES-P110」とタテ型洗濯乾燥機「ES-PU11B」の2モデル。いずれも洗濯容量11キロ、乾燥容量6キロで、同社の各カテゴリー商品においては最上位の新製品だ。扉部分にハーフミラーを採用するなど、どちらのモデルも従来の洗濯機にはない斬新かつ先進的なデザインで、店頭でもひと際目立つ。そんな2つの新製品について、シャープ 健康・環境システム事業本部 デザインスタジオの桑原多美子氏に、デザインの意図や開発秘話などを伺った。
今回、2つの製品に共通するコンセプトとして掲げられたのは、"キレイに、こだわる"。洗濯機は衣類をキレイにする家電製品だが、機能性だけでなく、見た目の美しさや設置場所での佇まい、お手入れのしやすさなどすべてにおいて"キレイ"であることを新製品で目指した。
前述のとおり、新製品の2モデルは、ドラム式、縦型とタイプは違うものの、いずれも扉部分に採用されたハーフミラーと、まるでスマホのような高精細なタッチパネル式の操作が目を惹く。洗濯機としてはいささか挑戦的とも言えるような今回の大幅なデザインの刷新の背景について、桑原氏は次のように語る。
「消費者の間で心地よい暮らしやリビング、インテリアとのマッチングという需要が近年高まってきました。また、弊社としては特にドラム式洗濯機の売り上げを強化していきたいという狙いもあり、思い切ったデザインの要素を取り入れようということになりました」
桑原氏によると、デザイン部門で最初に検討されたのが、これからの洗濯機のあり方。従来の洗濯機は"クリーンデザイン"と呼ばれる清潔さをイメージさせるデザインだったが、家電製品にも空間との調和が求められる傾向にある昨今に必要なのは、"サニタリーファニチャー"との融合であるという結論に至ったという。そこで家電らしさをあえて外したデザインの追求がスタートした。
結果、辿り着いたのが洗面台のイメージだ。洗面所の鏡と陶器の洗面ボウルをモチーフに、艶のある陶器の質感や、汚れをふきとりやすいなめらかな形状といった、サニタリー空間におけるインテリアとしての美しさを洗濯機に取り入れるというデザインの方向性が定まったのだという。
「デザインする上で目指したのは、ミニマムでシームレスであること。ハーフミラーのガラストップの採用以外にも、凸凹のない形状やなめらかな投入口といった要素を実現するために、徹底的に要素を絞り込みました」
しかし、新製品におけるシンボリックなパーツであるハーフミラーのガラストップの採用は、技術的な課題も多く抱えていたという。「技術的に最も苦心したのは、ハーフミラーをどの素材にするかの検討ですね。この部分はタッチパネルにもなっているため、ハーフミラーの素材はどれでも大丈夫なわけではありません。通電性もありますし、乾燥機の稼動時には熱が加わりますから熱伝導性への耐性や剥離に強い素材である必要があります」と桑原氏。そのためハーフミラーの素材は当初のイメージよりも暗い色調になったそうだ。
厚さの検討も重要な事項だ。桑原氏によると、初期のモデルではより薄いデザインだったものの、「内部が基板、LED、リフレクター、タッチパネルシート、ガラスという構造のため、最小限にしても相当厚みが増えてしまった」と明かす。
しかし、こうした数多くの難題を抱えながらも、タッチパネルのキーを美しく光らせるために、リフレクターの深さと色調、拡散性を最後までかなり詰めて検討が重ねられたとのことだ。デザイン面で他にも縦型の場合は薄く見せるために外枠の部分に微妙な傾斜を設け、一部のパーツの色調を変えていたり、ドラムの場合は操作部を見やすくするために設けた傾斜を美しく見せるようにさまざまな角度が検証されたという。
また、ドラム式のハーフミラーのガラスドアには裏面からグラデーション印刷が施されている。周囲の映り込みを抑えるための工夫だが、天面にフタがある縦型の場合は天井面からの光が反射して自然のグラデーションの効果が得られるため採用されていない。今回発売された新製品2機種はデザインモデルという位置付けではなく、従来モデルの後継機としてラインナップすることから、ここまでデザイン面が大きく変わりながらも価格は極力据え置くことを目指したがゆえに、コストとデザイン性を両立する細かな工夫が随所に隠されている。
そのもう1つの例がタッチパネル操作部のLEDライトだ。外観をスッキリと美しく見せるため、そして「洗濯機のボタンが多すぎてどれを押せばいいのかわからない」という操作性の問題を、操作の順番に従って使用するボタンのみを点灯させることで解決を図った。そのために起用されたタッチパネル操作部だが、ホワイトとブルーの2色のライトを採用しているのもこだわりの1つだという。
しかし、LEDも1灯1灯が製品コストに反映する要素だ。今回、ドラム式の製品の操作部で使用されているLEDライトは全部で114灯あり、コストダウンを図るために、「ボタンをタッチすると光の色が変わる部分以外は、モジュールを用いずにシートを張り合わせることで光り方を分けるようにしました」と明かす。
縦型の洗濯乾燥機では、"超音波ウォッシャー"と呼ばれる、昨年単体で発売された製品と同様の付属品を本体天面に装備する。単体の製品では充電をUSB経由で行う方式だが、縦型洗濯機ではワイヤレスで行える非接触式の仕様を採用。この充電部も本体のどの部分に収めるかをはじめ、取り出しの方法などさまざまなデザインが検討されたそうだ。
今回、"サニタリーファニチャー"を起点に、デザインの大リニューアルが図られたドラム式と縦型洗濯機の2モデルだが、ハーフミラーのガラストップとタッチパネルの採用という大きな要素が共通していながら、テイストはそれぞれに異なっているのも印象的だ。桑原氏によると、陶器の洗面ボウルのイメージである縦型に対して、「ドラム式は家具のイメージ。最近はインテリアにウッドや金属などの素材感をストレートに用いているものが多いのでそれに合うようなデザインを心掛けました」とのこと。
洗濯乾燥機の性能や機能だけでなく、デザイン訴求にも力を入れる日本のメーカーが相次いでいる。他の家電製品と比べると、防水パンの規格や給水設備などデザイン上の物理的な制約が多いカテゴリーの製品だが、見た目のデザインの美しさへのこだわりが導く新たな技術革新も含めてさらなる発展が楽しみだ。今回のシャープの洗濯乾燥機の2つの新製品の登場は、それを期待させる好例とも言える。