クラウドファンディングサイト「Makuake」での先行発売を経て、2023年3月末に発売となった「アラジン コーヒーブリュワー ACO-D01A」。
ベストセラー暖房器具「ブルーフレームヒーター」や、トースターカテゴリで存在感を放つ「グラファイトトースター」などで知られる「アラジン」ブランド初のコーヒーメーカーだ。
“トーストに合う理想の一杯”を追求した同製品の開発秘話について、日本エー・アイ・シーの担当者に話を聞いた。
発売延期は「安定したおいしさ」のため
当初、コーヒーブリュワーの発売は2022年春の予定だったが、「クオリティ向上」を理由に約1年の延期を発表した。
日本エー・アイ・シーの企画本部 商品戦略課 課長の高橋弘真氏によると、「(2021年7月に)製品を発表した時点で差し湯の方式も決まっていて、外観も仕様も変わっていません。ですが、内部構造を大きく変えました」とその理由を語る。
開発途中で課題となったのは「味の安定性」と、同課の片山幸二氏が続ける。
「(延期前のコーヒーブリュワーには)冬場、ぬるくて味が薄くなってしまうという課題がありました。常温、冷凍など、粉の保管状態によっても味が変わってしまうので、周辺の温度に左右されず、粉の成分を効率よく引き出す方法として、スチームを発生させて粉とドリッパーを温める方式を採用することにしました」(片山氏)
コーヒーブリュワーでは、抽出したコーヒー液に差し湯をして調整する「バイパスドリップ」方式を採用。差し湯式コーヒーの老舗として知られる北海道の珈琲店「珈琲きゃろっと」と共同で開発。その手法を機械で再現、自動化することを目指した。
スチームで温める工程を増やすため、差し湯のルートに加えて、スチーム用のルートを急きょ増設。しかし、そのことで本体サイズを大きく変えるわけにはいかず、限られたスペースの中で実現しなければならなかった。
「スチームのためにボイラーでお湯を沸かす方法も見直し、ボイラーを小さな物に変更するため、部品の発注先まで変えました。また、ボイラーを小さくしてもコーヒーのレシピが同じになるように、プログラムを大幅に変更しています」(高橋氏)
「バイパス方式」という差し湯を行うコーヒーメーカーとしては、最近ではバルミューダの「BALMUDA The Brew」(2021年9月発売)が思い起こされる。消費者としては、両者の違いも気になるところだ。アラジンとバルミューダのコーヒーメーカーの違いに関して、片山氏はこう語った。
「まず、差し湯の加減が大きく違いますね。弊社は『トーストに合うコーヒー』を目指して、抽出の前半で濃厚なコーヒー成分を出し、後味をスッキリさせるための方法として差し湯を行っています。アイスコーヒーやカフェオレ用の『デミタス』モードを除き、必ず差し湯を行っています」(片山氏)
ちなみに、バルミューダのThe Brewの場合、差し湯を行うのは「REGULAR」モードのみで、「STRONG」モードでは差し湯を行わない。
片山氏によれば、コーヒーブリュワーのコーヒー抽出液と差し湯の割合は、『クリア』モードでコーヒー35%:差し湯65%、『マイルド』モードで50%:50%、『ストロング』モードで70%:30%とのこと。
もうひとつ、バルミューダの製品と違うのはドリッパーの素材。アラジンはドリッパー部分を金属で作った。片山氏は、その理由をこう語る。
「衛生面の観点から、金属製を採用しています。お手入れしやすい上に、ニオイ移りも防ぐことができるため、試作段階からドリッパーは金属製にすると決めていました。金属臭が気になるため、ステンレスのグレードまでこだわって選定しています」(片山氏)
ドリッパーに関して、素材に加え「リブ」という溝の部分にも力を入れた。
「リブは(ドリッパーの)下の部分にしか設けていません。リブが上部まであると抽出のスピードが速くなり、コーヒーが薄くなってしまいます。コーヒーを濃く抽出することが肝となる弊社のコーヒーメーカーでは、下だけにリブを入れることで調整しました。リブの長さや高さ、数など何パターンも作って検証を重ねています。ドリッパーの穴の部分である、バッファーの調整も苦労しました。
おいしいコーヒーを抽出するには、粉とお湯が触れている時間が重要なのですが、滴下する量や範囲を調整するために、9個の穴の高さを微妙に変えています。材質や穴の大きさでも、お湯の出方が全然違ってきます。珈琲きゃろっとの店主も『バッファーの方式が素晴らしい。自分で淹れるよりもおいしい』と太鼓判を押してくれました」(高橋氏)
