(前編から続く)
シャープが今春初めて市場参入したサーキュレーターの新製品「プラズマクラスターサーキュレーター PK-18S01」。性能だけでなく、インテリアと調和する洗練されたデザイン性の高さからも人気を集める製品だ。前回に続き、本製品へのデザインへのこだわりを中心に、開発秘話を担当者に伺った。
本製品のサーキュレーターの意匠として特徴的なのが、送風部が台座から宙に浮いたように見えるデザインが挙げられる。同社デザインスタジオ デザイナーの岡勇樹氏によると、特に工夫したのは"アーム"だという。
「下吹きも出来る自在な首振り性をユーザーに感じて貰えるように送風部が浮いたように見せるデザインを心掛けました。送風部の浮遊感の表現にあたり、送風部と台座部を繋いでいるアームの構成を工夫して台座を小さく見せることに挑戦しました。市場では、アームが送風部の左右から地面に向かって真っすぐ伸びて行き、台座の側面につながる構成やアームと台座が一体化した構成をよく見受けますが、これらの構成では送風部より下の台座が大きくなるため、本体サイズをより大きく感じてしまうことで送風部の浮遊感を表現しづらいことに気が付きました。そのため、今回のサーキュレーターではアームを台座の天面に向かい馴染ませる構成にすることで、アームのスリム化と強度を両立しながら台座をコンパクトにまとめて送風部の浮遊感を表現し、首振りの自在性や置きやすさを体現するデザインへと至りました。ただ、台座をひと回り小さくしようとすると、中に収める基板にも影響するので、このバランスを見極めるのが難しかったです」
台座の部分は、当初は実は“ハ“の字のデザインだったそうだ。「設計部門から内蔵部品をおさめつつコンパクト化が難しいと言われたため、現在の逆ハの字の形状に変更しました。
しかし、その結果、アームが台座になだらかに刺さるようなデザインとなり、見た目にも強度的にも丈夫な印象になりました。アームを細く見せつつも、華奢すぎず丈夫さも見せなければならないという課題解決にもつながり、この部分も"機能美"と言える1つですね。アームの内部にはコードも通さなければならないため、厚み感を薄く見せるために、断面形状を数ミリ単位で設計部門と調整しています」
今回のアーム部でイメージされたのは"鉄器"だという。「製品全体のやわらかな造形に合う、丸みを帯びつつも堅牢な鉄器のようなデザインを意識しました。しっかりとした堅牢感を表現しつつ、送風部の浮遊感を阻害しないように、アームと送風部とのすき間やアームの外側と内側のパーツが合わさる部分のライン、パイプの部分の太さなども細かく調整しています」と岡氏。
カラーは、アッシュブラックとライトグレーの2色を用意。白物家電と呼ばれるカテゴリーに属するサーキュレーターのカラーはホワイト、または昨今はブラックも増えているが、そのどちらでもない色を採用した。これは、商品企画担当の同社プラズマクラスター・ヘルスケア事業部 国内PCI商品企画部 参事の馬場木綿子氏によると、次のような理由からだ。
「どちらもグレーが基調なのですが、ホワイト寄りとブラック寄りのニュアンスの異なるカラーを選定しました。今までの他の白物家電と同様に、ホワイトを用意したほうがいいという意見もありましたが、真っ白ではないけれど清潔感があって、インテリアになじみやすい色で最終的にライトグレーに落ち着きました」
また、岡氏は「インテリアのトレンドを調査していくと、グレー基調の落ち着いた空間が増えているとわかりました。そういったリビングや小部屋にも組み合わせやすい2色を採用しました」と補足した。
本製品のもう1つの特徴として、工具を使わず前後のガードとファンの部分を分解できることが挙げられる。さらに、取り外したパーツは水洗いが可能だ。
「まずはできるだけシンプルにするということに注力し、手ネジや余計なツメをつけたりせずに、取り外しと取り付けが簡単に行えるように設計しました」と馬場氏。
さらに、ユーザーが分解してお手入れすることを想定した、知られざるデザイン上のこだわりを次のように明かしてくれた。
「普段は外側からあまり見えませんが、送風部の内側のファンモーターの留め具や前グリルの内側にある部品に細かな凹凸のパターンを入れています。お手入れする際に目に入るこれらの内部部品の仕上げもこだわることで、製品を少しでも魅力的に感じて頂けたらと思っています。他にも、フロントグリルや後ろ側のグリルの格子の形状やピッチ(間隔)など、高品位な時計の文字盤などを参考にしながら前ガードの中心部を滑らかにくぼませたり、後ガードでは格子が中心でぶつからない形状にしており、単調な放射線状の格子に見えないように意識してデザインをして送風へのこだわりをそれぞれ表現しています。開発メンバーが注力したネイチャーファンを基点とした送風へのこだわりを製品をご覧になる方たちに少しでも多く伝えることができれば幸いです」(岡氏)
本製品を空間に実際に設置した際、ユーザーはなんとなくセクシーな佇まいを感じるだろう。そう感じる理由が、実際にこうしたパーツ1つ1つへのこだわりにあったのだと知ると、製品への感銘がより深まるに違いない。