イタリア発の家電メーカーであり、日本においてはデザイン性の高い家電製品のラインナップから、インテリアにこだわりがある人を中心に人気・支持を集めるデロンギ社。我々日本人にとっては、外国車に抱く印象と同じように、ヨーロッパの家電メーカーという文化や感性の違いから来る目新しさも手伝い、製品のデザインが魅力的に映る面もあるだろう。

しかし、同社の製品を並べて眺めた時、決して形状や色遣いそのものに統一されたフォーマットやアイコニックな意匠のようなものがあるわけではない。スポーツカーのようなクールで先進的なデザインの製品もあれば、フォルクスワーゲンのビートルのような愛らしく親しみやすいデザインの製品もある。それほど印象に差異があるにもかかわらず、人々を惹きつけるものがあるのはどうしてなのだろうか。

デロンギの家電にはいくつかカテゴリがあるが、今回はコーヒーメーカーに着目する

そこで今回は、同社の代表的な製品群の1つとも言える、コーヒーマシンに注目し、同社のプロダクトデザインにおける哲学や神髄について迫った。

デロンギ マーケティング部の古家健氏

イタリアと言えば、エスプレッソをはじめカフェ文化の中心地。そんなイタリアから生まれたメーカーであるデロンギは、古くから業務用を含めた多くのコーヒーメーカーを手掛けている。その中でも豆をセットするだけで計量から豆挽き、タンピング、加圧、抽出、洗浄までのすべての工程をボタン1つで実行してくれる全自動コーヒーマシンとして、日本でも展開されているのが「プリマドンナ」と「エレッタ」と呼ばれる2製品だ。

プリマドンナ

エレッタ

"最高峰の美味しいコーヒーを家庭で"というコンセプトのもと、コーヒーにまつわる機能を1台にすべて詰め込んだ製品だ。もとは業務用の製品で、2メートル近い大きさのある機械を家庭向けに大幅に小型化したという意味で、同社としては非常に画期的な製品だったという。デロンギ・ジャパンでコーヒーマシンを担当する、同社マーケティング部の古家健氏は2製品の特徴について次のように説明する。

「もともと業務用として使われていたものを家庭用にするにあたっては、設置性が重要になってきます。プリマドンナもエレッタも当社としてはどちらもフルスペックのモデルですが、"スリムさ"を重視して設計されたのがプリマドンナです。ただし、スリムにするために給水用のタンクが後部に配置されています。一方、エレッタのほうはプリマドンナよりも横幅はあるものの、給水用のタンクを前面に引き出せるなどすべて前面操作を基本にした操作性を重視し、容量も大きくなっています」

両製品ともに、本体の外観はシルバーを基調としたメタリックな質感をまとった上に、ブラックのアクセントが利いたデザインだ。いかにもマシンらしいデザインとも言えるが、そこにはデロンギ社の製品全般に共通するデザインの思想が反映されているのだという。国内の家電メーカーで製品開発に従事してきた経緯も持つ古家氏は次のように解説した。

「手前味噌にはなりますが、本当にどの製品をとってもデザインがカッコイイんです。その違いはなんだろう? と考えた時、日本の家電デザインとの根本的な違いがあることに気付きました。日本のメーカーはどちらかと言うと機能を前面に出していく方向でデザインされる場合が多いと思うのですが、デロンギの場合は充実した機能というのを、デザイン面においては逆に絞っていくという真逆の志向なんです。本当はハイテクな技術を見た目の上ではコンパクトでわかりやすくしていく。それは使いやすさや使う人のことを優先しているからだと本社のデザイナーから聞き、目から鱗でした」

プリマドンナの操作部

エレッタの操作部

デロンギのそうしたデザイン思想が表れている代表的な部分が操作部だ。古家氏によると、デロンギの全自動コーヒーメーカーはフロントオペレーションを基本に設計されているという。その理由はもちろん操作性のためではあるが、古家氏はこう語る。

「"全自動"=便利な物のはずなのに、操作が複雑でわかりにくかったり、扱いづらかったりすれば、その時点で全自動という本質からかけ離れてしまいます。たとえ操作する人が違っても、どの国、どの世代、誰にでもわかりやすく、かつある一定の動きで操作できるように動線も含めて考えて設計、すべての要素が選ばれています。例えば、2製品の操作部の液晶ディスプレーのバックライトはブルーが採用されていますが、それはデザイン性と視認性を兼ねた上で選ばれたものです」

デロンギの全自動コーヒーメーカーは、各パーツの傾斜にも意味があると古家氏は話す。具体的には、例えばエレッタの本体を横から見た場合に、操作部から下側のパネルが徐々に内側に傾斜している。真っ直ぐ下にストンと落ちた箱型のデザインというのはよくある形状だが、ここに傾斜が設けられているのは、単に見た目の美しさだけのためではないのだという。

エレッタのフロントパネルの傾斜は、使いやすさと審美性を兼ねた意匠だという

「実はこの部分はカップを下にセットする際の置きやすさが考慮されているんです。この部分に傾斜があることで、大きなカップでも小さなカップでも置きやすく、かつ抽出されたコーヒーが飛び跳ねにくく周辺を汚さないような角度が計算されているんです」(古家氏)

プリマドンナとエレッタは、コーヒーメーカーとしては小型とは言い難い。だが、空間に設置した際は不思議なほどにマッチして違和感がなく溶け込む。古家氏はその秘密について次のような分析を語ってくれた。

「デロンギの製品のデザインは、製品のカテゴリーごとではなくて、それぞれの製品がどこで使われるかという"シーン"を想定して、それぞれの場所で追及しているのが特徴です。それゆえにそこに置かれている家具などとともにインテリアとしていかにマッチするかが重要だと捉えています。例えばコーヒーメーカーを例に取ると、大型の全自動マシンは主張が強くなってしまうので周囲の壁となるべく溶け込ませられるよう四角いユニット的なデザインが基本であるのに対して、小型のエスプレッソマシンやカプチーノメーカーは、カラフルでデザインも象徴的で逆にインテリアのアクセントになるようなものを多くラインナップしているのがお分かりいただけると思います」

プリマドンナの設置イメージ。キッチンに置いたときの調和も考えてデザインされている

最後に古家氏が明かした、デロンギ社がデザインで大切にしていることは、"変わらない良さ"だという。

「普遍性があって、飽きのこないデザインとも言うことができますが、操作性も含めてどの年代でも受け入れられるようなものを目指している、と本社の担当者からは聞いています。デロンギの製品にはシックでクールなものから愛らしく親しみやすいデザインのものなどさまざまなものがラインナップしていますが、彼らに『ブランドに共通するデザイン哲学は何か? 』と訊ねると、"イタリアニティー"だと返ってきました。日本語にすると"イタリアらしさ"と言い表すことができますが、昔から存在する文化であったり歴史的背景であったり、イタリアに古くから根付いたものと同居するものを目指しているということだと思います」(古家氏)

コーヒーメーカーのラインナップ(一部)。形状やカラーバリエーションなど、機能によってさまざまに取りそろえられている

我々がなんとなく感じていたイタリアンブランド・デロンギ製品のデザインの魅力。我々日本人にとっては斬新に見えるそのデザインは、実は本国においてはどちらかというと"伝統"を重んじたものであることを知り、意外だった。それは来日する外国人が新しいものよりも日本の伝統工芸品や文化を魅力的に思う感覚とも共通しているのかもしれない。