1杯ずつ抽出するスタイルは「満場一致」で決定
抽出したコーヒーを受ける器に関して、複数人分を一度に淹れるサーバー式ではなく、1杯ずつカップに直接抽出する方式に限定したのも気になるポイントだ。容量もレギュラーカップサイズ(約130ml)とマグカップサイズ(約250ml)の2択のみという思い切った仕様のため、社内でも議論となったポイントと思いきや、予想に反した答えだった。
「弊社のトースターで焼いたパンに合う“とっておきの一杯”を目指すのが当初からのコンセプトでしたので、『大容量のサーバーも保温機能も不要』とすぐに一致しました」(片山氏)
外観は、個性的なフォルムの一般的なコーヒーメーカーとは一線を画したデザインだ。高橋氏によると、「デザイン案の段階からおおよそ固まっていた」とのこと。「弊社の場合は性能やおいしさを重視するため先に内部構造や性能面が固まって後から肉付けがされていくパターンが多く、今回もそのパターンですね」と明かす。
コーヒーブリュワーは、「トーストと相性のいいコーヒーを淹れること」を目指して作られた。デザイン上のコーディネートも通常以上に重要な要素となる。「アラジン」ブランドの意匠として意識されたポイントについて、高橋氏は次のように語った。
「まずはシンメトリーなフォルム。そして、丸みのあるデザインですね。弊社では『アラジンカーブ』とも呼んでいる象徴的なデザインです。操作部をアナログ感あるメッキ調のダイヤル式にしたのもシンボリックなこだわりといえますね。
今回、ブランドロゴのランプマークをダイヤルの中心にデザインしているのですが、ダイヤルを回してもマークの向きが変わらないように、外側と真ん中で部品を2つに分けています。また、弊社の製品ではシボ加工を入れて表面をマットに仕上げる製品が多いのですが、今回はコーヒーのしずくが飛び散ることを想定して、(掃除しやすい)鏡面仕上げも取り入れています」(高橋氏)
本体色は、シンボルカラーであるグリーンの他にブラックを選定。その主な理由もコーヒーメーカーの製品特性にあった。
「コーヒーの着色を気にするユーザーもいらっしゃるので、白は(カラー展開から)外すことになりました。コーヒーメーカーではブラックが一般的で、購入層のインテリアの嗜好からも好まれやすいカラーとして選びました」(高橋氏)
本体サイズは、幅約15.5×奥行25.4×高さ41.4cm。同容量のドリップ式のコーヒーメーカーとしては若干大きめではある。
しかしながら、開発陣が「トースターの横など、キッチンにも置きやすい形状に仕上げている」と話すように、ボディが縦長のせいか、印象としては実数値ほどの大きさを感じさせない。内部構造を変更する前の試作機と並べてみてもいくらかスリムにも見えるが、サイズ自体はむしろ大きくなっているという。
「内部構造の変更により、実は20ミリぐらい大きくする必要があったのですが、設計部門でなんとか10ミリの拡張に収めてもらいました。縦横比が変わったことで、見た目の印象はスリムになりました。
カップ受けのトレーの高さを変えられるようにしているのですが、そのために設けた差し込み用の穴がデザイン上のアクセントにもなり、全体的に引き締まった印象にもなりました」(高橋氏)
付属品にも一工夫、こまやかな配慮でファンをつかむ
アラジンの製品と言えば、ちょっとしたアイディアや遊び心を忍ばせた付属品も、コアなファンから支持されている。今回は、コーヒー粉を量る計量スプーンがそれにあたる。力を入れた部分について、片山氏は次のように説明した。
「コーヒーの粉をすくった後、量を調整するためにスプーンを傾けますよね。それならば、最初から目盛り線を斜めにしておけば、そのまま計量できてスムーズなので、そのように設計しました」(片山氏)
なんとも目から鱗のアイディアで、「アラジン」ファンの心をくすぐる、機能美とも言える密かな工夫とこだわりだ。
他にもドリッパーが自立する設計や、カウンターに置くことを想定して、背面の水タンクを左右横からセットしやすいように、縦方向にハンドルを設けるなどユーザビリティーに対してもきめ細やかな配慮を欠かせない。
本質的な性能や機能の品質を充実させるだけでなく、毎回毎回、消費者の心を躍らせる遊び心や、気の利いたしかけをひっそりと忍ばせた製品を作り上げている「アラジン」ブランド。
コーヒーメーカーというシンプルな製品でありながらも、今回も決して期待を裏切らない完成度だ。この次はどのようなカテゴリーの製品を、アラジンらしいスタイルで魅せてくれるのか、早くも楽しみである。